「JASRACが結婚式で新たな使用料」ネットで誤解広がる…本当はどう変わるのか

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2019年10月02日 10:42  弁護士ドットコム

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JASRAC(日本音楽著作権協会)は9月上旬、結婚式や披露宴などで、同協会が管理する楽曲を複製する場合の「包括使用料」の導入に向けて、今年10月から1年間、実証実験をはじめると発表した。ところが、この発表を受けて、一部インターネット上で「新たな使用料を導入した」という誤解が広がった。はたして、今回の実証実験のポイントはどこにあるのだろうか。


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●新たな使用料ではない

JASRACによると、結婚式がおこなわれるホテルや式場では、バンドによる生演奏やカラオケなどの「演奏」「上映」利用について、以前から、多くの施設と許諾契約を結んでいる。



また、結婚式や披露宴で使用するBGMの楽曲を編集して、CD-Rなどに焼いたり、式の模様をまとめたDVDなどを制作することは「複製」にあたる。ブライダルでの録音物の複製については、2013年に運用基準をさだめて、円滑に利用できる環境を整えたという。



今回の実証実験は、(1)ブライダルの進行に合わせて音楽を再生するために使用する録音物や(2)催物を記録するための録画物に、同協会が管理する楽曲を「複製」する利用にあたる場合の包括使用料ということだ。



いったい何が変わるのか、著作権にくわしい高木啓成弁護士 に解説してもらった。



●「演奏権」と「複製権」がはたらく

「ひとことで『著作権』と言っても、著作権は、いろいろな権利が含まれた集合体です。



そのうち『複製権』は、自分がつくった著作物を他人が無断で『複製』(コピー)することを禁止できる権利です。著作権は、英語で『Copy right』というように、『複製権』が著作権の代表的な権利です。



これに対して、『演奏権』『放送権』『公衆送信権』などは、自分がつくった著作物を他人が無断で演奏したり、放送・有線放送したり、インターネット上で配信することを禁止できる権利です。



たとえば、CMで音楽を利用するケースで説明します。まず、CMに音楽を収録するということは、音楽を『複製』することなので、『複製権』がはたらきます。次に、そのCMをテレビやインターネットで流すことについて『放送権』『公衆送信権』がはたらきます。



同じように、映画に音楽を使う場合は、映画に音楽を収録することには『複製権』がはたらき、次にその映画を映画館で上映することには『上映権』がはたらきます。



このように権利の働くところが異なるので、それぞれで権利処理をする必要があります。JASRACも、それぞれ異なる手続きを用意しています。ちなみに、動画に音楽を収録することは、海外では『シンクロ権』と呼ばれ、とても重視される権利です」



●実質的に使用料の上限を設けている

「ブライダルの場合も同様です。イベントの進行に合わせて、BGMを再生できるように『CD-R』を焼くことや、BGMが流れているイベントを動画で撮影することは、音楽を『複製』しているので、『複製権』の処理が必要です。



ブライダルの会場は、音楽を流すこと(演奏権)については、JASRACと包括契約をしていますが、これと『複製権』は別なわけです。



これまで、そのような音楽CD-Rや撮影動画の『複製権』使用料は、映像制作事業者やブライダル会場、または新郎、新婦がJASRACに申請していましたが、曲数に応じて課金されていました。



今回は、一定金額で使い放題の『包括契約』の運用テストをすることになったというわけです。今回のJASRACのプレスリリースによると、使用料規定で計算した金額が包括使用料より下回る場合は、使用料規定によるとのことなので、実質的には使用料の上限を設けたかたちになったといえます」



●プロフィールやエンディングムービーは対象外

「ただし、注意すべきなのは、これは、あくまで『著作権』の権利処理の話であり、『原盤権』(著作隣接権)は別です。市販のCDなどの『音源』の権利は、発売元のレコード会社が窓口になって管理しており、こちらは別途処理する必要があります。



また、今回のJASRACのプレスリリースでは、包括契約の対象範囲が『ブライダルの進行に合わせて音楽を再生するために使用する録音物』と『催物を記録するための録画物』となっています。プロフィールムービーやエンディングムービーのような演出用の録音・録画物は対象となっていないようなので、その点も注意が必要です」



JASRACは、弁護士ドットコムニュースの取材に「利用者(事業者)から、披露宴直前まで利用楽曲の増減がある中、事前に予算立てしやすいような組み立てにできないかとの声が上がっており、それにお応えするかたちで、使用料規定を変更しました。これに加えて、利用者等から、披露宴ごとの使用料(包括使用料)の導入検討の要請があり、利用の実態を調査・検証する目的で試験的に実施する取り組みです」と説明。



さらに、「利用類型ごとになりますので、完全一律料金ではないこと、それから包括の対象とならない類型(プロフィール・エンドロールムービーなどの演出用録画物)があることにご留意ください」と付け加えていた。




【取材協力弁護士】
高木 啓成(たかき・ひろのり)弁護士
福岡県出身。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。映像・音楽制作会社やメディア運営会社、デザイン事務所、芸能事務所などをクライアントとするエンターテイメント法務を扱う。音楽事務所に所属して「週末作曲家」としても活動し、アイドルへ楽曲提供を行っている。HKT48の「Just a moment」で作曲家としてメジャーデビューした。
Twitterアカウント @hirock_n
SoundCloud URL: http://soundcloud.com/hirock_n

事務所名:渋谷カケル法律事務所
事務所URL:https://shibuyakakeru.com/


このニュースに関するつぶやき

  • イベントに集まる人間が主催者の血縁者・友人・仕事関係者に限られ、かつ音楽を聴きに来ることが目的ではない場合は、著作権利用の対象外とするって決めちゃえばいいんだよ。
    • イイネ!12
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