中学受験界「大学付属校」人気の落とし穴――「こんなはずではなかった」親たちの強い後悔

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2019年09月08日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験界では数年前から「大学付属校」が大人気だ。その理由は2点。1つが2021年度入試から始まる「大学入試改革」、もう1つが国の「私大の入学定員管理厳格化措置」の影響だ。
※私大の入学定員管理厳格化……文部科学省が私大の入学定員の超過に対して、私学助成金の交付をその人数に応じてカットするという措置。東京・名古屋・大阪の三大都市圏に学生が集中するのを抑え、地方へ振り分ける狙いがある。安倍内閣の「地方創生」政策の一環と言われている。

 いまだにハッキリと決まっていない大学入試改革の全容、一方で早慶、MARCHをはじめとした主要私大の“合格者絞り込み”という現実――これらが今、中学受験生の親たちの危機感をダイレクトに煽っているのだ。

 つまり「国の方針ひとつ」で我が子の大学受験がどう転ぶかわからない、という現状がある。しかもその「方針」も迷走していると言えるだろう。ゆえに親たちは、早い段階での「大学合格切符」という「保険」をかけようと躍起になっているのだ。

 広樹君(仮名)の母・貴代さん(仮名)も、この現実に焦った1人だ。

「中学受験をして私立に入学したとして、確かに高校受験はありませんが、高2から大学受験に向けた勉強がスタートするというのは既定路線。であれば、6年一貫教育と言ったって、伸び伸びしていられる時期は少ない。それならば、最初から大学付属狙いの方が広樹のためになるのでは? と思ったんです」

 こうして、貴代さんは、広樹君の受験校を第5志望まで全て大学付属校で埋めたという。そして広樹君は、第5志望校であるN大学付属に合格を決めた。インフルエンザに罹患してしまったため、本来の実力が発揮できなかったそうだ。

 塾の先生はこの結果をとても悔しがり、「広樹はW大系列に入れる実力だから、N大付属には行かず、公立中に進み、高校受験でリベンジしてはどうか?」とアドバイスしたそうだ。

 しかし、貴代さんの強い勧めで、広樹君はN大学付属に入学。本人も最初はリベンジを固く誓っていたそうだが、現在高1の彼は、貴代さんからすると「見る影もない」ほど勉強しないという。

「広樹の学年が特にそうなのかもしれませんが、ほとんどの子が『無理はしない』思考なんですよ。つまり、無理してまで他大を受けないってことですね。浪人にでもなったら、目も当てられないですから……。広樹は『このまま、ぬるま湯に浸って、入れるところに入れればいい』と思っている節があるんです。でも、N大に入るのも、学内基準があるので、意外と難しいんですよね〜。塾の先生の言うことを聞いておくべきでした……」

 たいていの大学付属校は、成績順に学部を選べるシステムなので、必ず志望が叶うという保証はない。そもそも、自分の行きたい学部が「その大学にはない」というケースも大いにある。子どもが、「入りたい学部」ではなく、「入れる学部」に自分を合わせるという現実もなきにしもあらずなのだ。

 「大学付属校に入れば安心」という親の「保険」がどこまで通用するかは、実際に子どもが高3になるまで、誰にもわからないというのが実情だろう。

 もう1人、太郎君(仮名)のケースをお伝えしよう。彼は中学受験でE学園とK大付属に合格した。彼の第1志望校はE学園であったが、「保険」を欲する親の犠牲となり、結果的にK大付属のF中学に入学したのだ。

 母である佐代子さん(仮名)は合格直後、筆者にこう言っていた。

「K大付属のF中よ! ほぼ全員がK大に入れるんだから、安心よね。K大なら、どの学部でもいい!」

 太郎君の現在を、先にお伝えしておこう。彼は19歳で、フリーターをしている。学歴的には中卒である。なんでもK大付属の独特のカラーに合わず、入学当初からの強烈な違和感を拭い去ることができなかったそうだ。

 F中はレポート課題が頻繁にあり、未提出者への指導が厳しいことに定評がある。進級基準に満たない者は中学生であっても、容赦なく「肩たたき」(内部進級・進学ができない)される。

 太郎君というより、佐代子さんが最後まで内部進学にこだわったということが災いして、結果的に他高校の受験に失敗。フリースクールに通ったものの、高校卒業資格は取れていない。

 太郎君が自嘲気味に笑いながら、筆者にこう漏らしたことがある。

「あの時、親がE学園に入れてくれたら、こうはなってなかったっす……」

 「大学までエスカレーター」という点だけに飛びつくのは危険だ。大学付属校はとても魅力的な学校であることは確かだが、こういう「落とし穴」があることも、事前に承知しておくべきだろう。

 学校選びは「保険」を第一にするのではなく、子どもの特性を見て「将来、花が咲きやすいであろう環境かどうか」を一番に考えることが重要なのだ。
(鳥居りんこ)

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