Apple製品のディスプレイの進化と未来への可能性 - 松村太郎のApple深読み・先読み

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2019年10月17日 06:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
9月20日に販売が始まった、2019年モデルのiPhoneとApple Watch。いずれの製品も、正面には大きなディスプレイが構えており、製品の体験の主役ともいえる存在となっている。今年のモデルでは、それらのディスプレイがそれぞれの方向性に進化しており、非常に興味深い。

Appleのスクリーン全般に関して俯瞰しながら、2019年モデルの主力製品について見ていこう。

○実はまだ終わっていないディスプレイのRetina化

AppleはiPhone→iPad→Macというサイクルで、iPhoneで量産化にこぎ着けたテクノロジーや体験を他の製品に拡げていく戦略を採ってきた。Siri、Touch ID、Face IDなど、製品の体験に直結する技術は、iPhoneからiPad、Macへと拡がりを見せていった。

その中で、最初にスタンダードとなったのがRetinaディスプレイだ。2010年に発売されたiPhone 4には、これまでと同じ3.5インチサイズながら、ピクセル数を4倍に高めたRetinaディスプレイが初めて搭載され、まるで印刷のような画面表示をスマートフォンに持ち込んだ。

その後、Retinaディスプレイは2012年に4インチに、2014年には4.7インチと5.5インチに拡大し、上位モデルではフルHDの解像度を持つRetina HDディスプレイとなった。2017年には、有機ELパネルを搭載したSuper Retinaディスプレイを搭載した。

同時に、iPad 3、iPad mini 2、2012年以降のMacBook Proが続々とRetina化されていき、iMacも4Kや5Kの解像度を持つモデルが登場した。そして、長らくRetina対応を果たしてこなかったMacBook Airも、2018年秋についにRetina化された。Appleのディスプレイ付き製品で「Retina」非搭載で残っているのは、廉価版の21.5インチiMacのみだ。意外にも、間もなく10年が過ぎようとしているApple製品のRetina化は、まだ終わっていないのである。

○Retinaの上として登場した「XDR」

Appleは、2019年6月に開催したWWDC 19で、珍しく新しいハードウエアを発表した。モジュール型で拡張性と排熱性に優れたMac Proと、これと組み合わせる6K解像度を持つPro Display XDRである。

このXDRとは「拡張ダイナミックレンジ」のことで、液晶ディスプレイながらコントラスト比100万:1を実現し、リファレンスディスプレイ並みの画質を1/5の価格で実現する唯一の存在として登場する。

そして、今年のiPhone 11 Proシリーズに搭載された有機ELディスプレイにも、新たに「Super Retina XDR」と、プロ向けディスプレイに付けられた拡張ダイナミックレンジの称号が与えられた。有機ELディスプレイは黒が消灯になるため、コントラスト比がもともと高い。今回のiPhone 11 Proのディスプレイは、最大輝度を高めることでダイナミックレンジをさらに拡張し、200万:1というスペックと、最大輝度1200ニトを実現した。

Appleは、現在「Pro」と名前のつく製品に対して、XDRをうたうディスプレイを採用し始めている。映像制作や写真編集におけるプレビューを行う機器という性格を考えると、妥当な対応といえる一方で、これを実現できるテクノロジーが限られているのも事実だ。

Pro Display XDRは、液晶ディスプレイのバックライトをより明るくすることでコントラスト比の向上を行っているが、そのために排熱機構をディスプレイに注意深く実装している。iMac ProやMacBook Pro、さらにはiPad Proも、今後このXDRをうたうディスプレイを搭載する場合、少なくともコントラスト比100万:1を実現することになるが、一体型の場合はどうしても熱の問題と消費電力の問題がつきまとう。

iPad ProやMacBook Proでこれを実現するためには、iPhone 11 Proのように有機ELディスプレイへの移行が必要になりそうだが、価格が格段に高くなるだろう。それでも、存在していることが重要であれば、Appleは価格度外視のプロ向け製品として用意してくるのではないか、と思う。
○オールスクリーン化によるフォームファクターの変化

iPhone初のディスプレイにまつわるデザインとして、オールスクリーンがある。iPhone Xを登場させた2017年、縁まで敷き詰めた有機ELディスプレイを採用し、TrueDepthカメラ部分を避けるノッチを用意して、それまで表面にあったホームボタンを排除した。

このデザインは、2018年に価格を抑えて登場したiPhone XRにも採用されたが、こちらは液晶ディスプレイで有機ELと同じスクリーンの実装を行い、「Liquid Retina」と名付けられた。もともと、Retinaディスプレイは高解像度のディスプレイとして登場しているが、ハイエンドモデルに用意されるSuper Retinaが有機ELであることから、これと対比する意味で名付けられたと考えている。

iPhone 11にもLiquid Retinaは引き継がれており、Appleのスマートフォンはノッチのあるオールスクリーンの意匠で統一された。2018年10月に登場したiPad Proにも、縁なしの液晶ディスプレイが搭載され、こちらにもLiquid Retinaのブランド名が使われた。ただ、iPad ProはiPhoneほど縁までディスプレイを敷き詰めているわけではなく、TrueDepthカメラを搭載しても画面の切り欠きは存在せずに済んだ。

オールスクリーンになり、タッチパネル以外に操作に用いるボタンなどがなくなったため、ホームボタンを用いていた操作がスクリーン下部を用いるジェスチャーへ置き換えられた。ディスプレイのテクノロジーの変化によって、ヒューマンインターフェイスのスタンダードも変更されたことが分かる。
○Apple Watchで登場したLTPOと常時点灯ディスプレイ

2019年のApple新製品のディスプレイでもう一つ指摘しておかなければならないのが、Apple Watchの新しいディスプレイだ。2018年モデルでは、画面が拡大するデザイン変更が行われているが、テクノロジーとしてLTPO(低温ポリシリコン+酸化物)という、LPTSとIGZOのいいとこ取りをするような形で耐久性と省電力性を高めた有機ELディスプレイが採用されていた。

今年はさらに、パワーマネジメントや画面の書き換えを司るコントローラーを改善したことで、これまでと同じ18時間のバッテリー持続時間を維持しながら、スリープ時に消えてしまっていたディスプレイを常時点灯とし、手首を返して画面をアクティブにしなくても時間などの情報が確認できるようにした。

通常60Hzで書き換えている画面を1Hz、つまり1秒間に1度の書き換えにすることで、スリープ中の消費電力を大幅に抑えている。スムーズに動く秒針のある文字盤であれば、その秒針を表示させないようにしたり、1/100秒の単位を表示するストップウォッチやワークアウト計測では秒までの表示にするなど、1Hzの書き換えに対応するよう表示を変更している点も目につく。

これらの改良に加え、画面表示のデザインも省電力性を追求したものにしていることが分かる。たとえば、文字盤が白く塗られているデザインであれば、スリープ時に文字盤を白黒反転させる。巨大な数字を表示するアナログ時計であれば、文字の縁取りだけ表示し、内側を消すか暗くする、といった具合だ。有機ELディスプレイは黒が消灯であるため、黒い領域を増やせば電力消費はその分抑えられる。その特性をインターフェイスデザインに反映させる工夫もまた、Appleらしい取り組みといえる。

○常時表示とXDRが次世代の標準に

今後のApple製品のディスプレイのトレンドは、Apple Watch Series 5に採用された常時表示がほかのモバイルデバイスにも採用されていく方向性と、Pro Display XDRやiPhone 11 Proに登場したXDR対応ディスプレイの拡大の2つの方向性を見ることができる。XDR対応をうたうディスプレイは、iPad Pro、iMac Pro、そして今年にも登場が期待されるMacBook Proの新モデルなどへも採用され、プロの制作環境を支える仕様となるだろう。

これらの実現を通じて、LPTO有機ELディスプレイや、有機ELの次ともいわれるマイクロLEDなどの新しいテクノロジーへの移行が進んでいくことになるとみられる。前回の記事でも指摘したとおり、これらの変化はApple Watchへの実装が主導していくことになる、と考えられる。(松村太郎)

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