重岡大毅の笑顔から滲み出る、演じることへの楽しさ 「いいひと系」の男の子の役柄に説得力

0

2019年09月18日 08:01  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

『これは経費で落ちません!』(写真提供=NHK)

 NHKの「ドラマ10」(金曜夜10時枠)で放送されている『これは経費で落ちません!』は石鹸会社の経理課を舞台にしたお仕事ドラマである。


 経理部所属の森若沙名子(多部未華子)は、経理処理の的確さに一目を置かれている。毎回、社員が持ってくる経費(領収書)の内訳をみては、おかしな点に気づき、数字の裏側にある意外な真実を掘り当ててしまう。物語はそんな森若たち経理課を中心に社内で起こる様々な問題を掘り下げていく。


 見どころは、すぐに領収書の名義や数字のおかしい所に気づいてしまう森若の分析力。「うさぎは追うな」と心の中で思っていても、気になることがあるとついつい調べてしまう彼女は自分以外の人間には興味がないように見えて、実は誰よりも他人に興味があるのかもしれない。さながら経理専門の名探偵だ。


 社内のルールを重んじて、ストイックに仕事をこなす森若の姿はハードボイルドそのもので、周囲から見ると無愛想でとっつきにくくて、ちょっとだけ変な彼女が活躍する社内ミステリードラマとして毎週楽しんでいる。


 もう一つの面白さはそんなクールでマイペースな森若が、恋愛感情に翻弄されていくラブコメパート。


 第一話、森若はパラダイスカフェの立ち上げという新規事業を担当する営業の山田太陽(重岡大毅)が内装設計のデザイナー・曽根崎ミレイ(藤原紀香)との取材費を恋人とのデートで私用に使っているのではないかと思い、山田のことを調べるのだが、その時の騒動をきっかけに、二人は急接近。森若の携帯電話のアドレスを聞いたり、仕事の後でご飯に誘ったりするようになる山田。気さくな笑顔で距離を詰めてくる山田に、自分のペースが崩されてイライラする森若。ぐいぐい来るわりには、どこか天然でつかみどころがない山田だが、彼女が精神的に参っている時は優しく側に寄り添ってくれる。


 第五話、夜の公園で泣いている森若を心配しながら「すいません。沙名子さん、一人になりたかったんすよね。でも無理っす。ほっとけないっす。一緒にいたいです」と言う山田。


 二人のやりとりは、年齢のわりには子供っぽく「小学生か!」とモヤモヤするが、むしろこの初々しいやりとりこそが、羨ましい。


 山田太陽を演じる重岡大毅はジャニーズWESTに所属するアイドルで、近年は俳優としても注目されている。出世作となったのは山戸結希の映画『溺れるナイフ』。本作で重岡が演じたのはヒロインの夏芽(小松菜奈)の友人の大友勝利。ある事件をきっかけに恋人のコウ(菅田将暉)と別れ、心を閉ざしてしまった夏芽に優しく寄り添い付き合うことになる大友は、ザ・良い人という感じの好青年だ。最終的には夏芽に振られてしまう若干かわいそうな役割なのだが、コウを演じた菅田将暉の荒々しいカリスマ演技とは真逆の落ち着いたたたずまいを見せることで、二人(夏芽とコウ)の神話的な世界に入ることができない普通の人代表としてとても重要な役割を果たしていた。


【動画】『溺れるナイフ』本予告


 ジャニーズ・アイドル出身の俳優には何人かこういうタイプの男性がいる。華やかな王子様というよりは、気さくな笑顔が似合う親しみやすいお友達キャラで、同性からの好感度も非常に高い。


 そんな重岡の魅力がもっとも際立ったのは、Netflixで配信された学園ドラマ『宇宙を駆けるよだか』だ。


 本作は一種の入れ替わりモノの作品で、明るくて容姿端麗な小日向あゆみ(清原果耶)は、太っていて陰気なクラスメイト・海根然子(富田望生)がしかけた呪い(赤い月が出ている宇空の下で自殺する姿を見せる)によって、容姿と性格が入れ替わってしまう。


 親にもクラスメイトにも恋人のしろちゃん(神山智洋)にも自分が海根と入れ替わったことを信じてもらえないあゆみ。しかし重岡が演じる火賀俊平だけは、海根(の内面)があゆみだと気づく。


 「どんな姿してても分かるよ、あゆみは……あゆみなんやから」と加賀が言う場面は、あゆみの絶望を、これでもかと描いていただけに、とても救われたような安堵感がある。そこには単純に演技が上手いとか下手といったレベルとは違う深い説得力があった。


 この作品も役割としては恋人ではなく友人役なので、恋の鞘当て的ないい人キャラだ。こういう、お友達系の男の子は、最終的には本命とは結ばれない運命にあるので、若干かわいそうな役割なのだが、重岡の屈託のない笑顔をみていると、きっと彼はそれでも幸せなのだろうと思わされる。


 多分、『溺れるナイフ』の大友くんも『宇宙を駆けるよだか』の火賀も、損得など考えず、ただ自分が好きな女の子が心配だから、傍に寄り添っているだけなのだ。『これは経費で落ちません!』の山田太陽にしても同様で、小学生みたいな森若とのもどかしい恋愛も、彼自身は楽しんでいるのではないか。彼らのような、いいひと系の男の子を、地に足のついたキャラクターとして説得力を持たせ、生き生きと楽しそうに演じられることが、重岡大毅の魅力ではないかと思う。


(成馬零一)


    ニュース設定