写真 北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表 |
作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は裁判が始まった「不正入試」問題について。
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9月6日、東京医科大、順天堂大、昭和大の3校を訴えた女性の裁判が開かれた。本来なら去年の受験で東医、昭和には合格しており、順天は1次試験をパスしていた。
この女性は現役生のときに経済的な事情で医学部進学を諦めている。社会人になって、やはり医師への夢を諦められず勤め先を辞め、早朝から深夜まで机に向かう日々を送った。昨夏、東医の不正のニュースを知ったときは、予備校の自習室で泣いたという。
まさか受験した3校全てが不正をしていたなど、誰が想像するだろう。「喉から手が出るほど欲しかった合格通知のはずなのに、全く嬉しくない」と言い、二度とこのようなことが起きないようにと、訴訟を決めた。医学の道を諦めてきた女性たちや、次の世代の女性たちのために、司法で事実を明らかにし、謝罪と再発防止を求める闘いを選んだのだ。なにより、闘いを選ばざるを得ないほど、医大側の対応は3校それぞれ、不誠実だった。
特に昭和と順天の対応に驚いたのは、全てが電話での連絡だったことだ。2校とも、ある日突然「合格してました」と電話があった。順天には「2次試験の受験資格がほしい」と当然の要求をしたが、「受験したいなら、また1次から」と言われ、受験料6万円がただ振り込まれた。昭和からは、受験真っ最中に「入学したいなら入学金を○日までに支払うように」と連絡が来た。払わなければ入学の意思がないと見なされるが、他大を受験中で合否もまだわからない段階だ。入学の権利は握っておきたいが、請求された150万円は返金されない。こんな交渉や決断を受験真っ最中にさせる医大は、いったいどういう神経をしているのか。別の被害者の話だが、順天と話したときに「不正入試」という言葉を使ったら「不正ではない、不適切だ」と対応した職員が訂正してきたという。人の人生を狂わせた意識はないのか。
医師の国家試験の男女比率をみていると、2005年から完全に女性の医師が3割前後で、ずっと横ばいになっている。これは東医が差別を認めた06年というのとほぼ重なる。厚生労働省は女性の医師の労働力を0.8として計算して医師の数を調整しているが(60歳以上の男性医師も0.8で計算されている)、女性が全体の3割になるような調整を大学の入り口でしている可能性は高い。今発覚している大学の「得点調整」という名の性差別は、氷山の一角ではないか。
今後、裁判で明らかにされることは大きいだろう。第1回の兆しは良いようにみえた。裁判官が昭和に第三者委員会の報告書提出を求めたのだ。昭和は女性差別を認めず(現役生に加点、と説明していたが、ここ5年間22歳以上の女性は一人も合格していない)、第三者委員会の報告書も公開していなかった。第三者委員会の報告書が公開されることで、昭和の不正の方法が明らかになるだろう。これが訴訟を起こす意義なのだと改めて思う。
次の公判は12月。忘れるわけにはいかない。むしろ今、始まったばかりの闘いなのだ。
※週刊朝日 2019年9月27日号