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「なぜわからない!」「いつも高圧的」 医師と患者、ジレンマの原因は意外なところに

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2019年09月19日 11:30  AERA dot.

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写真圧倒的な不人気は「高圧的な医師」(AERA 2019年9月23日号より)
圧倒的な不人気は「高圧的な医師」(AERA 2019年9月23日号より)
「高圧的」「説明がおざなり」とこぼす患者。「説明しても理解しない」「間違った情報をうのみにする」と嘆く医師。医師と患者アンケートから見えてきたのは両者の深い溝だ。AERA 2019年9月23日号から。

【画像】医師が困る患者はこちら

*  *  *
「患者が亡くなる時はいつだってつらい。けれど、その女性患者を看取った時の悔しさは、いまも忘れられない」

 そう語るのは、福島県にある総合南東北病院の中山祐次郎・外科医長(39)。13万部を突破したベストセラー『医者の本音』の著者でもある。

 数年前、50代の女性は腹痛を訴えて受診した。検査の結果は大腸がん。幸運なことに、すぐに手術をすれば治る段階だった。しかし、女性は詳しい理由を語ることなく、手術を拒否した。

「お金が心配ならなんとでもなります。手術は確かに怖いと思いますが、手術しないと、命を落とすことになってしまいます」

 何度も説得を試みたが、やがて女性は姿を見せなくなった。1年後、再び彼女が診察室に現れた時、がんは転移し、取り返しがつかない状況になっていた。

「最初の段階で、どう伝えればよかったのか。今も時々考えます」(中山医師)

 アエラは、医師専用コミュニティーサイト「MedPeer(メドピア)」の協力を得て、がんや心疾患など重篤な病気の診療経験がある医師520人にアンケートを実施した。

 その結果、半数近くが中山医師と同様、「患者の理解不足や誤解によって医学的に最適と考える医療を提供できなかったことがある」と回答した。

「単発の転移性脳腫瘍で前医から手術目的の紹介状をもらってきた患者さんが、テレビの健康番組の影響で放射線治療を求めドクターショッピング(=医療機関を次々と受診すること)を開始。ようやく摘出手術をした時点で腫瘍は増大しており、半年後に亡くなった」(脳神経外科勤務医・北海道)

「高血圧で、降圧剤を服用すれば簡単にコントロールできるレベルなのに、服薬を拒否し、数カ月後に亡くなったり、障害者になる症例を時々経験する」(一般内科開業医・東京都)

 アエラは患者にもアンケートを実施し、100人超から回答を得た。双方のアンケートから見えてくるのは、医師と患者の間に横たわる深い溝だ。

 溝には大きく分けて2種類ある。一つ目は「説明」を巡る認識の溝だ。

 アンケートでは「いい医師の条件」として、医師、患者双方が「説明が丁寧」を挙げた。患者では全要素でトップ、医師では「多岐にわたり医療知識が豊富」「コミュニケーション能力が高い」に次いで3番目だ。

 だが、これまで出会った「困った患者」「不信感を持った医師」を見ていくと、「説明」の捉え方が微妙にずれていることがわかる。例えば医師が、「噛み砕いて説明しているのに、理解してくれない」「いくつもの選択肢を示しているのになぜ選べない?」と考えているのに対し、患者は「説明が早口でわかりにくい」「いきなり選べと言われても困る」と、全く別の感じ方をしている。

 患者側には「説明がぶっきらぼう。怖くて何も聞けない」「パソコンの画面ばかり見てこちらを見ない」といった医師の「態度」への不満もくすぶる。「かかりたくないと思う医師」は、ダントツで「高圧的な医師」だ。

 二つ目は、医師が勧める治療法への不信感が強いケース。医師アンケートでは、抗がん剤やステロイドなど特定の治療法に強い拒絶感を示す患者や、ネットやテレビ・雑誌の健康情報をもとに治療法を勝手に自己流に変える患者、民間療法に頼る患者の事例が数多く寄せられた。

 こうした溝はなぜ生まれるのか。溝を埋めるために、医師ができること、患者ができることは何か──。

 まずは「説明」を巡る溝から考えていこう。大竹文雄・大阪大学大学院経済学研究科教授は、共著書の『医療現場の行動経済学:すれ違う医者と患者』のなかで、溝が生じる要因を行動経済学の視点から分析している。

 行動経済学とは、人間は時として非合理的な行動をとることに注目した新しい経済学だ。伝統的な経済学は「すべての選択肢とその結果を考慮し、最善の結果を得るよう意思決定する『合理的経済人』」をモデルとしてきたが、大竹教授は、それは医療分野にも当てはまるという。

「多くの医師は、『十分な情報を患者に伝えれば、患者は正しい判断ができる』という『合理的患者像』を想定しています。だから、専門用語や統計を交え、早口でたくさんの情報を伝えようとし、それが『丁寧な説明』だと思っています。ところが、患者は情報が多すぎたり選択肢が多すぎたりすると、逆に選べなくなる。患者が期待しているのは、わかりやすい表現と、それほど多くない選択肢。つまり『意思決定がしやすい説明』です」(大竹教授)

 また、医師は「医学的に正しい情報を伝えれば、どんな表現であっても正しく伝わる」と考えがちだが、患者側が重視するのは表現のほうだという。

「行動経済学では、人間は損失を強調されると、その選択肢を選びたがらないことがわかっています。『手術の成功率は80%』と言うのか、『失敗率は20%』と言うのか。医師は慎重に物事を進めたいので失敗の『20%』を強調しがちですが、それでは患者は選びたくなくなるのです。同じ内容でも、伝え方ひとつで行動が変わるのが人間です。そこに思いが至らない医師は多いと思います」(同)

「伝え方」には、言葉だけでなく態度も含まれる。冒頭の中山医師も、手術を拒否した女性患者とのやりとりをこう振り返る。

「こんなに治療の必要性を説明しているのに、なぜわかってくれないんだとイライラする気持ちもあった。それが態度に出てしまっていたかもしれない」

 今では中山医師は、治療方針や病状を伝える際にも、個々の患者が本当に必要としている情報は何か、それをいつどのように伝えるかを熟慮する。

「抗がん剤もメリットとデメリットを並列に並べて、『さあ決めてください』と言っても選べない人が多い。その場合、その人が人生や生活の中で何を大切にしているかなどを聞き取った上で、『オススメ』とその医学的な根拠を言うようにしています」(中山医師)

(編集部・石臥薫子、小長光哲郎)

※AERA 2019年9月23日号より抜粋

このニュースに関するつぶやき

  • 近所の内科の女医はインフルエンザの時に「こっちを向かないで下さい」と言った…二度と行くか!
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  • 最近の医師は「病気」を看て「病人」を看ないと言っていた知り合いの言葉を思い出します。
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