『ノーサイド・ゲーム』エース引き抜きに大泉洋が下した決断 社会人ラグビー特有の問題とは

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2019年08月26日 10:31  リアルサウンド

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『ノーサイド・ゲーム』(c)TBS

 日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)第7話が8月25日に放送された。


参考:眞栄田郷敦、アストロズ入りへ 『ノーサイド・ゲーム』山崎紘菜らラグビー女子にも注目!


 トキワ自動車アストロズのGMとして、会社員人生を賭けて2年目のリーグ戦に挑む君嶋(大泉洋)。新人・七尾(眞栄田郷敦)の加入もあり、昨季以上の躍進が期待されるところに、降ってわいたような移籍話がチームを襲う。ライバル・サイクロンズが中心選手の浜畑(廣瀬俊朗)と里村(佳久創)に触手を伸ばしたのだ。


 「夢はアストロズで優勝すること」と言う浜畑は残留を決断するが、日本代表としてワールドカップと欧州リーグを目指す里村はサイクロンズへの移籍を選ぶ。ライバルチームによるシーズン直前のあからさまな妨害に対して、君嶋が取ることのできる手段は移籍承諾書(リリースレター)を発行しないことだった。


 「選手だったら誰だって良い環境でプレーしたいものだ」とアストロズ監督の柴門(大谷亮平)が語るように、里村の思いはスポーツ選手なら当然の感情ではある。第6話では、君嶋が本社への復帰を断り、アストロズのGMとして府中工場に残ることを決意したが、それはあくまでサラリーマンとしての判断だった。チームメイトからすれば、裏切り者を許せないのは当然として、里村の選択も理解できるだけに胸中はより複雑。君嶋と選手たちがどのような決断を下すのかが注目された。


 最終的にアストロズと君嶋が下した判断には、勝ち負けを超越したラグビーのスピリットが凝縮されていた。ライバルチームに移籍する里村を単純に裏切り者ととらえるのではなく、葛藤を抱えたひとりの人間として描くことで、選手同士の絆の強さが浮かび上がる。また資金力がある有力チームに選手が移籍することで生じる波紋は、アマチュアとプロが混在する社会人ラグビー特有の問題を活写していた。


 社会人ラグビーを舞台とする『ノーサイド・ゲーム』だが、これまでも日曜劇場の同枠では、池井戸潤原作の社会人スポーツを題材にしたドラマが制作されてきた。『ルーズヴェルト・ゲーム』の野球や『陸王』のマラソンと比べると、ラグビーは団体戦、なかでも接触プレーのイメージが特に強い。頭脳プレーもあるが、スクラムを組んでの真っ向勝負はラグビーの魅力のひとつであり、闘争心が全面に出る場面でもある。加えて、フェアプレーを重んじるラグビーの精神も相まって、圧倒的な熱量の反面、どうしても生真面目で暑苦しくなってしまう傾向は否めない。


 『ノーサイド・ゲーム』のおもしろさは、この熱量を回避するのではなく、あえて正面突破する意外性にあると思われる。元日本代表や現役トップリーグ所属選手が多数出演し、ラグビー選手がラグビー選手を演じるというのも、他のスポーツにないラグビー特有の空気感を醸成することに貢献しており、ラグビーに魅了された君嶋の家族はラグビーとともに進んでいく。その上で、企業スポーツのビジネスとしての側面に切り込むことで、これまでにない新機軸を提示することに成功した。


 奇しくも、放送前日の8月24日は「ラグビーの日」だった。ラグビーワールドカップ2019日本大会を前に、今作の盛り上がりと呼応するように、ラグビーを扱った名作ドラマ『泣き虫先生の7年戦争 スクール☆ウォーズ』(TBS系)のDVD-BOX発売とParaviでの配信も決定した。35年前に放送され一大ブームを巻き起こした同作と『ノーサイド・ゲーム』を見比べてみるのも、おもしろいかもしれない。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/twitter


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