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相次ぐ視覚障害者のホーム転落事故、どうしたら防げる?

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2019年10月10日 21:02  日刊サイゾー

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日刊サイゾー

写真点字ブロックの上に立ち、白杖を使ってホームの端を確認する井上さん
点字ブロックの上に立ち、白杖を使ってホームの端を確認する井上さん

 視覚障害者のホーム転落事故が相次いでいる。今月1日には京成押上線京成立石駅のホームで66歳の女性が、その翌日には山手線新宿駅のホームで47歳の元ブラインドサッカー日本代表選手が線路に転落、電車に接触して亡くなった。後者は事故か自殺か判然としていないが、いずれにしても、事前に周囲の声がけなどのサポートがあれば防げた悲劇だった可能性があるという。ホームで白杖(はくじょう)を持った視覚障害者を見かけた場合、周囲にいる健常者はどのように介助すればよいのか? 全盲の身でありながら視覚障害者支援を行っている「MDSiサポート」代表の井上直也さん(36歳)に話を聞いた。

***

 東京・青梅市在住の井上さんは後天性の視覚障害者だが、視力を失ったあとも、iPhoneのボイスオーバー(画面に表示された文字を読み上げてくれる機能)をフル活用して積極的に外出している。電車やバスを使い、iOS(iPhoneやiPad向けのOS)の出張講師として全国の視覚障害者の元を訪ねるほか、プライベートで新宿へ遊びに行く機会も多いという。

――井上さんは視覚障害者の中では行動派として知られ、ひとりで電車やバスを乗り継いで遠方まで出かける機会も多いそうですね。そんな“外出慣れ”した井上さんでも、周囲のサポートを必要とする場面はありますか?

井上さん 「常に大なり小なり、何かしらで困っている」というのが本音です。特にホームの上は危険度が高いエリアですので、僕をはじめとする視覚障害者の多くは「誰かに声をかけてほしい」と思っています。線路はどちら側にあるのか、ホームの端はどこなのかという大きな問題に直面しているほか、時計が見えないため「今何時だっけ?」と思っているときもあるし、駅のアナウンスを聞き逃して「次はどこ行きなんだろう?」と迷っているときもある。ですから僕の場合、電車に乗る前は「駅員さんや、通りすがりの優しい人が声をかけてくれたらいいな」と思いながら、ホームを歩いていることが多いです。

――ホームで視覚障害者を見かけたら、どのように声をかけたらよいのでしょう?

井上さん 今回、新宿駅で犠牲になった方は「自ら線路に下りる姿が目撃された」と報じられていますが、その前の段階ではおそらく、黄色い点字ブロックの上に立って電車を待っていたはず。そういうときに気軽に声をかけてくれるだけでいいんです。「一緒に乗りましょうか?」とか「次の電車に乗るんですか?」とか。

 その方がもし困っていれば、「一緒に乗ってもらえますか?」とか「次の電車は何時何分発のどこ行きですか?」などと答えるでしょうし、手助けが不要であるなら「大丈夫です。ありがとうございます」と答えるでしょう。仮に自殺を考えていたとしても、周囲から温かい声をかけていただくことで、踏みとどまるケースもあるかもしれない。

「相手が視覚障害者」と考えると、物事が難しくなってしまいがちです。ホーム上で両手に大きな荷物を持っているおばあちゃんがいたら、「ひとつ持ちましょうか?」「どこまで行くんですか?」「何かお手伝いできることはありますか?」などと話しかけるじゃないですか。それと同じ感覚で声をかけてもらえたらうれしいですね。

――声をかける際の注意点はありますか?

井上さん 耳元で突然「大丈夫ですか?」と声をかけられると、目が見えない人はビックリしてしまいますので、最初はある程度の距離感を保って、うっすら聞こえる程度の声量で声をかけてもらえると助かります。困っている視覚障害者は「ひょっとしたら自分に話しかけてくれたのかな?」と思って立ち止まったり、耳を傾けたりするでしょう。

――相手の体に手を添える行為はどうなのでしょう?

井上さん 基本的には、相手の承諾を得てから手を添えていただきたいです。もちろん、命に関わるような危険な場面では問答無用でグイッと引っ張ってもらって結構ですが、そうじゃないときに無言でいきなり手を添えられると、目が見えない人はビックリしてしまうからです。

 特に気をつけていただきたいのは、電車に乗り込む直前ですね。誰も声をかけてくれなかった場合、視覚障害者は気合を入れて自力で前へ進もうとします。「よし行くぞ!」と集中力を高めて、白杖を使って電車のドアの位置などを確認しようとする。その瞬間、無言でいきなり背中に手を添えられたりすると、背後から押されたような感覚になって恐怖を覚えます。ですから、体に触れる際には、事前に「肩に手を添えますよ」「腕を触りますよ」などとお声がけいただけると助かります。

――視覚障害者の方が、電車のドアの位置や、ホームと電車の隙間などを白杖でチェックしている最中に、周囲の人が白杖をつかんで、それを正しい位置へ導こうとする場面をたまに見かけます。親切心でやっていることと思われますが、あの行為はどうなのでしょう?

井上さん 白杖は僕らにとってのセンサーなので、それを第三者につかまれてしまうと、感覚が麻痺してしまいます。お気持ちはありがたいですが、白杖には触れないでいただきたいです。

――駅通路などで道案内をする場合の注意点を教えてください。

井上さん 腕や手をつかまれてグイグイ引っ張られると、これまた恐怖を感じます。ですから、健常者が「つかむ」のではなく、視覚障害者に「つかませる」ほうがよいのかも。健常者のほうから「私につかまってください」と言って、肩、肘、リュックのベルトなどを視覚障害者につかませる。その上で、「歩くの速くないですか?」「もう少しゆっくり歩きましょうか?」などと話しかけながら、ゆるやかに先導してあげるのがスマートかつ安全でしょう。

――ホームと電車の間に大きな隙間がある場合や、階段に差し掛かった場合は、どのように伝えたらよいでしょう?

井上さん 僕の場合、「この先、隙間が大きく空いていますよ」「もうすぐ階段がありますよ」と伝えてくれれば大丈夫です。距離感や段差の高さは、白杖で確認できますので。

 ただし、それがすべての視覚障害者に当てはまるとは限りません。中には身体的な制約があり、階段を容易には上がれない方もいますので、「階段で大丈夫ですか?」「エスカレーターやエレベーターまで案内しましょうか?」などと優しく話しかけながら、その方が望む方法で案内していただけるとありがたいです。

――お互いにコミュニケーションを取ることが大事ということですね。

井上さん はい。でも、健常者同士だと視覚で補完できるコミュニケーションも、片方が見えていないというだけで、途端に難しくなるんですよ。たとえば、「あと何歩」「あと何センチ」という指示。通常、健常者がやや前方にいて、視覚障害者がその斜め後ろにいることが多いですよね。その状況で「あと一歩」と言われても、健常者から見た「一歩」なのか、それとも視覚障害者から見た「一歩」なのかが不明瞭で、こちらは判断に迷います。

 ですから、「あなたから見て、あと一歩です」などと、きめ細やかなコミュニケーションを心がけていただけると大変助かります。

――勉強になりました。井上さんのお話を聞くまでは、「視覚障害者の方に気軽に声をかけるのは失礼だったり、ありがた迷惑だったりするのかな」と思っていました。

井上さん 全然そんなことはありません。基本的には大助かりです。視覚障害者もさまざまで、全盲の方もいれば、弱視の方もいます。中にはせっかく親切心でお声がけしていただいたのに、「大丈夫だから放っておいて」と、つっけんどんな対応をする視覚障害者もいるかもしれませんが、大目に見ていただけたらと思います。

 人間誰しもタイミングが悪いときって、あるじゃないですか。僕だってタイミングによっては、「この道は慣れているから大丈夫です」と言ってお断りすることがあります。暑い寒いでイライラしているときもあるし、遅刻したりおなかが空いたりしてイライラしているときもある。これは健常者の方も同じだと思いますが、不機嫌なときに他人から話しかけられると、ついつい対応が悪くなるじゃないですか。

 だからもし無下に断られたとしても、「じゃあ、今後は声がけするのをやーめた!」とは思わないでいただきたいです。そうやって支援者をひとりでも失ってしまうと、今回のような事故のリスクが高まるからです。

――では、今後は視覚障害者の方を見かけたら、気軽に声をかけるようにします。

井上さん ぜひともそうしていただけたらと思います。できれば電車に乗り込む直前ではなく、もうちょっと余裕のありそうなタイミングにお声がけいただけると助かります。先日、新宿駅の山手線15番線ホームで亡くなった方は、事故と仮定した場合、隣にある山手線14番線ホームの「電車が入ります。お下がりください」というアナウンスや電車のドアが開く音を、自分のホームの情報と勘違いして前に出てしまい、線路に転落してしまった可能性もあると僕は思うんです。

――私も実際に新宿駅の15番ホームに目を閉じて立ってみたのですが、聴覚的な情報の遠近感が、とてもつかみづらかったです。

井上さん ですよね。集中していてもわかりづらいのだから、注意力散漫なときはなおさらです。視覚障害者はホームの端のほうにある黄色い点字ブロックの上で電車を待つのですが、点字ブロックの上に立つと、いったんホッとして、気が抜けてしてしまうこともあります。結果、アナウンスなどの音声情報を正確に聞き取れず、誤解したまま前へ進んでしまうことも十分にあり得ると思います。

 そこから急に前へ進んでいった人を、周囲の誰かがとっさに止めるのは難しい。でも、それよりも前の段階――たとえばホームに向かう階段を上っている最中や、ホームの中央にいるタイミングで誰かが声をかけていれば、もしかしたら防げた悲劇だったのかもしれないと思うと残念です。

――転落防止用のホームドアが、早く全駅に設置されるとよいですね。

井上さん それが理想ですが、巨額な費用が必要ですから、実現するにはまだまだ時間がかかりそうです。そうなる前に望むことといえば、「困っている人がいたら、とにもかくにも声をかける」というコミュニケーション習慣の定着ですね。そういう“優しいお節介”が世の中に広がっていけば、それがホームドア以上のセーフティーネットになるかもしれません。

(取材・文=岡林敬太)

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