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もの忘れの症状がない「認知症」もある? 怒りっぽくなる、マナーが守れなくなる…

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2019年09月19日 07:00  AERA dot.

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写真千葉大学病院・精神神経科特任助教の大石賢吾医師が、認知症、発達障害に関するあなたの悩みにおこたえします! あらゆる人間関係、組織のなかで、相談者や家族の身に起きている事態をお聞かせください。採用されたご相談は本連載で紹介します。
千葉大学病院・精神神経科特任助教の大石賢吾医師が、認知症、発達障害に関するあなたの悩みにおこたえします! あらゆる人間関係、組織のなかで、相談者や家族の身に起きている事態をお聞かせください。採用されたご相談は本連載で紹介します。
 認知症の特徴的な症状は、もの忘れという印象を持たれる読者も多いことでしょう。しかし、記憶の障害が目立たなくても、怒りっぽくなったり、ルールやマナーが守れなくなるなどの行動上の変化も認知症の症状の一つです。千葉大学病院精神神経科特任助教の大石賢吾医師が相談に答えます。

【40代女性Aさんからの相談】最近、実家の母と電話で話したとき「ささいなことでもお父さんがきつく当たるようになった」と相談を受けました。両親はとても仲がよく、子どものころからの記憶でもたまに小言を言うくらいで、けんかをしていた印象もありません。先日、実家に帰ってみると、いつもどおりの優しい父なのですが、確かに母には何かとイライラしてしまうようです。普段はきちんとしているのにシャツがはみ出したままで気になりました。ネットで調べていたら、年齢的にも認知症なのかもと心配しています。もの忘れの症状ははっきりしないのですが、一度診てもらったほうがよいでしょうか。

*  *  *
 離れて暮らしているお父さまについて「なんか最近変なのよ」と言われたら……。いても立ってもいられない心持ちなのではないでしょうか。Aさんのお父さまが認知症かと問われると判断はできませんが、ご相談にある変化が矛盾するわけでもありません。ご家族からみて普段の様子と違うようでしたら、ぜひ一度受診して相談してみることをお勧めします。

 認知症の特徴的な症状は、もの忘れという印象を持たれる読者の人も多いかもしれませんが、本コラムの第2回(2019年4月4日公開)でレビー小体型認知症に伴う幻視、第7回(2019年6月20日公開)で被害妄想について取り上げてきたように、種類や病期によって目立つ症状が異なることがあります。また、第9回(2019年7月18日公開)の薬を飲んでくれないというご相談のように、見る人の立場によって受けるストレスの大きさも違ってくるかもしれません(本人は困っていない可能性もあります)。

 先述のとおり、今回ご相談いただいたケースが認知症に基づいたものであるかはわかりません。しかし、もし認知症であれば状態を確かめ、ご本人や周囲の支援者がより安心して生活できるよう対応策を備えていくことが有用かと思います。

 今回は私が実際に経験した中で、ご相談にある状況とよく似た症状で受診され認知症の診断に至った症例を紹介し、別の認知症の症状や対応についてみなさんと考える機会になればと思います(他回同様に一部修正しています)。

 もう3、4年が経つでしょうか。当時50代後半だったBさん(男性)は、困った様子の奥さまに連れ添われて受診されました。ご本人にお話をうかがうと「先生、私はね、私はね、私は別になんでもないんですよ。こいつ(奥さま)がああだこうだとうるさくてね」と。

 一方、どうにかBさんを説得して受診にこぎ着けた奥さまは「最近は格好もちゃんとしてなくて。何度言っても直さないんです。注意するとカッとなって聞く耳持たず。もともと、こんなに口悪くいう人じゃなかったんですけど…」と話されます。

 Bさんとの面接では、会話はたどたどしく、声量は大きくぶっきらぼうで、隣でお困りになっている奥さまの話は意に介していないご様子でした。また、奥さまがおっしゃるとおり、身なりも寝癖がそのままだったり着衣の乱れが目立ち、従業員を数人雇用し自営業を営んでいるという状況からは違和感を感じたのを覚えています。

 さて、Bさんは最終的に認知症の診断に至ったと紹介しました。認知機能では、場所や日時など状況把握は正しくできているものの、記憶に大きな障害は認めず、集中を維持したり段取りよく取り組む作業にやや困難さを認める状態でした。

「記憶の障害も目立たないのに怒りっぽいだけで認知症なの?」と思われる読者もおられるかもしれません。そのご指摘は正しく、Bさんの場合においても慎重に評価される必要がありました。

 実際に、受診の時点での状態からは、気分が上がってしまう躁状態やADHD(注意欠陥多動性障害)を含む発達障害などの見極めるべき疾患が考えられます。しかし、これらのものを否定し、最終的にBさんは前頭側頭型認知症であると判断しました。

 前頭側頭型認知症は、典型的な好発年齢が45〜65歳と比較的低く、男女差は認められないことが報告されています(引用1)。脳の画像検査では、Bさんの場合もそうでしたが、名前のとおり前頭葉と側頭葉に萎縮が見られることがあります。

 特徴的な症状には、Aさんのご相談やBさんのケースでも見られたように、怒りっぽくなってしまうなど人格変化や、ルールやマナーを守れなくなる、同じことを言ったり繰り返したり、こだわりを持ってしまうというような行動上の変化があります。また、見たものを認識したり、周囲の人の心情に共感することに困難さが生じることもあります。

 一方で、記憶は比較的保たれていることもあるため、家族など周囲の支援者から認知症として疑われないケースもあります。くわえて、ご本人は障害を自覚しにくいとされており、結果的に誤解され周囲との関係が悪化してしまうことがあるように思います。

 残念ながら、前頭側頭型認知症に対する根本的な治療法は確立されていませんが、ご家族に患者本人が置かれている状況や得意・苦手な作業について理解を深めていただくことで、介護者の不安や負担を減らすことができるかもしれません。

 例えば、前頭側頭型認知症の人が何かをきっかけに興奮してしまうとき、周囲にとってはささいなことに思えることでも本人にとっては大事なこだわりである可能性があります。

 想像してみてください。自分が大切に思っていることがないがしろにされるとどうでしょうか。興奮してしまうことも理解できるような気がします。ただ、こだわりの内容や自分で抑えることができないことに対して理解を得るのが難しく、ときに本人と周囲の関係が難しくなる一因となってしまいます。

 そのような状況であることを理解したうえで、(とくに危険を伴わない行動であれば)ある程度容認して対応したり、興奮の原因となるものがあれば、そこから注意をそらせるよう本人が没頭できるような作業を勧めてみたりという対応も有用です。

 しかしながら、どうやっても周囲の支援者の疲弊が重なることもあるかもしれません。そのような場合には、デイケアやデイサービスなど、家族以外のサービスの利用を検討してもよいかもしれません。

 また、薬物治療についても、前頭側頭型認知症に伴う周辺症状で、感情や衝動を抑えられなくなってしまう「脱抑制」やささいな刺激で怒りやすくなってしまう「易怒性(いどせい)」「抑うつ状態」などに対する有効性が報告されているものもあります。例としては、うつ病の治療に用いられる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(引用2)や漢方薬(引用3)などが挙げられます。

 Bさんのケースでも、ご本人と奥さまと相談し漢方薬を投与したところ、脱抑制と易怒性において一部改善が得られました。これらの薬物治療については、必ずしも全てのケースで効果が得られるわけではないこと、くわえて十分なエビデンスが得られていないことを改めて周知しておきたいと思います。

 このように、Bさんの診断となった前頭側頭型認知症や以前取り上げたレビー小体型認知症のように、認知症とはいえ、必ずしももの忘れが主な症状でない場合も存在します。普段と異なる様子がありましたら、一度ご相談してみることを検討して頂ければ幸いです。

【引用文献】
【1】Olney NTら. Frontotemporal dementia. Neurol Clin. 2017 May ; 35(2): 339–374.

【2】Herrmann Nら. Serotonergic function and treatment of behavioral and psychological symptoms of frontotemporal dementia. Am J Geriatr Psychiatry. 2012 Sep;20(9):789−97.

【3】Kimura Tら. Pilot study of pharmacological treatment for frontotemporal dementia: Effect of Yokukansan on behavioral symptoms. Psychiatry Clin Neurosci. 2010 Apr;64(2):207−10.

【おすすめ記事】これを忘れるとヤバい…「もの忘れ」と「認知症」の境界線とは


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  • それで進行するにつれ多かれ少なかれ強い不安やこだわりを伴う強迫観念症に移行する。
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