10分以上は無理!? 「スマホファースト」環境に対応する、ショートアニメーションの台頭を考える

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2019年09月17日 10:01  リアルサウンド

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Netflixオリジナル『リラックマとカオルさん』(Netflixにて全世界独占配信中)

・ショートアニメーションの台頭
 近年、「ショートアニメーション」の存在感が高まっているように見える。ここでいうショートアニメーションとは、たとえばアカデミー賞が規定する映画作品の「短編」の上限、「45分」よりもはるかに短い、数分から10数分のごく短いアニメーション作品のことだ。


参考:唯一の「京アニ大賞」受賞作、小説『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に宿る“言葉の力”


 8月24日には、東映アニメーションが、若手スタッフ発の新規企画プロジェクトの第1弾として、石谷恵監督による1分のショートアニメーション『ジュラしっく!』を公開した。このほかにも、同じ東映アニメーションは、女児向け人気アニメ『おジャ魔女どれみ』放送開始20周年を記念した各2分ほどのショートアニメーション『おジャ魔女どれみ お笑い劇場』の配信を今年の3月から開始。あるいは、4月には、Netflixで各10分強のストップモーションアニメーション『リラックマとカオルさん』の配信も始まり、話題を集めている。


 こうしたショートアニメーションの作品は、今後も数多く作られそうだ。このコラムでは、こうした昨今のショートアニメーションの台頭の背景と今後のアニメに与える影響について簡単に考えてみたい。


・2015年前後の変化
 ひとつの目安に過ぎないが、おそらくこうした現在のショートアニメーションの趨勢のひとつの大きな始まりとなったのは、わたしの見るところ、だいたい2010年代なかばのことだと思われる。たとえばこの時期、テレビアニメでも3分枠の『てーきゅう』(2012-2017)、5分枠の『ちょぼらうにょぽみ劇場-新章-不思議なソメラちゃん』(2015)、そして約8分の『ハッカドール THEあにめ〜しょん』(2015)といったショートアニメーション(短編アニメ)が立て続けに放送された。あるいは、2014年11月には、ニコニコ動画を運営するドワンゴと庵野秀明のカラーの共同企画として、さまざまなクリエイターによるオリジナル短編アニメーションをウェブ配信する「日本アニメ(ーター)見本市」も始動する(2018年末で公開終了)。ここでは吉浦康裕、今石洋之、山本沙代、櫻木優平、沖浦啓之といったベテランから期待の若手までのアニメーター・監督から、作家の舞城王太郎などの異業種分野にいたるまで、多士済々の才能によるクオリティの高い短編が集まり、注目を集めた。


・「スマホファースト」環境が変えたアニメ
 では、こうしたショートアニメーションの台頭の背景には、いかなる要因があったのだろうか。


 ただ、これはすでにいろいろ指摘されていることではあるが、そのひとつには、アニメファンの視聴環境の変化がある。たとえば、さきほどのショートアニメーションの多くの放送が始まった2015年には、日本でNetflixの配信がスタートしている。翌2016年末にはAmazonプライム・ビデオの配信も始まった。すでにウェブ環境にすっかり根づいていたYouTubeやニコ動といった動画共有サイトはもちろんのこと、Netflixやアマプラ、そしてアニメ専門のアニメ放題、dアニメストア、東映アニメオンデマンド、バンダイチャンネルといったサブスクリプション・サービスやネット配信サービスは、この時期、スマートフォンで気軽にアニメを観られる環境を当たり前のものにした。またそのことで、10〜20代の若者を中心に、アニメ視聴の裾野を一気に広げていった。こうしたメディア環境の変化は、そこで作られ、鑑賞されるコンテンツのあり方にも必然的に大きな影響を与えることになる。


 こうした文脈から、なかでも現在にいたるショートアニメーションの注目作として、しばしば言及されるのが、まさにNetflixが上陸した2015年から、YouTubeのみの独占配信タイトルとして制作され、無料配信された『モンスターストライク』(2015-)である。『モンスト』は、もともとはmixiが運営するスマートフォンアプリゲームの世界的な人気タイトルであり、そのアニメ版である本作もmixiが単独出資で制作している。さて、この『モンスト』アニメの大きな特徴もまた、1話の尺が約7、8分という、通常のテレビアニメに比較した際の極端な短さである。通常の30分テレビシリーズ枠の本編がだいたい22〜23分くらいなので、およそ3分の1の分量だ。


『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命 』(刊・星海社新書 著・数土直志)
『誰がこれからのアニメをつくるのか?』(星海社新書)で数土直志が紹介するところによれば、本作のプロデューサーであるウルトラスーパーピクチャーズの平澤直はその理由を、やはりYouTubeという新しい映像プラットフォームの条件と絡めて説明している。つまり、YouTubeにアップロードされている動画のうち、それらの平均的な視聴時間が10分以内に収まっているというのである。


 また、これを裏側から補完する話もある。ある調査によれば、いまの子どもが集中して映像を鑑賞するのに耐えられる時間が、なんとこの『モンスト』と同じ7分ほどなのだそうだ! 嘘だと思うかもしれないが、実際あるとき、勤めている大学で、ひとりの学生が「映画の『ハリー・ポッター』を『金ロー』で見始めたけど、15分くらいで話がわからなくなって飽きちゃって寝た」と友人に話しているのが聞こえてきて、わたしも愕然とした経験がある。このことは、『モンスト』はもちろん、日本アニメ(ーター)見本市から『リラックマとカオルさん』にいたるまで、いまの多くのショートアニメーションが何らかのかたちでモバイル端末やウェブアプリと紐づいていることからもうかがわれるだろう。『ジュラしっく!』にもキャラクターがスマホやSNSをいじる様子がしっかりと描きこまれている。


 すなわち、現在のショートアニメーションの台頭は、いわば若い世代の「スマホファースト」というメディア慣習に最適化した結果なのだ。


・ショートアニメーションが変えるアニメのかたち
 ともあれ、こうした状況の中で生み出されるアニメーションは、その内容にも大きな変化が表れるだろう。


 そこで、その考えられるゆくえを、最後に4つの視点から述べてみよう。まず言えるのは、――これはショートアニメーションだけの問題ではないが――「物語」の作り込みや視聴者のリテラシーの低下だ。いうまでもなくショートアニメーションでは、劇場用長編やテレビアニメシリーズのように、多くの伏線を張りながら起伏をつけてダイナミックに物語を描いていくタイプの作品は作りづらい。また、さきほど述べたように、それについていけるだけの視聴者もどうやら減っていきつつある。したがってそこでは、『ハッカドール』のような微エロをまぶしたシュールなパロディものか、『おジャ魔女どれみ お笑い劇場』のようなギャグもの、『リラックマとカオルさん』のようなゆるいほのぼのストーリーがどんどん増えていくことになるだろう。しかし、これはいわゆる日常系アニメやアイドルアニメなど、近年、他のジャンルのアニメでも起こっている全体的な変化に近い。


 また、こういったショートアニメーションとは、もともとはいわゆる商業的な「アニメ」ではなく、非商業的でアートの文脈とも結びついた個人制作のアニメーションに多いスタイルだった。これもデジタル化の影響が大きいが、土居伸彰などが注目しているように(『21世紀のアニメーションがわかる本』フィルムアート社)、現代のアニメーションではかつてかなりはっきり違うものだと区分けされていた集団制作による商業的なアニメと個人制作による非商業的なアニメが最近急速に接近し、人形や砂を使ったストップモーションやシネカリグラフィなど、以前は非商業的なアニメでしか使われていなかったような表現技法が商業的なアニメでも見られるようになっている。たとえば、『リラックマとカオルさん』などもそういった作品に含まれるだろう。その意味で、ショートアニメーション的なものの台頭は、これまで以上に多種多様な表現が多くのひとの目に触れるアニメ作品で見られるようになるきっかけになるかもしれない。


 3つ目だが、ひるがえってショートアニメーションがアニメのひとつのスタンダードになる世界においては、これまで作られてきたアニメも新たに「リサイクル」できる可能性もある。以前、氷川竜介が『モンスト』アニメの話も出しつつ、面白いことを指摘していた(「2016年は、日本のアニメーションにとって歴史に残るべき大変な年になった」、『熱風』2017年2月号所収)。いまのウェブ発のショートアニメーションはだいたい7分前後の尺になっているが、これを3本束ねると21分で通常のテレビアニメの本編枠とぴったり重なるのである。思えば、『サザエさん』や『オバケのQ太郎』など、1960年代のテレビアニメ(テレビまんが)は3本立てが多かったことも踏まえれば、旧作の30分枠テレビアニメ作品も、スマホ用に分割アレンジして若い世代に楽しんでもらえる可能性もあるのではないか。――この氷川の提言は、スマホファーストのショートアニメ世代に、かつてのアニメをどのように受け渡していくかという問題において、非常に重要な示唆となっているだろう。


 そして最後に、こうした変化に、いち早く敏感に反応していたアニメーション作家の創作からヒントを得てみよう。現在、最新作『天気の子』が興行収入110億円を超える大ヒットを記録している新海誠である。知られているように、新海は長編の作家というよりも、出世作となった25分の『ほしのこえ』(2002)や3本の短編のオムニバス『秒速5センチメートル』(2007)など、もともと短編的なセンスの強いアニメ作家だった。そんな彼がまさに2010年代なかばの2013年に作ったのが、46分の『言の葉の庭』だった。


 『言の葉の庭』は、新海自身がデジタルコンポジットを駆使して日本のアニメーションに導入したフォトリアルな風景表現が極限まで高精細に表現された意欲作だったが、じつはその演出意図を、彼は以下のように語っている。


「当時はちょうどiPhoneやiPadなどデジタルの液晶デバイスが普及し始めて、観客の視聴環境の変化を感じていました。映画館のスクリーンではなくデジタルの小さな画面で観ることを前提にした、高解像度の精細な映像表現をしてみたいと思ったんです。[…]劇場公開初日からiTunesでの配信も行いましたね」(インタビュー「観客との対話と共同作業で歩んできた」、『新海誠展』公式図録所収)


 すなわち、『言の葉の庭』のハイレゾリューションな描写と尺の短さもまた、スマホファーストになりつつあったメディア環境に対する、作家の側からも鋭敏なリアクションだったのだ。だとすればこうした方向性も、今後のショートアニメーションのひとつの魅力となっていくだろう。


 「テレビ」や「スクリーン」といった古い軛から解き放たれたアニメが新たに獲得した「ショートアニメーション」というかたち。ここからまた、まだ見たことのない新しい作品が生まれてくることを期待したい。 (文=渡邉大輔)


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  • 10分以上は無理!?と書いてる記事がそもそも長いな。
    • イイネ!19
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