JYOCHOが語る、“未知の音楽”を追求するクリエイティブの根幹「曲を書く上でアイデアは尽きない」

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2019年10月10日 22:11  リアルサウンド

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JYOCHO(写真=林直幸)

 ギタリスト・だいじろー(ex.宇宙コンビニ)を中心に、2016年からスタートとしたJYOCHOが、10月9日に2nd EP『綺麗な三角、朝日にんげん』をリリースする。1stフルアルバム『美しい終末サイクル』(2018年12月発売)ぶりとなる今作。JYOCHOの代名詞といえるテクニカルなバンドアンサンブルで幕を開ける表題曲「綺麗な三角、朝日にんげん」から、アコースティックギターのアルペジオと猫田ねたこ(Vo/Key)の伸びやかな歌声が調和を見せる「遠回りのアイデア」など、聴き手の想像力を掻き立てる全4曲が収録された。


参考:Age Factoryが到達した新境地ーー3作品連続リリースで起こす「日本ロック界における革命と挑戦」


 現実や空想、人間の内面性から宇宙まで、音楽におけるイメージの枠を拡張し続けるJYOCHOは、ひとつの到達点を見せた『美しい終末サイクル』を経て、次はどこへ向かうのか。音楽ライター・石井恵梨子が、国内バンドシーンでも稀有な存在感を放つ彼らの成り立ちをはじめ、だいじろーの“未知の音楽”を追求するクリエイティブの根幹に迫る。(編集部)


やりたいと思ったことは「不必要なこと」じゃない


一一初めてライブを見たとき驚いたんですよ。なんて変なバンドだろうって。


一同:ははははははは!


だいじろー(Gt/Cho):よく言われます(笑)。


一一これはJYOCHOにとって褒め言葉になりますか。


sindee(Ba):全然、褒め言葉として。


hatch(Dr):めちゃめちゃ嬉しい。


一一バンドがどんなふうに始まったのか、改めて聞かせてもらえますか。


だいじろー:まず僕がJYOCHOを立ち上げたんですけど、一番のコンセプトは、もうやりたいこと全部やる、みたいな感じでしたね。当時は自分ひとりで活動していくプロジェクト、好きなミュージシャンを集めてバンドっぽくしよう、というイメージがあって。もちろんライブはしたいと思ってましたけど。でも当初は打ち込みで作って、それを音源化するのがひとつのゴールでしたね。


一一そこから今のバンド形態に変わっていくと。


だいじろー:はい。もともと全員が知り合いで。ベースのsindeeさんは前身のバンドとか、その前から縁があったり。あと猫田さんとは弾き語りのイベントで一緒になって。いろんな出演者が出ていたんですけど、声が聴こえてきて「いいな」と思ったら猫田さんだった。それで声かけて。あとhatchくんは最初にメールをもらったんですよね。当時インストバンドをやっていて、音源とかも送ってくれて。そのあとにセッションをやってみて、っていう流れです。で、はちさんは、とあるバンドのマネージャーというか、物販のお手伝いとかしてはって。それの繋がりで知って「私フルートやってる」って聞いたから声かけさせてもらいましたね。


一一音を聴くと繊細で複雑だけど、ライブはめっちゃ汗かいてフィジカルにやってますよね。


だいじろー:そうですね。そこは各々の性質。みんなけっこうフィジカル寄りなんじゃないかなと思ってます。特にここの3人(sindee、hatchを指す)。


一一ライブでまず目を奪われるのは、だいじろーさんの超絶タッピングです。


だいじろー:そうですね。好きで極めてるっていうのもあるし、もともとテクニカルなものが好きで。ソロギターっていうジャンルがあるんですけど、それを自分で追求してた時期もあるんですよ。


一一ソロギターっていうと、押尾コータローさんみたいな?


だいじろー:そうです。まさに。ギターは父や兄の影響で始めて、ファンクとかをやっていたんですけど、一番影響受けたのは押尾コータローさんで。まずコピーして、そこからオリジナルを作ってましたね。


sindee:ちなみに僕、だいじろーを最初に見たのはその頃で。まったく面識はないんですけど、僕はライブハウスの音響をやってて、だいじろーは高校生で。あれってギター始めてどれくらい?


だいじろー:たぶん1年半とか。高2のとき。


sindee:その時にソロギターでやってて、押尾コータローさんの曲かと思ったら「オリジナルや」と。もうほとんどクオリティは変わらない。ディテールで言ったらそこまで及ばないのかもしれないですけど、一般人の耳にはほとんど同じに聴こえる曲。そういうレベルのものを弾いてましたね。よく覚えてる。


一一すごい。高校時代はずっとギターにのめり込んでいたんですか。


だいじろー:いや、僕はあんまりギターにはのめり込まないタイプで。


hatch:え? そう? ……衝撃の事実が今明かされた(笑)。


だいじろー:いや、たとえば「こういう楽曲ができたから、このテクニックが必要だ」とか、その枠ができてからやるタイプですね。どっちかというとギターにのめり込むよりも、作曲にのめり込んでる時間のほうが長いです。


一一作りたい、が先だと。ソロでやろうとは思わなかったんですか?


だいじろー:一時期は考えました。それこそsindeeさんが見てた時期とかはそう考えてたんですけど、それ以降はバンドにハマっていくんです。理論はわからないんですけど普通じゃない、みたいな部分に。


一一バンドって、理論よりも感情や空気によって左右されたりしますよね。


hatch:人と一緒に作る時点で、自分だけの世界じゃなくなるので。何かが起こるかもしれないワクワクっていうのは、確かに人と音楽をやる醍醐味かもしれないです。JYOCHOって、シンプルなビートとコードに歌が乗るだけじゃない、ある意味で余白の少ない音楽だと思うんですけど、そこにさらに化学反応が起きて、思ってもみない展開だったりテンションになっていくのは、やっぱり病みつきになるものがあると思う。


だいじろー:うん。まさにそうですね。


一一今は、ソロギターでやってきたテクニカルな音と、いわゆる歌ものが普通に共存していますけど。これって前例があるものなんですか。


だいじろー:ないと思います。でも最初に言いましたけど、僕、やりたいことを全部やるのが好きで。もちろん引き算が大事なのもわかってますけど、やりたいと思ったことは「不必要なこと」じゃないと思ってて。だからとりあえず全部やっちゃおうって、直感で。


■ポップと未知の二面性


一一みなさん、だいじろーさんをミュージシャンとしてどう見ていますか。


sindee:稀ですよね(笑)。でも絶対、この音に人間性もちゃんと曲に出てるんで、そこが魅力的やなと思いますね。連動してない人もいますよね。作ってる音楽と個人は別だっていう。でもだいじろーはすごくハッピーな人間で、作ってる音楽も情緒があってハッピーで。説得力があるなって思いますね。


hatch:僕もそう思ってる。一言で言ったら、天才なんです。


だいじろー:……この時間、いいっすねぇ(笑)。


hatch:ほんと、自分の周りにいる天才って言ったら真っ先に浮かぶし。プレイヤーとしても、音としてアウトプットすることにも長けているし、生み出すものの質も高い。だから、稀な存在です。


はち(Fl):うん、そう思います。でも音楽以外では、普通に楽しいキャラクターの人、っていう印象が強くて。


猫田:私が勝手にそう思っているんですけど、あんまり地球人だと思えない(笑)。普段のやり取りとか会話とか、言い出すことも面白いし変わってる。曲を書くスピードもすごく早いんで。


sindee:なかなかできないと思うんですよ。「ここまでにこれを絶対作る」って約束をしても、納期が近いと達成するのが難しい。でもだいじろーは必ず上げてくるんです。そこに決して妥協もないし。その信頼感はありますね。


一一バンドのスタートから2年半でフルアルバム一枚、ミニアルバム二枚、EPが二枚と多作ですからね。


だいじろー:はい。常に、楽曲を書くうえでアイデアは尽きないので。


一一ライブが好きというのはわかるんですけど、ひとりで楽曲を生み出していく作曲者としての喜びは、また別ですよね。


だいじろー:そうですね。個人的には曲を作っている時間もすごく楽しいです。僕、その時その時にやりたいことを全部やりきるんですね。でもある程度時間が経ったらその曲の記憶とかないんですよ


一一え、曲ごとに忘れてしまうんですか?


だいじろー:1カ月かけて作るとかじゃなくて、もうほんと1日、2日で作っちゃうんで。その間は寝たくもなくて。できるまでガーッと集中して、ずっと心がワサワサしてるんです。なので、あんまり記憶がないんですよ。


一一宮崎駿さんがそうだって聞いたことがあります。集中すると3日くらいは平気で寝ない人だと。


だいじろー:あぁ、僕もそのタイプですね。気になっちゃうんですよ。集中しちゃうとあまり眠くもならなくて。僕も3日とか作り続けたことがある。


一一いるんですね、そういう人。つい「天才」って言いたくなりますけど、でもJYOCHOの音楽は気難しいものではなくて。


sindee:うん。そこは絶対にポップさがあると思いますよ。


一一だいじろーさんはポップスを作りたいんですか? それとも未知のものを作りたい?


だいじろー:その両方です。まさにポップスも好きで、未知のもの、見たことないものも大好きで。その両立は常にやりたいなと思っていますね。


一一いまや新しいコードなんかないし、未知の音楽っだてそうそうないだろう、という意見も聞きますけど。それでも未知の音は……。


だいじろー:あ、全然できると思いますよ。もちろんそれが過去にあった素晴らしい人たちのコピーの可能性はあるんだけど。でも、自分が見たことないようなものには挑戦できてると思います。


猫田:私、最初にJYOCHOの音源聴いてポップだなと思ったんですよ。で、いざ歌おうと思ったら案外難しい。入ってみたら構造の複雑さに気づく感じで。ほんとにリスナーとしてはポップ、受け入れやすい音楽っていう印象だった。


hatch:その二面性はJYOCHOのテーマのひとつかなと思ってる。騙し絵みたいな。こうとも取れる、こうとも取れるっていう、それが共存してる。


一一共存ですよね。対立はしていない。


hatch:そうです。それはJYOCHOの音楽性の特徴で。普通にJ-POPを聴く女の子がこれを好きって言ってくれたりする。


sindee:テクニカルなものをテクニカルに提示するって、案外簡単やと思うんですよ。JYOCHOはテクニカルなものをテクニカルじゃなく聴かせられてると思うんで、それは自分たちでも嬉しいです。


一一ポップさに関しては、猫田さんの声であることも重要で。音としての響きがとてもいい。これがベタベタした歌い方だと印象が違うから。


だいじろー:そうですね。基本的に僕は猫田さんの歌が好きなので。猫田さんの声質、歌ってる時の雰囲気とか。あんまりシャープだったり強い質感は求めてないかもしれない。


■JYOCHOが好きな人は世界中に潜在している


一一あと、もうひとつの楽器にフルートを加えたのはなぜだったんです?


だいじろー:当初は予定になかったんですよ。ただ、ギター/ベース/ドラム/鍵盤/歌っていうのは、僕的にけっこう見てきた編成なんですね。ギターを主旋にしてイントロやアウトロを作ることもけっこうありきたりだなと思って。なので、もうひとり主旋律を担えるパートが欲しくて、当初は二胡と尺八を募集したんですよ。


hatch:ほんまに募集してたよな(笑)。


だいじろー:Twitterで。そしたらはちさんが「フルートやってる」って教えてくれたんで、「フルートかぁ……尺八吹けへんのかな?」みたいなDMのやりとりをして(笑)。バイオリンでも良かったんですけど、やっぱ二胡とか尺八がバンドに入るって、まず聞いたことないじゃないですか(笑)。もちろん探してもいなかったんで、フルートっていう流れになったんですけど。


一一面白い(笑)。普通、その発想は出てこない。


だいじろー:音だけで選んで、直感的に面白いかなと思ったんですよね。あと「二胡と尺八」って言いたいじゃないですか(一同笑)。最初はそういうシンプルな気持ちでしたね。1st(『祈りでは届かない距離』)のデモは全部尺八で打ち込みを作ってたし。それをはちさんに近々で覚えてもらって。


はち:一週間なかったからね(笑)。


一一「なぜ二胡と尺八なのか」って、本気で突き詰めれば何か理由があるのかもしれないけど。でも、直感的に新しいもの、今まで見たことないものを思いついてしまうのがだいじろーさん。


だいじろー:日頃からそういうこと考えるクセはつけてて。「今日一日、今までに一回もやったことないことやってみよう」とか。そういうのはけっこうある。


hatch:あの、遠征とか行くと僕とだいじろーが同じ部屋になることが多いんですけど、そういう話をよくするんですよ。


だいじろー:「一日一回、自分を超えていこう!」って。それで何したっけ? あ、お風呂入ったんだ。で、上がってちゃんと頭拭いて、「風呂上がったよー」って言いながらペットボトルの水をかぶるっていう(一同爆笑)。


hatch:せっかく頭拭いた後に、またビッショビショになってて。


だいじろー:「これ見たことある?」って聞いたら「ない」って言ってくれたんで……満足です(一同爆笑)。


hatch:僕も、そういうだいじろーには慣れてたつもりですけど、あれはびっくりした(笑)。普段はそんなことばっかりしてるんで。


はち:……変なの(笑)。


一一そこで笑えるのがいいですよね。理解できないタイプの天才じゃない。


だいじろー:やっぱり僕、退屈なのが嫌で、好きなことやるためにこのバンドやってるから。メンバーにも楽しんで欲しいし。JYOCHOでは僕も楽しいし、メンバーも退屈しないことをやりたい。それは常に頭にあります。


一一sindeeさんは現状他のバンドもやっていますけど、JYOCHOでしか得られない刺激とか新しさってありますか。


sindee:僕、このバンドに入ってから、なんか自分の音楽生活が変わったんですよ。見方も変わったし、かなり刺激をもらってますね。だいじろーにも、彼以外の3人にも。JYOCHOは僕が一番年上なんですけど、教わることのほうが多くて。すごい抽象的で申し訳ないんですけど、楽しくなりました、音楽が。


一一年を重ねてそう言えるって素敵ですよね。


sindee:そう。自分の中でもどっか退屈なところ、やらなければいけないと思ってることが、バンドをやってると自然と増えることに気づくというか。僕もけっこう退屈しいなんで、普通のベーシストが弾かないベースラインを今まで弾いてきたつもりやったんですよ。でもだいじろーの楽曲に自分のベースを当てたり、だいじろーが提案するベースラインを弾くと「自分って全然新しいことできひんかったんや!」ってわかったり。そこが面白い。


猫田:うん。私も自分で作曲してたけど、もう全然発想が違うから。言葉が合ってるかわからないけど、すごくレベルの高いもの、未知のことも含めて、いいほうに成長できてる気がします。私も楽しくなりました、音楽生活が。


一一JYOCHOを聴くことでリスナーもそういう経験ができます。「あ、こんな発想があるのか」っていう驚きが、より音楽を楽しむことに繋がる。


はち:うん。私は普段オーケストラとか吹奏楽をやっていて、電気モノ(=エレキ)の中でフルート吹く機会もなかったんですよ。でもJYOCHOはどこに行っても珍しがられるから。よくあるバンド……って言うと失礼かもしれないけど、よくあるロックのバンドとは曲もスタイルも全然違うから。このバンドにいるだけで、いろんな新しい出会いがあるのかなって思いますね。


一一だいじろーさんは、将来的にこのバンドでどうなりたいという理想を持っているんでしょうか。


だいじろー:はい。場所はどこでもいいんですけど、JYOCHOが好きな人って世界中にいっぱい潜在していると思ってて。最近の目標は、そういう人たちにちゃんと出会いたいなっていうことで。しっかり届ける活動にシフトしていきたいなと思ってますね。僕は日本人やし日本が好きやし、今まで日本にかなりこだわりを持ってたんですけど、最近はもっと広い世界に向けていきたいと思いますね。実際に行ってみたら、JYOCHOを聴いてくれる人が世界中にいることもわかったんで。そこはさらに広げていきたいなと思ってます。(石井恵梨子)


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