Netflixはなぜ“クリエイター重視”を実現できたのか? 坂本和隆ディレクターが語る、独自の方法論

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2019年10月16日 11:11  リアルサウンド

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『全裸監督』 Netflixにて全世界独占配信中

 世界最大級のオンラインストリーミングサービスとして、ここ日本でも幅広く普及したNetflix。人気オリジナルシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4の製作決定や、マーティン・スコセッシが監督、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが主演を務める『アイリッシュマン』といったオリジナル映画も大きな注目を集めている。日本からも『全裸監督』が、そのセンセーショナルな作風と主演の山田孝之を筆頭とした役者陣の演技で話題を呼び、今後も園子温監督の『愛なき森で叫べ』、蜷川実花監督の『FOLLOWERS』、湯浅政明監督が小松左京のベストセラー小説をアニメ化した『日本沈没2020』などが配信を控え、より大きな展開を予感させる。


 今回リアルサウンド映画部では、Netflixでオリジナル作品の制作に携わるコンテンツ・アクイジション部門ディレクター・坂本和隆にインタビュー。近年のオリジナルコンテンツの変化や、海外との連携、今後のビジョンについてまで話を聞いた。


参考:ほか撮り下ろし写真はこちらから


ーーNetflix入社のきっかけは?


坂本和隆(以下、坂本):前職で、Netflixが携わっていた作品の制作現場に関わっていたんです。その作品制作が終わった後に、当時のNetflixから声をかけてもらって入社しました。2015年に日本にNetflixが進出した直後なので、4年前ですね。


ーーヘッドハンティングされた理由はなんだと思いますか?


坂本:前職で色々な国を飛び回っていたのは大きいかもしれないです。アメリカにルーツを持つNetflixを日本の市場で成功させるには、アメリカと日本、それぞれの仕事のノウハウを理解する広い視野が求められるので、そういった部分がフィットしたのかもしれません。


ーー坂本さんは、Netflixにおいて「コンテンツ・アクイジション部門ディレクター」という職種を担っています。


坂本:日本発の実写のNetflixオリジナルコンテンツの制作全般を管理しています。普段は、監督、プロデューサー、プロダクションの方と企画会議をしたり、進行している企画の脚本の打ち合わせが主な業務です。打ち合わせが終わったあとは、脚本や編集の確認や、映画などを観る時間をインプットとして設けています。これが僕の一日のルーティンです。地味で、すみません(笑)。


ーーNetflixの業務において、苦労する場面はありますか?


坂本:苦労は感じていなくて、むしろ、常に面白いです。これだけスケールが広く、全世界を視野にものづくりができるというダイナミックな環境もなかなかないと思うので。全世界にチームがいますが、海外のチームと企画の話をすると、それぞれバックグラウンドや考え方が違うので、「この国はこういうものを出してくるんだ」という刺激があります。それこそ、オリンピックみたいな(笑)。お互いの意見のディスカッションは楽しいです。


ーーNetflixは各国が独立してコンテンツ制作に取り組んでいるんですね。


坂本:Netflixには「支社」という概念はないので、Netflix JapanはNetflix Japanのチームでビジネスを進めています。「視聴者にとって一番ベストの決断をする」というシンプルな考え方がベースにあるので、非常に決断が早い会社だと思います。


ーーNetflix Japanのオリジナルコンテンツの海外でのリアクションはどうですか?


坂本:すごくいいです。インターネット上の意見も指標の一つになると思いますが、実際にそのコンテンツに携わった方に別のオファーがあったのを知ると、よりそのリアクションの大きさを感じます。例えば、Netflix Japanオリジナルコンテンツを担当した監督に、アメリカのエージェントの方から「連絡したい」というお声がけがあったり、出演した俳優の方に他国のNetflixから、「次のオーディションに呼びたい」という連絡が来たり、様々なオファーが飛び交っている。こうした状況を見ると、日本のスタッフやキャストが全世界でより活躍していく予感がします。190カ国以上に作品を配信するグローバルプラットフォームだからできることだと思います。


ーーNetflixのオリジナルコンテンツはクリエイター発信のものも多いです。


坂本:Netflixオリジナルコンテンツの大きな特徴の一つに、コマーシャルブレイクを挟まないので尺の規制やその概念を越えて作品づくりができるということがあります。そのことで、必然的にクリエイターの自由度が高くなるのです。また、安全な労働環境も重視しています。10時間以内で負担がないスケジュールを目標に、Netflixでは平均7日〜10日で1話を撮る。そうするともちろん予算もかかりますが、Netflixではグローバルに展開しているので、かけられる制作予算の感覚も異なり、クリエイターにとって従来の現場と異なる環境を整備できることも特徴かもしれません。コンテンツの自由さ、グローバルに展開しているNetflixだからこその環境が、クリエイターのやりやすさに繋がっていると思います。


 Netflixはクリエイターとの距離がすごく近い会社です。クリエイターやキャストの方々がふらっとオフィスにいらっしゃって、自分や宣伝担当も含めて弊社の全チームと直接話すことで、社員としても「この方は、こういう風に作ろうとしているんだ」と勉強をして、そのクリエイターの意向を宣伝に活かしていくという進行がとれるんです。


ーー距離が近い故に、大変な部分も多いのでは?


坂本:そうですね。お互いの意見をぶつけてチャレンジングな作品を作るということは、全員ニコニコしながらできることはないですから。それでも会社全体で、クリエイターの思いと向き合って、コンテンツを発信するにあたって後悔のないアプローチは非常に重要視します。


ーーNetflix全体はもちろん、Netflix Japanもローンチ当初と比較してより広く認知された印象があります。早くから入社している坂本さんもその変化は感じますか?


坂本:感じますね。加入者が1億5,100万世帯を到達したことのみならず、社内でもバックアップ体制が充実しました。今では、作品を作る過程において、予算管理や法務、制作……と各業務をそれぞれのチームで支えられるので、僕の立場としては純粋に一つの作品をお客様にどう届けるかということにより専念できる環境になりました。


ーー過去のオリジナルコンテンツと近年のオリジナルコンテンツのカラーの差異を感じます。この変化は意識的でしたか?


坂本:大きな意識はしていませんが、以前は、テレビ局との連携プロダクションとしてやらせていただくことが多かったのです。今はよりクリエイター発信のプロジェクトが多くなりました。もちろん、これからも各テレビ局との連携によるコンテンツ制作は行っていきます。


ーーサブスクリプションサービスの業界は今、大きな盛り上がりを見せています。他社を意識することはありますか?


坂本:ライバル視はしていないです。むしろ、どんどん盛り上がっていくことが楽しみでしょうがないですね。業界全体の動きが活性化するのは非常に良いことですし、各社が共存、切磋琢磨してより良いサービスを目指していくことが重要だと思います。


ーー坂本さんから見て、現在のNetflix Japanにおける課題はありますか?


坂本:正直に言えば、いつでも社内全体の目が行き届く状況で、各作品の企画を進められると理想的ですね。量が増えると、自ずとそれぞれの作品の詳細まで知ることが難しくなります。そんな中でも、しっかりとクリエイター・作品と向き合って企画・制作を進めていくことが、視聴者の方にとっても一番大切なことだと思います。


ーー今後のNetflix Japanのビジョンは?


坂本:Netflixはサブスクリプションサービス、お客様に「課金」していただくビジネスモデルです。継続的に契約していただくために、いい作品を皆さんに提供すること、そして作品の視聴時間を伸ばすことがビジネスとして今後もすごく重要です。オリジナルコンテンツの数はこれからより増えていくので、その質をどれだけ充実できるかを今は目指しています。また、質というベクトルの強化はもちろん、完全に違うフォーマットーー例えば、インタラクティブ作品を制作する動きも少しずつ出てきています。インターネットで動いているNetflixだからこそ、できることがたくさんあると思いますし、そういった新たな活動も広げられたら、よりグローバルな展開やお客様の満足度にもアプローチできると思います。常に、新しいことに対するアンテナは伸ばしています。 (取材・文=島田怜於)


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