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「ホンダの総力の結集」をF1責任者が語る。前半戦2勝は予想以上

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2019年08月26日 07:52  webスポルティーバ

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 2019年のシーズン前半戦、ホンダは「2勝・表彰台6回」という成績で終えた。レッドブルと組み、トロロッソとあわせて2チーム供給を開始した初年度の前半からこれだけの成績を挙げることができたのは、開幕前の状況を鑑みれば期待以上の結果と言うべきだろう。

 ホンダがパワーユニットの信頼性を確保してレッドブルの車体性能を持ってすれば、優勝争いに絡むことは十分に可能だというのがレッドブル・ホンダ陣営の当初の目論見だった。しかしフタを開けてみれば、レッドブルはフロントウイングを主とした新レギュレーションへの対応を誤り、車体面でのアドバンテージを失っていた。

「今までのレッドブルは車体の戦闘力が非常に高かったわけですが、バルセロナ(合同テスト)でフタを開けてみれば、『あぁ〜、やっぱりトップとはこのくらいの差があるんだな』というのが現実として数値化されて、そこから追い付け追い越せで開発をしてきました。0.5秒の差を0.4秒や0.2秒にするのと、0.1秒の差をゼロにするのとでは難しさがまったく違います。そんななかで大きな差がついていました」

 そう語るホンダの田辺豊治テクニカルディレクターも、やはり、酷暑のオーストリアGP(第9戦)と雨のドイツGP(第11戦)で計2勝を挙げることができたのは予想以上の結果だった、と振り返る。

「シーズンがスタートして半分が過ぎた今、車体とパワーユニットの総合的なパッケージ性能としてそれ(メルセデスAMGとの差)が詰まっているとも思いませんし、そんなに簡単なことだとは思っていません。(暑さや雨という)いろんな条件のなかではありましたけど、2勝できたというのは予想していなかったことですし、予想よりもいい結果というのが私の気持ちです」

 第5戦・スペインGPと第8戦・フランスGPの大型アップグレードに加えて、第9戦・オーストリアGPに1台分だけ間に合わせた新型フロントウイングで、レッドブルはようやく車体性能の抜本的改善を果たすことができた。

 一方でホンダは、開幕仕様のスペック1にはICE(内燃機関エンジン)に信頼性懸念が見つかり、第3戦・中国GPでダニール・クビアト車にトラブルが発生したのを受けて、第4戦・アゼルバイジャンGPにすぐさまスペック2を投入。ただし、これはトラブル対策を施しただけで、性能は向上していなかった。それでも耐久性が向上したことで、決勝でよりパワフルなモードをより長く使用できるようになったことも確かだった。

 そして第8戦・フランスGPには、ホンダジェットの技術を投入したターボチャージャーを含むスペック3を投入。いよいよ性能向上を果たしてきた。

 ラージプロジェクトリーダーとしてパワーユニット開発を統括するHRD Sakuraの浅木泰昭執行役員は、スペック3についてこう説明する。

「昨年型ではMGU-H(※)の軸受け部分を直すのにホンダジェットの技術で助けてもらいましたが、今回は空力設計部分に協力してもらってターボの効率を改善しました。IHIさんと一緒にやっているターボのタービンやコンプレッサー、つまり羽根だったりカタツムリの部分だったり、空気が流れる部分をベースに、航空機エンジンのノウハウで、より少ないエネルギーで高い圧力・差圧を出したり空気流量を出したりといった改良を、さらに加えた形ですね」

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 ターボ効率の改良というのは、一見するとピークパワーにさほど影響がないように思われがちだ。だが、限られた燃料流量と回転数、回生エネルギー容量のもとで効率勝負となっている今のパワーユニット開発においては、重要な意味を持つ。

 そして何より、これによって得られたのは、気象条件に左右されることのない安定した性能だ。

「パワーを上げればICEからの排圧が下がってターボが回らなくなるのを、ターボ効率を上げることで(排圧低下の影響を気にせず)パワーを上げるという使い方と、ターボが回る分(そこに連結した)MGU-Hの回生量を上げる使い方と、その両方をやる中間的な使い方があります。

 それを、どちらにどのくらい配分するか。回生量をそんなに必要としないところでは馬力に変えるし、回生量を増やす方にも使える。燃焼系の性能は気象条件によっても変わってきますが、工学的な改良は気象条件に左右されることなく安定して、それだけ馬力が上がるんです」

 そもそも、F1復帰当初からホンダは、MGU-Hの信頼性に泣かされ続けていた。

 とくに、メルセデスAMG型のレイアウトを採用してターボのタービンとMGU-Hを結ぶシャフトが長くなってからは、高速回転するシャフトのたわみと、それを受けるベアリングの耐久性不足が大きな課題であり続けていた。

 それを打開したのが、ホンダジェット部門のシミュレーション技術だった。

 毎分10万回転で回る長いシャフトは、自動車の分野では存在し得ないものだが、航空機のジェットエンジンでは珍しいものではない。さらに人命を預かるがゆえに絶対にトラブルが許されない航空業界、そして5年・10年という長いスパンで製品化していく業界であるがゆえに磨かれたシミュレーション技術の高さが、F1用パワーユニットのMGU-Hの解決策を瞬く間に提示した。

「軸受けにしても、シャフトにしても、彼らからの提案を受けて設計して一発目からよくなったりすると、彼らの力やシミュレーション能力を認めざるを得ませんよね。彼らとしても、10年に1回世に出すような長いスパンで開発をやっていますから、失敗が許されない。よって、シミュレーション能力が非常に発達しているんです。そういうのを目の当たりにすると、HRD Sakuraでやっていたメンバーも、『これは彼らに頼ったほうがいいな』というふうに気持ちが変わってくるわけです」

 当初はHRD Sakura側にも、他部署に頼ることをよく思わない向きもあった。だが、自分たちにない知見を持った他部署が成果をもたらしてくれるとなれば、技術者として認めざるを得なかった。5年も10年も世に出ない期間の長い開発に従事している他部署の技術者たちもまた、F1のように極めて短いスパンで成果が問われる場所で結果を出していくことが成長につながった。

「HRD Sakuraの数百人だけで戦うのではなくて、ホンダの研究所全体から必要な人材・知見を持ち寄ってF1を戦うべきだ、という姿勢でやってきた。そういう意味では、私も田辺もその一環として、世界に散らばっているホンダの人材のなかから(適材適所で)HRD Sakuraに集結したと言える。MGU-Hにしても、当初はその知見がなくて苦労したけれど、実はホンダの社内にその知見があったわけです」(浅木執行役員)

 ホンダジェットのみならず、現在ではさまざまな部署との連携も進んでいるという。

 普通の企業ならば、縦割りの部署同士の連携は、そう簡単にできるものではない。ましてや、HRD Sakuraと和光や栃木など、別々の場所にある組織だ。

「『このクソ忙しいのになんだ』という反応も覚悟していたんですけど(苦笑)、いざやってみると、彼らも10年単位でやっていて、25歳の時に研究を始めて35歳で世に出るような仕事をやっている人たちだから、シミュレーションがどのくらい当たっているかどうかがすごく速いサイクルで実証できるので、今となってはF1の短いサイクルの仕事に携わって『お互いよかったね』という話になっています。

 長いスパンの開発だけをやっていると、気持ちの維持も大変です。ですから、F1みたいに短いスパンでやって結果が出ることは、やり甲斐があると言ってくれています。F1という旗印の下だからこそ、各開発センターのセンター長たちが協力してくれた、というのはありますね」

 まさに、ホンダの総力を挙げての戦いが始まり、その成果が結果に結びつき始めたのが、この2019年シーズンというわけだ。

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