『ザ・ノンフィクション』元受刑者への支援は“甘え”なのか?「半グレをつくった男 〜償いの日々…そして結婚〜」

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2019年09月24日 19:33  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

 NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。9月22日の放送は「半グレをつくった男 〜償いの日々…そして結婚〜」。“最凶”の半グレ集団「怒羅権(ドラゴン)」の創設メンバー汪楠(ワン・ナン)は現在受刑者や出所者を支援する活動を行っている。改心のきっかけと活動の日々を追う。

あらすじ

 中国出身の汪、47歳。中国残留日本人だった継母の帰国について来て日本に移り住むも、壮絶な差別やいじめから日本社会への怒り、恨みを募らせ、半グレの元祖となる組織「怒羅権」を結成する。酒席でのトラブルになった相手の腕を日本刀で切り落とすなど凄惨な日々を過ごし、28歳で4度目の逮捕となる。裁判官が汪の愛読書『阿Q正伝』(角川文庫ほか)を読み汪を理解しようとしたことや、服役中に多くの支援者からの手紙が届き改心。現在は受刑者に本を差し入れたり、出所後の元受刑者をサポートする日々を送る。活動の運営資金はギリギリで、また、元受刑者の金の持ち逃げなど裏切りも受けるが、彼を理解する女性と出会い、支援者に囲まれた中で結婚式を挙げる。

裏切られても支援する大変さ

 今回まず驚いたのが「刑務所はエロ本OK」ということだ。汪の活動は年間2,000円を払えば受刑者の希望する本を送るというもので、受刑者の希望書籍のタイトルに「しゃぶり尽くしフェラガール」という、どう考えてもエロ本だろうものがあった。

 刑務所の中では「成人指定」の書籍や雑誌はダメで、せいぜい性描写ががっつりしている小説『ノルウェイの森』(講談社)あたりで妄想するのが刑務所性生活だと、私は思い込んでいた。サイゾーウーマンでも中野瑠美さんが「知られざる女子刑務所ライフ」を連載しているが、“塀の中”はこの情報化社会においても秘境なのだと改めて思う。

 受刑者に本を送る活動資金はギリギリだ。年間2,000円の会費で受刑者に書籍を送るものの、番組内でその支払いができているのは全体の10分の1もいない、と伝えられていた。

 さらに汪は出所後の元受刑者を自宅に住まわせたり、役所での手続きや就職先の紹介など献身的に面倒を見るのだが、そのうちの一人、ワタル(仮名)は、汪の妻が活動のために寄付した50万円のほとんどを持ち逃げしてしまう。

 ワタルは持ち逃げした金で“飛ぶ”わけでもなく、別の出所者、ケンジ(仮名)が暮らす予定だったアパートで勝手に暮らしていた。放送されている中では、ほとんど敷きっぱなしの布団の上でタバコをふかしていて、何をするわけでもない。汪に見つかったあとも、金の持ち逃げに対し一切謝罪せず、やたら饒舌に言い訳をする姿がなんとも見苦しく、腹立たしい。

 半グレ時代の汪は、酒席のトラブルで相手の腕を日本刀で切り落とし、ケンカ相手を横浜ベイブリッジの上から突き落とした荒くれ者だ。このとき、私も含めた視聴者の多くが「汪さん、やっちまえよ」と思ったことだろう。

 しかし汪はワタルに制裁を加えず警察に突き出すこともせず、ただ黙って部屋を出る。そして「(出所後の人を)サポートしたからって、どんだけ本人を助けるか微妙、ガス抜きにしかならないけど。ちょっとした期間延ばすだけでもいいとする」と淡々と話す。この発言からは、立ち直りがたやすいことではないこと、また一方で、それでも立ち直りを支援する活動を続ける汪の、人並外れた使命感や愛情を感じた。

 『ザ・ノンフィクション』では元受刑者や、彼らを支援する人たちがテーマになる回がよくある。2019年4月21日放送の「その後の母の涙と罪と罰」では、薬物売買で逮捕されたタカシ(仮名)は出所後、教会に身を寄せ立ち直ろうとするのだが、挫折し今度は覚せい剤の使用で逮捕されてしまうまでの日々が放送されていた。

 タカシは介護職に就き、最初は頑張ろうとしているが、徐々に勤務先へ行けなくなっていく。確かにふがいないのだが、カタギとしての生活経験がないタカシが、介護職というハードな職に、おそらく時短勤務ではなくフルタイムで入るのは、挫折しやすいのではないかと思ってしまった。

 今回、汪は出所したケンジを知り合いの建設会社の取締役に紹介するが、シフトに融通を利かせるスロースタートを提案していた。そもそも、受刑者たちは「カタギのきっちりした生活」が苦手だったり、できなかったりするから犯罪に手を染めてしまうのであり、汪のやり方は実情に即した、自信の芽を育みやすいやり方に思える。

 こういったスロースタートな支援に「甘えだ」という批判はあるし、実際甘えもあるのだろう。だが、そこで「自己責任だ」と突き放したところで再犯に走ってしまうだけだ。そして、こういった「困った人」たちは、その人固有の性格のだらしなさでそんなふうになっていったというよりは、育った境遇――例えば、家庭の貧困や不和などで「困った人」に育ってしまった、という方が多いのではないだろうか。そして困った人の親も困った人で、その親もまた、という気の遠くなるような連鎖があるのだろう。

 ケンジを従業員として引き受けた汪の知り合いは、汪のことを「神様みたいなもん、すごくいい方、見たことない」と話していたが、番組を見ているとこの言葉は決して大げさではなく聞こえる。汪は人並外れた使命感を持つ、立派な人だ。だからこそ、結婚した妻との出会いが汪からの一目惚れだったというエピソードは、自分の幸せを追求する情熱もあるのだなと、人間らしさを感じさせて、なんだかホッとした。

 次回の『ザ・ノンフィクション』は「母と娘の上京それから物語 〜夢のステージ ある親子の8年〜」。舞台女優を目指し上京した娘・渡邊美代子と娘の夢を過剰なまでに応援し続ける母・美奈世のステージを目指す日々。

石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂

 

このニュースに関するつぶやき

  • 暴力的な性格が変化したのですね。
    • イイネ!14
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