Official髭男dism 1stアルバム『Traveler』、強豪揃うなか首位獲得 新たなJ-POPの王道となるか

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2019年10月19日 12:41  リアルサウンド

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Official髭男dism『Traveler』(通常盤)

参考:2019年10月21日付週間アルバムランキング(2019年10月7日〜10月13日/https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2019-10-21/)


(関連:【ライブ写真】Official髭男dism、初の日本武道館公演


 2019年10月21日付のオリコン週間アルバムランキングで1位を飾ったのはOfficial髭男dism(以下、ヒゲダン)のメジャー1stアルバムとなる『Traveler』だった。推定売上枚数が84,992枚と奮っている。およそ一年半前にリリースされたインディーズ時代の『エスカパレード』はいかほどかと調べたところ、オリコンの週間アルバムランキングでは初登場15位、初週の推定売上枚数が4,000枚なかば。15ランクアップ、売り上げは19倍だ。もちろん初週に限り、かつCDの売り上げしか考慮に入れていないのでちょっとした話のタネ程度にしかならないだろうが、尋常ではない飛躍というほかない。それだけシングルの一曲一曲がインパクトを与えてきたということだろう。


 以降は2位がスピッツ『見っけ』、3位がBABYMETAL『METAL GALAXY』、4位が渋谷すばる『二歳』と続く。すでに一定のファンベースを築いている並びのなかで堂々1位をとったヒゲダンの勢いがかえって実感できるラインナップだ。


 というわけで今回ピックアップするのはやはり『Traveler』。3位のBABYMETALもこれまで以上にジャンル横断的なアプローチをきわめた作品で興味深いが、ひとこと言及するにとどめておこう。


 ヒゲダンの魅力は、バンドというフォーマットに囚われない多彩なアレンジを柔軟に取り入れつつも、各々のプレイヤーが持つ魅力も存分に発揮されたそのバランス感覚にあると思う。それはたとえばボーカルの藤原聡の声質やボーカリゼーションの巧みさであったり、小笹大輔のギタープレイだったり。そうしたプレイヤーとしての地力に、EDMやトラップといったサウンドをバンドならではの捻りを加えながら取り入れる手際も加わって、2019年ならではの新たなJ-POPの王道をつくりだした。


 蔦谷好位置をプロデューサーに迎え、Brasstracksの仕事を彷彿とさせるキャッチーなブラスづかいをフィーチャーした今夏のヒットシングル「宿命」にしても、藤原の書くメロディラインの巧みさ、そして彼の歌唱の豊かなニュアンスがなにしろ耳を惹きつける。


 歌が、メロディが、コードが主役。それを届けるサウンドも「いま」に合わせてアップデートされている。といっても、いたずらに打ち込みやエレクトロニクスを取り入れて現代風を装うのみならず、4つ打ちのビートにカッティングとブラスが小気味よいグルーヴ感とアーバンな雰囲気を漂わせる「最後の恋煩い」であったり、イントロからヘヴィなギターが飛び出すロックチューン「FIRE GROUND」であったり、いかにもバンド映えするサウンドでもしっかり聴かせるあたりにバンドのポテンシャルが見える。冒頭をかざる「イエスタデイ」でフィーチャーされるこってりしたストリングスには個人的にやや閉口してしまうのだが。


 ベース兼サックスの楢崎誠が作詞・作曲を手掛け、楽曲中でもメンバーが次々にボーカルをとる「旅は道連れ」のように、メンバー間の関係性が見えてくるようなほっとする一曲が用意されているのも心憎い。もちろん楽曲自体が良いという前提あってのことだ。『Travelers』が貫いているのは、「ああ、バンドしてんなぁ」と思ってしまう、その安心感でもあるかもしれない。


 アルバム全体の構成でもうひとつ言うならば、アルバムを閉じる「Travelers」の、弾き語りの空気感をたっぷりと含んだ導入から、一気にDAW的なエディットとプリズマイザー的な重厚なコーラスが登場する流れも素晴らしい。2分足らずであっさりと幕を引くいさぎの良さで、これでもかと歌声を聴かせる重厚な一作に軽みを与えている。


 と、くどくどと語ってきたところで、やはりアルバムのなかで「Pretender」が放つ存在感の大きさはやはり段違いのように思う。イントロのギターリフを4小節、11秒間延長する「052519」でじらし、「Pretender」に突入する流れはわくわくする。楽曲の魅力について詳述する余裕はないが、なんといってもサビ。反復しながら下降するメロディから、やや散文的にも感じられる起伏の多いメロディを経由して、〈君は綺麗だ〉のロングトーンで締める。以前「宿命」のメロディラインについて書いたときも同じようなことを思ったが、シンプルなリフと転がるような歌メロの対比で劇的な印象を挙げるのが得意なバンドなのかもしれない。


 人気曲もあり、アルバムとして重すぎず、バンドのこれまでと未来を想像させる一枚として、ブレイクにふさわしい作品だ。(imdkm)


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