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死闘を制した佐々木朗希に見た涙「精神的に追い詰められていたんだ」

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2019年10月15日 10:21  webスポルティーバ

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盛岡四が見た怪物・佐々木朗希(後編)

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 0対2で迎えた9回裏。三塁側の盛岡四(四高)スタンドからは「ぶちかませ、いてこませ」の大合唱が鳴り響いた。原曲はJリーグ・ガンバ大阪のチャントで、四高の定番曲というわけではなかったが、今夏はこのチャントをすると得点が入る縁起のいい巡り合わせがあった。

「魔曲」に乗せられるように、四高は猛反撃を開始する。先頭の4番・畠山航輔が145キロのストレートを見極めて四球。この出塁に四高ベンチは大いに沸いた。ベンチにいたエースの菊地芳(かおる)がその理由を解説する。

「今年の四高の特徴で、7〜9回に得点が入らなかったことが1回もないんです。先頭打者が出る時は何かあるので、航輔が出たときは『ワンチャンスあるな』とベンチが盛り上がりました」

 続く2年生の好打者・黒渕怜はこの試合初の長打となるライト線二塁打を放ち、無死二、三塁。打席にはこの試合ノーヒットの横山慶人が入る。

「ヨコ〜!」

 クラスメイトの友人が叫んでいる声が聞こえてきた。三塁側スタンドはお祭り騒ぎ。だが、それも打席に入ると不思議と聞こえなくなった。横山は「自分のスイングをしよう」と心に決めていた。

「試合前からテレビを見ていても配球は基本的に外一点張りなので、外だけを張っていました」

 カウント2ボール、2ストライクから佐々木が投じたのはワンバウンドになるフォーク。だが、横山のバットは止まった。老朽化したピッチングマシン「スリーローター」での特訓が生きたのだ。フルカウントから狙うのは、外のストレートしかない。横山は「ストレート以外はごめんなさい」と腹を決めた。

 佐々木が投じたストレートを横山はコンパクトなスイングで弾き返す。低く強い打球はショートの右を抜けていった。横山は打球が抜けたあとの記憶がすっぽりと抜け落ちているという。

「あとで映像を見たら、びっくりするくらいガッツポーズしていました」

 2者が生還して2対2。それは怪物がこの夏初めて喫した失点だった。熱狂は三塁側スタンドだけでなく、バックネット裏まで伝播していった。

 四高の攻撃はさらに続く。バントヒットや四球で二死満塁とチャンスを広げた。打席に入るのは、この日ヒットを放つなど佐々木に順応していた2番の高見怜人。菊地は「こいつなら決めてくれる」と信じていた。普段は何を考えているのかわからない変わり者だが、高見には天才的なバットコントロールと勝負強さがあった。

 打席の高見も「そんなに速くは感じないし、練習してきたことをやれば打てるな」と内心考えていた。だが、カウント1−1からのボールを打ち損じ、レフトファウルフライに倒れる。仕留められなかった高見は「自分の力不足」と唇を噛んだ。

 四高の及川優樹監督は「できればこの回に決めたかった」と悔やんだが、流れは四高に傾いた。延長10回裏には、3番・岸田直樹がレフトポール際に大飛球を放つ。「サヨナラだ!」と四高ベンチは沸き立ったが、わずかに切れてファウルに。横山から「いじられキャラであり、愛されキャラ」と評される岸田は、この一打をクラスメイトからも「入っていれば時の人になれたのに」といまだにいじられるという。

 岸田の一打で寝た子を起こしてしまったのか。佐々木は息を吹き返したように10回一死から4者連続三振を奪い、疲れをまったく見せなかった。

 そして延長12回、試合が決まる。

 無死一塁で打席に入った佐々木が、外角の速球を払うようにとらえた。打った瞬間、捕手の横山は「打ち取った」と思ったという。

「低めを引っかけさせてゲッツーを打たせたかったんですけど、少し(ボールが)浮いてしまいました。でも、長い腕と手首だけでとらえた腰の入っていないスイングだったので、『ライトフライだな』と思ったんです。それがどんどん伸びていったので、『なんてやろうだ……』とビックリしました」

 佐々木の打球は、ライトフェンスを余裕で越えていった。この2ラン本塁打で試合は決まった。その裏は3者連続三振。佐々木は12回、194球を投げ抜き、21三振を奪っていた。

 両校が整列して礼を終えたあと、菊地は佐々木に声をかけた。

「お前なら甲子園に行けるから、公立の代表として甲子園に行けよ!」

 佐々木は笑って「ありがとう。絶対行く」と返してくれた。そして校歌を歌い終わったあと、佐々木が涙を流しているのが見えた。難攻不落に見えた怪物も、精神的にギリギリの瀬戸際まで追い詰められていたのだ。

 あの死闘から3カ月近い時間が過ぎた。及川監督は今も、「あの瞬間だけは、俺たちは高校野球のど真ん中にいたんだよな」と選手たちに話すことがあるという。

 エースの菊地は関東の大学に進学し、硬式野球を続ける予定だ。

「負けたけど一番楽しかったし、記憶に残る試合になりました。あれから大船渡の何人かと仲良くなって、『もう1回やりたいね』と連絡を取り合っているんです」

 殊勲の同点打を放った横山は、大学受験に向けて猛勉強中。大学で野球を続けるつもりはなかったが、「朗希から打てて自信がついた」と国立大で野球を続けようと考えている。及川監督からは「日本の高校生で159キロを打ったのは今のところお前だけだ」と冗談めかして言われるという。

 横山には「教師になりたい」という夢がある。横山は嬉々とした表情で「あの試合の経験を生かして指導していきたい」と語った。

 横山が教え子に「経験」を語る頃、佐々木朗希はどんな存在になっているのだろうか。佐々木の存在が大きくなればなるほど、その経験は「伝説」となって、長く語り継がれていくに違いない。

(おわり)

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