『ザ・ノンフィクション』、『24時間テレビ』の裏で放送した障害者ドキュメントの意味

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2019年08月27日 19:12  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。8月25日放送のテーマは「ある日 娘は障がい者になった 〜車椅子のアイドルと家族の1年〜」。事故で車いす生活となった仮面女子・猪狩ともかが再びステージに立つまでの日々を追っている。

あらすじ

 研修生を経て25歳で激しいパフォーマンスが売りのアイドルグループ・仮面女子の正規メンバーとなった猪狩ともか。それからおよそ1年後の2018年春、レッスンへ行く途中に、強風で倒れてきた湯島聖堂(東京・文京区)の看板の下敷きになってしまう。この事故で、脊髄を損傷し車椅子生活を送ることになる。家族の支えや事務所の協力もあり「車椅子アイドル」として復帰し、世間の注目を集める一方で、「見世物」など心ない中傷も受ける。後遺症の体調不良もある中、それでもステージに立ち続け、さらに自分の活動を支える父親の負担を減らそうと、自身も車の運転を始める。ともかは、バリアフリー対応の神社へ家族旅行に出かけるなど活動的に日々を過ごす。

障がい者は明るく、前向きでないといけない?

 ともかは番組内でほぼ笑顔だったが「(自分は)明るいところしか出しちゃいけない気がして。うまくマイナスのものが吐き出せなくなっちゃって。明るくいなきゃとか。嫌な自分がいっぱい出てきてるんですよね、最近」と一度だけ涙す

 アイドルだから、そして、たくさんの人に支えてもらい生活しているのだから「マイナスな感情を出してはいけない」と考え、苦しんでいるのかもしれない。不慮の事故で車いす生活になっただけでもつらいはずなのに、こうした呪縛にまでかかっているのだ。そして、これは少なくない障害者の胸にも刺さっている“第二の矢”なのだろうかと思う。合宿に途中参加するも、リハーサルの最中に体調不良で嘔吐し、仮面女子の元気な歌がずっと聞こえ続ける体育館の片隅で、布団にくるまり寝ているともかの無念を思うと切なかった。

 今回の放送は、裏で日本テレビが『24時間テレビ〜愛は地球を救う〜』を放送していたが、『24時間テレビ』における障がい者の報じ方は美談調が多く、それに対する批判も多い。一方ここ数年、NHK Eテレの情報番組『バリバラ』は『24時間テレビ』の裏で「検証!『障害者×感動』の方程式」「2.4時間テレビ 愛の不自由、」といったテーマを掲げ、障害者の“本音”を伝える内容をぶつけて放送している。

 『24時間テレビ』への批判は私も同調するところはあるし、尺稼ぎにしか見えないマラソンはなくして『12時間テレビ』にすればいいのにとも思うが、一方、毎年約8〜9億円ほどの募金を集めているという実績もある。そしてホームページでは、その使い道も詳細に報告されている。

 特にネット上では、『24時間テレビ』にしらけている人ほど意見を発信する傾向があるため批判的な反応が目立つものの、実際は、美談に涙する人や、走るいとうあさこを見てコンビニにおつりを募金する人が多数存在し、それが相当な金額になっている現実がある。

 美談と本音、どちらか一方のみが「正解」ではないが、選択肢があるのは“豊かさ”といえるだろう。その点で『24時間テレビ』と『バリバラ』は、いいコンビともいえる。そして今年はさらに、ともかがいた。

 ともかの番組内容は、美談や本音ともまた違い、淡々と日々を追っていた。脊髄損傷になると尿意も感じなくなり、数時間おきと決めてトイレへ行かないといけないことや、原因のわからない体調不良にもなること。バリアフリー化が進んでいるとはいえ、電車などの公共交通機関は車椅子生活では気兼ねしたり、不便なことも多いということ。これらは、すべて今回番組を通じて知った。

 今回『ザ・ノンフィクション』がともかの回を『24時間テレビ』の裏に当てたのは、きっと『バリバラ』同様に“狙った”のだろう。その結果、日テレ、NHK、フジテレビの3局が8月25日に障害に関する番組を放送した。この“超党派”によって、これまで「明るいところしか出しちゃいけない」番組しかなかったところから、そうでない伝え方ができている。数が増えれば、またさまざまな伝え方が増えていくはずだ。

 『24時間テレビ』が放送される8月は、日本人にとって原爆が投下された終戦の月であり「戦争」をテーマにした番組が多く放送される月でもある。気が重い、暗くなる、つらい、と避ける人も多いし、私自身見ないことの方が多い。それでも、それら番組によって「今年もこの時期が来た」と戦争についてわずかでも思いを馳せることはあるだけに、その流れだけはなくなってほしくない。

 『24時間テレビ』は8月の最終週の週末に放送されることが多い。そして、それに合わせ他局が障害の番組を同日に放送する流れが今後さらに加速していけば、8月が戦争の困難の中生きた人や命を落とした人に思いを馳せるのと同様に、今、障害を抱え、困難の中生きている人に対して思い、考える月になっていけるのかもしれない。

 次回の『ザ・ノンフィクション』は「母さん 帰ってきてほしいんだ 〜フィリピンパブ嬢の母とボク〜」フィリピンパブで働く女性とその客である日本人男性の間に生まれた2人の青年による漫才コンビ「ぱろぱろ」。同じ境遇の2人が抱えるそれぞれの家族の問題について。

石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂

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