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ピクサー作品の“魔法”に隠された努力と研鑽 小野寺系が『PIXARのひみつ展』から紐解く

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2019年09月03日 18:01  リアルサウンド

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写真『PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス』(c)Disney/Pixar
『PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス』(c)Disney/Pixar

 「高度に発達した科学は、魔法と見分けがつかない」(クラークの三法則)という言葉があるが、近年のCGアニメーション作品を見ていると、まさに「魔法としか思えない」と感じる瞬間が何度もある。どうやってこのようにリッチでアーティスティックな映像を表現しているのか、一般の観客には理解できない境地にまで発達してしまっているのだ。


(関連:日本のアニメはなぜフルCGを忌避し“ハイブリッド”な画面づくりを続ける? その理由を読み解く


 『トイ・ストーリー』(1995年)によって、史上初めてフルCGによる劇場アニメーション作品を完成させ、映像表現の進化を牽引してきた、ピクサー・アニメーション・スタジオは、業界のなかで、そんな“魔法”を操ってきた代表的存在である。そんなピクサーのアニメーション製作の秘密を、様々な展示によって理解することができる展覧会、『PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス』が、六本木ヒルズ展望台 東京シティビューで開催中だ。


 ここでは、展覧会を取材した内容を紹介しながら、ピクサーが生みだした“魔法”とは、どのようにして作られているのかを明らかにしていきたい。


 展示では、キャラクターの造形から映像作品が完成するまでの工程を、カギとなる8つのセクションに分け、それぞれの作業の中身を、具体的に学ぶことができる。とはいえ、それをただの“お勉強”として伝えるのはピクサーらしくない。本展では、ただ情報を与えるだけでなく、子どもから大人まで楽しめるように、鑑賞者自ら、各セクションのCG製作を“直感的に”体験して楽しむことのできる展示がたくさんあるのだ。


 CGアニメーションは、まず動かすためのキャラクターがなければ、どうにもならない。というわけで、最初はキャラクターのかたちを作り上げる「モデリング」を行うことになる。ピクサーでは、データ上だけでなく実際にキャラクターの立体物を造形して、現実と仮想世界のなか、両方の空間に存在し得ることを確認し、それぞれ調整を繰り返しながら、かたちを決めていく。


 展示には、『バグズ・ライフ』(1998年)のイモムシ・ハイムリックや、『モンスターズ・ユニバーシティ』(2013年)の一つ目モンスター・マイクなど、実際に製作されたキャラクターの造形物にくわえ、パーツを組み合わせることで独自のキャラクターを作ることができる作業台や、バーチャル的な三次元空間に点を配置して立体的なかたちを作り上げる展示が並ぶ。


 このように、キャラクターのかたちが決まったら、そのデータは「リギング」の工程に運ばれ、関節や表情など、稼動する部分のデータを追加、さらに次の工程である「サーフェイス」、表面の質感を表現するセクションへと移動する。こうやってキャラクターが実在感を持ち、演技ができる準備が整うのだ。


 「モデリング」、「リギング」、「サーフェイス」……。このような工程それぞれに、資料と、それらの製作を体験できる展示が並んでいるので、鑑賞者は頭と体、両方でアニメーションができるまでの流れを実感できるというわけだ。もちろんそれは、この後のセクションでも同様である。


 さて、キャラクターが完成したら、次は「セット&カメラ」のセクションへ。ここでは、キャラクターが動き回る空間の創造と、映像としてそれらを切り取っていくカメラワークを学ぶことができる。そこからさらに、その空間と構図のなかでキャラクターを動かして演技をさせる「アニメーション」の工程へと移っていく。


 その後の「シミュレーション」では、コンピューターによる製作ならではの表現を目の当たりにできる。『メリダとおそろしの森』(2012年)では、主人公・メリダの髪の毛と、その繊細な動きが印象的だった。メリダが動いたり、風が吹いたりといった様々な場面で、彼女の髪の毛が自然な揺れを見せるのは、いちいちアニメーターが動きをつけているわけではない。コンピュータープログラミングによって、自動的に動作する仕組みが作り上げられているのだ。他にも、川が流れる表現や、キャラクターが身にまとっている衣類の動き、『ファインディング・ニモ』(2003年)の背景で動き回っている魚群などが、「シミュレーション」によってできている。


 そして、雰囲気を高めたり、作品に情感を与えるのが「ライティング」のセクションだ。CGによって出来上がったセットやキャラクターに、様々な色合いのバーチャルライトをあてることによって、全く異なる印象を観客に与えることができる。


 最後の工程は、「レンダリング」。映画に使用する、いままでのすべての工程を総合した超大容量のデータを、二次元のピクセルデータに置き換えて、おびただしい数の画像をコンピューターによって計算させ、データを変換していく。これによって、ついに“映画”になるというわけだ。


 劇場長編第1作『トイ・ストーリー』の頃から、コンピューター自体も進化を遂げ、以前は1時間を要した処理を、1秒間でこなせるようになったのだという。だが、それで楽ができるようになったかというと、むしろ逆かもしれない。ピクサーは、その進化にあわせて、より詳細で繊細な表現を目指すこととなったのだ。『カーズ2』(2011年)の舞台の一つである、イタリアの観光地をモデルにしたポルト・コルサの街全体を映し出したシーンでは、スタッフから「悪夢」という言葉が飛び出すほど、処理しなければならない膨大な情報量があったのだとか。


 すべてのセクションには、実際に作品を製作した、ピクサーの各部門のスタッフたちが、それぞれ自分の担当する仕事や、自身のパーソナリティなどを語る、映像展示が用意されている。そのすべてを見るだけで1時間以上かかってしまうが、この動画によって、より詳しくピクサーの仕事を知ることができるだろう。ここで感じるのは、アニメーション作りのための、圧倒的な努力と研鑽である。


 各セクションの様々な人種・性別によるスタジオのスタッフたちは、それぞれにおそろしく優秀で、深い専門知識とユーモアを持ち合わせている。ピクサーのテクニカルディレクター、マイケル・キルゴアが展示映像のなかで、「“無理だ、とてもできない”と思うようなことでも、課題を切り分けていくことで前進できるんだ」と語っているように、スタッフたちは、それぞれの持ち場で、新しい実験を日々繰り返し、常に昨日よりも先へ行こうと、進化を続けている。


 これら気が遠くなるほどの労力が、およそ2時間にも満たない映像として結実したものが、ピクサーの映画作品だったのである。それを知らずに作品を見た観客が、「“魔法”にしか感じられない」というのも道理だといえよう。


 いまや、CGアニメーションは大きな潮流となっている。その老舗でありトップランナーであるピクサー・アニメーション・スタジオ。その最先端の技術や、情熱を知ることができる本展を鑑賞し、体験することで、ピクサー作品や、CGアニメーション作品を、より深い視点から見ることができるようになるのではないだろうか。(文=小野寺系)


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