『仮面ライダーゼロワン』は“思考の限界”を壊してくれる 巧妙な脚本とフレッシュな映像の凄み

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2019年10月06日 06:11  リアルサウンド

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(c)2019 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

 2020年2月、かの手塚治虫の新作漫画が発表される。1989年に亡くなった「漫画の神様」の膨大な作品をデータ化し、AIに学習させることで、新たな作品を出力させるのだという。テクノロジーが故人の技術をよみがえらせる、そんなSF映画のような世界が、確実に迫りつつある。


 AIはやがて人間を超え、その仕事や役割を奪ってしまうのか。そこにある倫理的な問題は? 試されるのは、「使う側」であるはずの人間なのか、あるいは……。課題は、山積している。


参考:『仮面ライダーゼロワン』主役に抜擢! 高橋文哉が語る、オーディションの裏側と1年後の自分の姿


●約24分とは思えない密度


 そんな「今」を切り取るドラマが、現在放送中の『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)だ。主人公は、大企業・飛電インテリジェンスの若き社長、飛電或人(ひでん・あると/高橋文哉)。同社が開発したAIロボ・ヒューマギアは様々な仕事の現場で活躍しているが、敵の手によって暴走し、人々を襲い始めてしまう。社長として、そして仮面ライダーゼロワンとして、或人は暴走したヒューマギアを破壊する使命を帯びる。果たして或人は、人々の夢と希望を守り、AIロボの可能性を証明することができるのか。


 本作は、ヒューマギアの派遣先にて物語が展開されていく。お笑い芸人・警備員・寿司職人・バスガイド・漫画家・声優といった、様々な仕事の現場が取り上げられるのだ。もしロボットと一緒に働くことになったら、実際にはどのような変化が起きるのだろう。その道の職人による「まごころ」という概念は、AIに理解されるのか。あるいは、彼らを奴隷のように使役してしまって良いのだろうか。鑑賞後には自身の「AI観」が顔をのぞかせるため、ついつい考え込んでしまう。


 そんな、どこか身につまされるような物語のメインライターを務めるのは、高橋悠也だ。2016年の『仮面ライダーエグゼイド』にも見られたスピーディーな語り口は、『ゼロワン』でも引き続き発揮されている。


 仮面ライダーは30分番組だが、CM等を勘案すると、実際は24分ほどだ。その限られた尺の中で、キャラクターを動かし、アクションシーンを配置し、連続性の縦軸に触れつつ、必要な設定を開示して、次回への引きを作る必要がある。昨今ではここに、玩具として発売される新たな劇中アイテムの活躍までをも絡めなければならない。あまりに多くを盛り込みすぎると、二兎を追う格好となり「説明不足」に傾くという、まるでパズルの様相を呈している。


 高橋悠也脚本は、このパズル構成へのアプローチが抜群に巧い。手際よくノルマを消化しながら、ピース同士を重ね合わせ、「説明不足」に陥るすれすれを高速で駆け抜けていく。勢いよく針に糸を通す、絶妙なバランスだ。鑑賞後には、約24分とは思えないあまりの密度に驚くばかりである。


 例えば、第1話「オレが社長で仮面ライダー」の冒頭。AIロボ・ヒューマギアが実社会で活躍しているという設定を企業プロモーション映像で処理し、それをそのまま「飛電インテリジェンス創業者の死去」というニュース映像に繋げる。AIが活躍する舞台設定と、主人公が仮面ライダーになるきっかけである祖父の死。ここまでを、開始早々ものの1分で片付けてしまう。このように、常に複数の要素を手際よく重ねて尺を稼ぐことで、番組の主題であるAI描写やアクションシーンにしっかりと比重が置かれているのだ。


 また、主人公が人々の笑顔を重んじる性格であり、敵怪人相手に啖呵を切って変身することを決意するシーンも印象深い。「キャラクターの描き込み」がしっかり「物語の一番の盛り上がり」に重なっていく構成で、これまたそつがない。


 続く第2話「AIなアイツは敵?味方?」では、2体のヒューマギアが暴走。さらには、対人工知能特務機関A.I.M.S.(エイムズ)の不破諫(ふわ・いさむ/岡田龍太郎)が、新たな仮面ライダーであるバルカンに変身する。その登場を描きつつ、まだ2話ということもあり、主人公・或人の戦う動機にも触れねばならない。この難解なパズルのピースを、「異なるAI観を持つ或人と諫」という対比で解釈し、鮮やかにクリア。諫の気合抜群の初変身や、泣きながら前に進む或人が、劇的に披露された。


 或人は、ヒューマギアと人間の共存を掲げ、そこに希望を見出している。社長として数々の仕事の現場を回りながら、その勤勉さを説き、信じる関係性を実現させようとする。しかし、暴走してしまったヒューマギア相手には、破壊して止めるという行動を取らざるを得ない。目の前の希望の象徴を、自身の手で完全破壊する覚悟。その姿は、素顔を隠し「仮面」を被って戦う、まさに仮面ライダーなのである。


 物語を高速で展開させながら、設定や謎を視聴者の想定よりやや早いタイミングで明かし、そこに解釈の余地や苦い後味を残しながら前のめりに駆けていく。このスタイルこそが、高橋悠也脚本の魅力であろう。『ゼロワン』は、「AIロボとそれを使う人間との関係」をテーマとしているため、様々なヒューマギアの活躍や、多くの登場人物の「AI観」を提示する必要がある。スピーディーなシナリオ構成は、同番組が目指す地点の最短距離を行けるのだろう。


●「新しい」を描くための「新しさ」


 また、『ゼロワン』の面白さはシナリオだけではない。意欲的な映像、フレッシュな演出の数々が、シナリオと融合して「新しさ」に繋がっていく。


 映像の印象というのは、非常に大事なものだ。AIロボの活躍という今より少し先の未来を描きつつ、「令和ライダー」という新たな看板を掲げるのであれば、そこに印象としての「新しさ」が不可欠になってくる。「新しい」を描くための、「新しさ」が求められるのだ。


 この雲をつかむような問いに答えたのが、パイロットを務めた杉原輝昭監督である。その持ち味は、「遊び心と尽きない工夫」、とでも言えるだろうか。


 第1話、クライマックスのアクションシーン。バックで流れる主題歌と共に、ゼロワンが初回の見せ場を披露する。グラスホッパー(バッタ)の力を宿した仮面ライダーであるため、そのアビリティの象徴は「跳躍」。いかに速く、的確に、縦横無尽に、跳ねるのか。敵怪人の攻撃を避けたかと思えば、空中に放り投げられた車やバスに次々と跳び移り、その距離を詰めていく。途中のゼロワンは思い切ってフルCGで動かしつつ、だからこそ可能な自由なカメラワークでアクション性を担保。


 そして空中に浮かぶバスの車内に突入するシーンでは、「フルCGのゼロワン」「合成処理を施したゼロワン」「実際のバスの中でアクションをするゼロワン」といった数種類の映像表現をカットごとに使い分けることで、ニューヒーローの活躍を見事に彩っている。これぞ「特殊撮影」「特撮」である。


 杉原監督は、2018年の『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』にてVR技術を応用した縦横無尽なカメラワークを取り入れ、多くの視聴者を魅了した。また、2015年の『テレマガとくせいDVD 手裏剣戦隊ニンニンジャー アカニンジャーVSスターニンジャー!百忍バトル!』でも監督を務め、等身大のヒーローが巨大な怪獣に向けて『進撃の巨人』の立体機動ばりにビルの合間を飛ぶ映像を、ミニチュアに合成する形で実現してみせた。その遊び心と工夫は、令和の新番組にも受け継がれているのだ。


 もちろん、仮面ライダーは一年間の番組のため、次々と脚本や監督を手がけるスタッフが入れ替わってく。スピーディーに構成されたパズルと、「新しさ」を印象づける意欲的な映像。この土壌にどのような幅が生まれていくのか、今から楽しみでならない。


 劇中では、シンギュラリティに達したヒューマギアが次々と描かれていく。人との関わりの中で、新たな感情を得るAIロボ。それは果たして、「使う側」であるはずの人間にとって、喜ぶべきことなのか。手塚治虫の『火の鳥』等で描かれたロボットとの共存、あるいはコンピュータに支配される世界は、もはやそう遠くない未来なのだろう。


 『ゼロワン』は、そんな「今」を切り取っていく。様々な職場で活躍するAIロボを目撃しながら、ぜひ、「自分だったらどう感じるだろう」と考え込んで欲しい。巧妙なパズルとフレッシュな映像が、その思考の限界を壊してくれるかもしれない。(結騎了)


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  • 当然です!あの名作キカイダー01は手抜きでは決して生まれなかった!偉大なる作品だ!(´・ω・`)ションボリ
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