医師の過労死裁判、病院の主張にユニオンが抗議 「医師の働き方改革に悪影響を及ぼす」

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2019年10月17日 16:42  弁護士ドットコム

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長崎市の長崎みなとメディカルセンターに勤務していた男性医師(当時33)が2014年12月に亡くなったのは過重労働が原因だとして、遺族が病院を運営する市立病院機構に約4億1000万円の損害賠償などを求めた訴訟。病院側は、約1億6700万円を遺族に支払うよう命じた長崎地裁判決を不服として控訴し、福岡高裁での審理が始まっている。


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これに対し、全国医師ユニオンは10月17日、「医師労働において看過できない非常識な主張が数多く見られる」と病院側の控訴理由書に抗議する声明を発表。東京・霞が関の厚労省記者クラブで会見を開いた。



男性の妻は文書で「市民病院の控訴理由書の中に、あたかも自己責任と思わせるような内容があり、悔しさしかありません。本当の意味での医師の働き方改革が進むべきだと思います」とコメントした。



●「厚労省の検討会報告書を悪用している」

男性は2014年4月から、長崎みなとメディカルセンターで心臓血管内科医として勤務。12月に自宅で心肺停止状態で発見され、亡くなった。発症前1カ月の時間外労働は159時間で、亡くなるまでの半年間の月平均残業時間は約177時間だった。7月末から10月中旬には84日連続で働いていた。



全国医師ユニオンの植山直人代表によると、病院側は控訴理由書で「時間外労働時間数の把握は申告時間によるべきである」、「当直時間帯で労働をしていない時間については、疲労を蓄積することにはならないから、労働時間から控除することが適切」、「他の年や同僚医師と比較して、特に過重な状態となっていた訳ではない」などと主張したという。



また、厚生労働省の「医師の働き方改革における検討会」が2019年3月に取りまとめた報告書を引用し「報告書においても、『技能向上が必要な研修医らには地域医療と同様の水準を設定する』とされ、例外的な扱いとすることを許容している」と述べた部分もあったという。



声明はこれに対し、「厚労省の検討会報告書を悪用している。控訴理由書に引用されている検討会での発言や資料は、何ら安全配慮義務違反を正当化するものではない。今後の働き方改革に悪影響を及ぼすことが危惧され、病院側は自らの立場を改めることを求める」などと危機感を表明した。



また、抗議声明とは別に、田上富久長崎市長に長崎みなとメディカルセンターの適切な労務管理を市側が働きかけるよう求める要請文と厚生労働大臣に対して医師の働き方で検討されている健康確保措置などに関する要請文を提出した。



小児科医だった夫を過労自殺で亡くした「東京過労死を考える家族の会」の中原のり子さんは「毎年被災者が増え続けていることに危機感を抱いています。医師の働き方が異常であることを訴え続けたい」と話した。


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