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アリババ、テンセントに見る中国「新小売」の現在地 OMO先進国から日本企業へのヒントを探る

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2019年10月16日 09:02  MarkeZine

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写真游仁信息科技(上海)有限公司 シニア・マネージャー 家田昇悟氏(写真左)/株式会社コメ兵 執行役員 マーケティング統括部長 藤原義昭氏(写真右
游仁信息科技(上海)有限公司 シニア・マネージャー 家田昇悟氏(写真左)/株式会社コメ兵 執行役員 マーケティング統括部長 藤原義昭氏(写真右
 アリババグループの創業者、ジャック・マー氏が「新小売」(ニューリテール)という概念を提唱したのが2016年。現在、中国ではオンラインとオフラインの融合が急速に進み、OMO先進国に躍り出ている。9月12日(木)・13日(金)に開催された「MarkeZine Day 2019 Autumn」では、上海にて日系企業のCRM支援に携わる家田昇悟氏を迎え、中国の最新事情から日本で活かせるヒントを読み解くセッションが展開された。


■モバイルペイメントで購買データの獲得狙う


 中国ではモバイルペイメントの波に続いて、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)からスタートアップ企業まで多数のプレーヤーが、オンラインとオフラインを融合させた新しい小売の形を打ち出している。その先陣を切っている、開業1年で中国国内に2,000店舗を展開した「luckin coffee(ラッキンコーヒー)」や、アリババグループが出資する生鮮スーパー「盒馬鮮生(Hema Fresh/フーマ―)」は、日本のメディアでも頻繁に取り上げられている。


 環境の差はあるものの、日本で今後の発展が見込まれるOMOについて、中国に学ぶべき点は多いはずだ。今回のセッション「来るOMO時代、マーケターは何に備えるべきか? OMO先進国・中国の現状から、日本の未来を探る」では、コメ兵の藤原義昭氏を聞き手に、中国留学からメルカリ、メルペイを経て現在は上海でCRM支援を手掛ける游仁信息科技の家田昇悟氏が登壇。新小売が成立する前提とも言える、日中で異なるモバイルペイメント事情を踏まえ、その競争の次に波が来ているOMOをベースとする「新小売」と各プレーヤーの動き、さらにサプライヤーの改革について、順に解説された。



游仁信息科技(上海)有限公司 シニア・マネージャー 家田昇悟氏(写真左)

株式会社コメ兵 執行役員 マーケティング統括部長 藤原義昭氏(写真右)


■日常に浸透する「WeChat Pay」と「Alipay」


 まず、中国におけるモバイルペイメント普及の理由としてよく語られる“偽札論”(中国は偽札が出回っているからキャッシュレスが浸透したという論)について、家田氏は現地生活者へのインタビューなどから「偽札だけでモバイルペイメントを語るのは非常にあやうい」と語る。日本には偽札がないから普及しない、と決めつけると本質を見誤る。「むしろ、QRコード決済の登場時に、現金を含めた通貨や決済手段のUXがどうだったかを把握すべき」と家田氏。


 たとえば成人10万人あたりのATM数は、中国は日本の3分の2程度で、現金が著しく不便だとは言えない(※)。一方、現金以外の決済手段はあまり広がっていなかった(図1)。他にも法律の問題などから中国では個人間送金のハードルが低い、銀行口座との連携がUI/UX含めて簡単、といった点もモバイルペイメント普及の理由と考えられる。



図1:中国でモバイルペイメントが登場した当時、電子マネーやその他の決済手段はあまり充実していなかった。

(投影資料より/以下同)


 現状、中国におけるモバイルペイメントは、テンセントが運営するSNS「WeChat」(現地名:微信/ウェイシン)を母体とする「WeChat Pay」と、アリババの「Alipay」が二強だが、この競争は決済サービスでは終わらない。日常的にどれだけ接触するかというアプリ起動回数、つまりトラフィック獲得が争われているのだ。


 WeChatは“中国版LINE”と語られるが、実はLINEに加えてFacebookとメッセンジャー、Instagram、Twitterのすべてが集約しているイメージだという。そのため1日の接触回数も相当で、「店舗ではWeChatを見ながらレジに並び、順番が来たらペイメント画面に切り替える」(家田氏)という行動が起きている。


 一方、当然Alipayは1日の起動回数はかなり劣るものの、WeChatが起動されていないとペイメントの想起が薄いWeChat Payに比べて「Alipay=決済」の紐付けは強固だ。


※参照:河合祐子(日本銀行)「海外の事例から考える金融デジタル・アップデート」


■モバイルペイメントが「新小売」を攻める理由


 次に、本セッションのメインテーマである「新小売」の現状を見ていく。冒頭で紹介したように、これはジャック・マー氏が2016年に提唱した言葉である。マー氏は「10年、20年後の未来、ECという言葉はなくなる。残るのは新小売だけ」と語った。続く2017年、元GoogleチャイナCEOで現在は著名なベンチャーキャピタリストであるリ・カイフ氏が、オンラインでもオフラインでもない双方が融合した環境を「OMO−Online Merges with Offline」と表した。これを家田氏は「ネット上の人口がこれ以上増えないところに到達し、今後は純粋なインターネット産業ではなくオンラインとオフラインが交わるところが起業機会になる、と論じた」と読み解く。


 2年経ち、現在「新小売」に猛攻しているのは、ジャック・マー氏が築いたアリババと、WeChatで生活圏を囲うテンセントだ。モバイルペイメントの強力プレーヤーが新小売に乗り出す理由は、「EC市場成長率の鈍化の打開と、データの取得」と家田氏。


 現在、中国のEC化率は20%を超え、世界最高となっている。だが当然、年々モバイルEC成長率自体は鈍化しており、2017年で前年比+30%、今後も徐々に目減りするだろう。その危機感を抱えて小売に目を向けると、成長率こそ鈍いものの、残り80%を占める購買シーンに彼らは勝機を見出したというわけだ。


 データ取得についても、実はモバイルペイメントでは限界がある。自社以外の小売の場において、決済事業者には決済IDと場所と総額だけが取得でき、「何を何個買ったか」のPOSデータは手に入らないからだ(図2)。



図2:決済事業者は「決裁者ID、店舗、総額」はわかるが、肝心の「何をいくつ買ったか」はわからない。


■いまだ多くの購買データはオフラインにある


 決済によって購買データを膨大に手に入れられれば、様々なデータビジネスの可能性が広がる。実は、WeChat Payが拡大した当時、各小売事業者に持ち込まれた事業提携の内容は「手数料を抑えるからPOSデータを共有してほしい」というものだったという。それは小売業としては事業の源泉を明け渡すことにもなるので当然合意されなかったが、購買データの取得は大きなポイントだ。


 たとえばアリババを例にすると、既出の通り中国のEC化率が20%、またアリババのCtoCおよびBtoCでのECシェアが約50%のため、おおまかに中国人の購買情報の10%を有しているといえる。「10%“も”知っていると捉えるか、10%“しか”知らないと捉えるかで見方が変わるが、ここまでの文脈を考えると『10%“しか”知らないから、残り90%の購買情報を獲得するためにオフラインに進出する』ということが彼らの考えだろう」と家田氏。


 アリババは現在、ゲームや映画、動画などのエンターテインメントプラットフォームも傘下に収めている。藤原氏の「おそらくこういった場で行動データを取得し、購買データと掛け合わせて広告配信を回すのでは?」との指摘に家田氏も同意し、「購買データを把握していることは大きい」と応じる。


■ペイメント覇者の経営戦略とスタートアップの猛進


 では今、アリババとテンセント、そして彼らや他の投資家からの出資を受けて伸びているスタートアップ企業は具体的に何を仕掛けているのだろうか? 家田氏は独自の概念図(図3)を提示し、「ここで伝えたいのは、やはりモバイルペイメントの普及がすべてを推進するカギになること」と話す。ユーザーがオフラインの場でモバイルペイメントを使えば使うほど、オンラインとの融合が進み、非ECである80%の購買情報にアクセスできるからだ。そして「新小売」に経営戦略として攻め込むアリババとテンセント、かたやOMOを味方に新業態にチャレンジするスタートアップ、という構図がある。



図3:急速に進展している「新小売」の背景には、経営戦略とスタートアップという2つの動きがあり、下支えしているのがモバイルペイメントの普及だ。


 こうした全体像の中で、「アリババとテンセントはとにかくどのような小売にも投資している。オセロのコマをひっくり返していくような感覚」と家田氏(図4)。特にアリババは家電や百貨店、大型スーパーのトップ企業に出資する傍ら、中国国内に600万店舗もあるといわれるパパ・ママショップ(主に家族経営の小規模な生活用品店)のフランチャイズ化も強力に推進している。



図4:アリババ(左)とテンセント(右)は各業態のあらゆるプレーヤーに投資。アリババが百貨店の「銀泰」に74%出資するなど、経営権を握るケースも。


 さらに両社は、こうして大規模に獲得する生活者の購買データとその管理システムをもって、小売業へのBtoB支援に乗り出している。グローバルではクラウドやCRM、メディアなどのテーマごとにプレーヤーが分かれているが、アリババとテンセントは実はこれらをすべて自社サービスとして有し、一気通貫で統合している(図5)。「ポイントは、顧客のオン・オフの購買や位置情報、決済情報をすべて一元化IDで管理していること。この威力は大きい」(家田氏)。



図5:BtoCの大規模な囲い込みを活かし、BtoBにも乗り出す“二強”。たとえばクラウドサービスでは、両社とも商圏分析・出店、顧客獲得(クーポン配信)、会員サービス運用など一連をSaaSで提供する。


■新小売の次はクリエイティブのパーソナライズ


 では、この二強に対してスタートアップ企業の動きはというと、冒頭でも触れたラッキンコーヒーやフーマーなどが健闘している。「ラッキンコーヒーのような選択と集中は、日本の企業にもいいヒントになると思う」と藤原氏。ラッキンコーヒーはアプリ注文を入り口にしているため、家賃の高い路面店で顧客を誘う必要がなく、内装も簡素でいいので固定費が相当抑えられているのだ。


 フーマーも会員アプリでのAlipay決済必須で100%データを取得している上、ECの物流倉庫も兼ねる特殊な業態だが、店舗では体験を重視し、リアルな場ならではの楽しさを演出している(図6)。



図6:フーマ―(Hema)店内。活きのいい海鮮を見せるなどライブ感を演出する一方で、家田氏によると「オンライン注文を50%以上にする」という予想外のKPIを掲げているそうだ。


 「総合的に見ると、日本では実現できないと感じられるかもしれないが、実はコンセプトに分解すれば決して真似できないわけではない。日本国内に類似の例もある」と家田氏は指摘する(図7)。業態面に加え、経営革新という点でも、たとえばフーマーではモバイルペイメント必須によって100%の会員化を実現しているが、日本ではスーパーチェーン「オオゼキ」がオペレーションを追求して90%近い会員化率を誇っている。「新小売の特徴をひも解けば、自社に合致し革新を起こせる要素も見つかるのでは」と家田氏。



図7:家田氏が分解したフーマーの業態革新。コンセプトを細分化して見てみると、日本国内にも既に実践して成功へ進んでいる企業があることがわかる。


 最後に「新小売の次」として提示されたのは、サプライヤーの革命だ。顧客データの分析がいかに進んでも、各人に応じた商品またはクリエイティブが提供できなければ、ポテンシャルを活かしきれない。現在この点を、アリババでは画像(バナー)自動生成ツール「Luban」や動画自動生成ツール「Aliwood」といったツールを開発し、一歩先んじている。


 以上、極めて進みが速い中国「新小売」の現在が紹介された。両氏のコメントにもあったように、前線をキャッチアップするだけでなく、自社にどう活かせるかという視点を部分的にでも持つことが重要だろう。

このニュースに関するつぶやき

  • 個店のID-POSを分析するだけではその店の傾向しかわからない。そのスケールを上げることにより、全体の動向がわかり、全体の動向の中での販売店・個店の動向が理解できる。
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  • 結局のところアリババが凄いのは、エコシステムを作り上げているということ。オンラインとオフラインという垣根を無くすことにITの意義を見出したこと。
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