『モア・チャレンジング』に進化しながらも「ドライバーに優しい」アウディR8 LMS EVO/GT300マシンフォーカス

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2019年10月21日 11:31  AUTOSPORT web

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Audi Team Hitotsuyamaが2019年のスーパーGT GT300クラスに投じている2019年モデルのアウディR8 LMS GT3 EVO
14車種29チームがしのぎを削る2019年のスーパーGT GT300クラス。そのなかから1台をピックアップし、マシンのキャラクターや魅力をドライバー、関係者に聞いていく連載企画。2019年シーズン第4回目は、世界中のGT3カーレースを戦い、スーパーGTではAudi Team Hitotsuyamaが投じている『アウディR8 LMS GT3』をピックアップする。同チームは2019年からデリバリーが開始されたエボリューションモデルのR8を走らせており、今回は2018年からチームへ加わった富田竜一郎に、最新モデルのインプレッションを聞いた。

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 1998年のル・マン24時間に登場したプロトタイプカー『R8』のテクノロジーを盛り込み、2006年にデビューしたアウディのフラッグシップスポーツカーがR8。そして、当時将来性を期待されたGT3カテゴリーに向け、2009年に生まれたのがアウディR8 LMS GT3だ。

 アウディ・スペースフレーム(ASF)を採用、V10エンジンを積む市販レイアウトを有効に活用しており、市販車から流用されたパーツは非常に多い。セールス価格も優秀で、39万8000ユーロ(約4700万円)とGT3のなかでもリーズナブルだ。

 アウディ全体では、これまでGT3をはじめGT4、TCRレーシングカーのRS3 LMSを含め563台ものレーシングカーを販売しており、全世界的にカスタマーレーシングをメーカーとしての柱のひとつにしていることが分かる。

 そんなアウディR8 LMS GT3は、2009年にデビューした初代のうち、2012年に登場したエボリューションバージョンの『ウルトラ』、2015年にデビューした二代目R8 LMS、そして2019年に登場したR8 LMS GT3 EVOの四世代に分けることができる。

 それらのR8 LMS GT3を一貫して使用し続け、アウディジャパンから信頼を集めGT300クラスを戦い続けているのが、Audi Team Hitotsuyamaだ。2018年からチームに加わった富田竜一郎に、『EVO』となった2019年モデルについて聞くと、「操作に対して的確に反応してくれるクルマですし、ドライバーとクルマの一体感をものすごく感じることができるクルマ」だという。

 もともと富田は、スーパーGTでR8 LMSをドライブする以前に、スーパー耐久でR8 LMSウルトラに乗った経験があるが、2018年のR8 LMSに乗った印象は「まったくの別物」だったという。

「自分がしたことに対して、すごくクルマがリニアに応えてくれますし、自然吸気ということもありトルク特性もフラットで、乗りやすいです。それに、ミッドシップのスポーツカーなのでカッコいいですし、『いいクルマだな』と素直に感じることができましたね」というのが2018年の第一印象だった。

■ドライバーに対して本当に優しいクルマ

 富田はアウディ以外にもキャリアを語る上で欠かせないニッサンGT-R、スーパー耐久で乗ったポルシェ等、さまざまなレーシングカーを乗り継いでいるが、アウディの特徴は「ドライバーを大事にクルマを作っていること」だという。

「まず面白いのは、クラッチがなくてアクセルを踏むと進んでいくところ。オートマともまた違いますが、半クラッチを勝手にやってくれて進んでいく感じは他のクルマにはないですね」

「最近はポルシェがそうなっていますが、これを2015年の後半からやっているのはスゴいと思いますね。発進はたぶん誰でもできると思います(笑)」。これだけでも、まずジェントルマンドライバーのみならず、誰でもが乗れそうな気がしてしまう。

「あと今ではけっこう当たり前ですが、ペダルの位置をスライダーで動かすことができますし、ステアリングコラムの可動幅もものすごいんです」

「というのも、アウディはシートをすごく大事に考えていて、アウディ製以外のシートは使えない。そのシートは剛性を高めるために、クルマに直付けになっていて動かせないんです」

「だからハンドル位置の調整幅がとても大きいんです。(パートナーである)リチャード(ライアン)と僕なんて、身長が20cm以上違うのに、お互いに気持ちよく運転できています。市販車より可動幅があるんじゃないかというくらいですね。個人的にハンドルとの距離は大事で、ちょっと遠いと肩が痛くなってしまうのですが、このクルマだと平気です」

 さらに、2019年のEVO化で「室内の導風がすごく増えた」ということも大きな要素。「今年はタイまでクールスーツもエアコンの導風も何もつけなかったくらい。それくらい涼しいです。先日の鈴鹿(10時間耐久レース)でも快適でしたし、冬とかはちょっと寒いくらい(笑)」という。

「他のクルマに乗ったとき『アウディだとコレがあるのにな〜』というポイントがけっこうあります(笑)。難しいことではないんだけど、そこに手をかけることによって、どれだけ大きな利益が生まれるかのか、しっかり分かっているメーカーだと思います」と富田。

「ドライバーに対しては本当に優しいクルマですが、その分ドライバーが頑張れるようにしているのかな、という気はしますね。アウディはRS3 LMS TCRもそうですし、何に乗っても懐が広いと思います」

 アウディR8 LMSはコストの面でも他のGT3よりもリーズナブルで、かつパーツのライフも長い。それというのも市販のR8とのパーツ共通率が高いためで、「エンジンも2万kmもちますしね。市販車でももっと短いんじゃないってくらい(笑)」というから驚きだ。

 また、日本国内ではアドバンスステップによるパーツサポートもあり、ユーザーの満足度が非常に高いレーシングカーと言えるだろう。

■よりチャレンジを要求。最終戦は要注目!?

 そんな2019年モデルのアウディR8 LMS EVOだが、2018年モデルとの違いについては「空力については少しセンシティブな部分はあったのですが、それをマイルドに、扱いやすくした方向です。それほど大きな変化ではなく、冷却特性やギヤの内部部品など、目に見えないところが大きく変わっています」と富田は語った。

「外観で言うとフロントバンパーくらいしか変わっていないのですが、バンパーが変わったことで空力が良くなり、ブレーキで今まで以上に攻められるクルマになりました。その意味では正常進化ですし、『今までカユくても手が届かなかったところに届くようになった』と思いますね」

 一見「マイルド」というと、車両の特性としてはダルな方向に振られたと感じがちだが、「トガっているところは前よりトガっている」と富田は説明する。

「今までだと『どうなるか分からないけど行ってみよう』だったのが、『行けるから行ってみよう』になりました。より空力を使いこなして走らなければいけないクルマになったので、ドライバーとしては『モア・チャレンジング』なクルマになりました」

 また、富田が2019年のスーパーGTで大いに強調するのが、低速コーナーでのスピードアップだ。「ブレーキングのパフォーマンスがすごいです。他のクルマが止まってるんじゃないかと思うくらい。このクルマとヨコハマタイヤが組み合わさったときのブレーキングパフォーマンスはすごいです。GT500もブレーキングでは僕たちは抜けないんじゃないでしょうか」とまで言う。

「ブレーキングのパフォーマンスもそうですし、スタビリティも高い。高速コーナーはもともとダウンフォースもあるし速いんですが、低速でのつっこみと出口のトラクションがあるから、小さいコーナーがすごく速いです。前のクルマよりも進歩しているかな」

 2019年シーズンのスーパーGT、シリーズ戦は最終戦もてぎのみだが、ここはR8 LMS EVOが得意とするコース。富田自身も「もてぎはもともと速いコースですし、すごく期待していますね。」と言う。

「幅は入ると広くて、入るまでが遠い感じがします」というセットアップも、「手がかりをつかみつつある」というHitotsuyama Audi R8 LMS。2019年シーズン最終戦でも、GT300クラスを盛り上げてくれるマシンの1台となることは間違いなさそうだ。

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