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漫画家・吾妻ひでおさんが死去。失踪どん底生活を、江口寿史さんと語った日

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2019年10月21日 16:42  日刊SPA!

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写真ギャグ漫画への思いを語る吾妻ひでお
ギャグ漫画への思いを語る吾妻ひでお
 漫画家・吾妻ひでおが10月13日未明、東京都内の病院で死去した。享年69歳。食道がんで闘病していたという。

 ’69年「まんが王」でデビューし、以降次々に不条理ギャグ、SF、美少女漫画の元祖として活躍。その後、ホームレス生活、アルコール依存症による入院で執筆活動を中断。しかし、休業時のどん底生活を赤裸々かつ軽妙に綴った「失踪日記」で復活を遂げるなど、漫画界に多大な影響を与えた。

 今回特別に2015年6月13日に行なわれた漫画家・江口寿史とのトークショーのリポートを再掲載する。

 お互いの作品への思い、日記漫画を描く楽しさ、苦しみ、ギャグ漫画への思い、そして酒……縦横無尽に語り尽くした。

※このトークショーは、江口寿史の日記エッセイ『江口寿史の正直日記』の文庫化発売記念として行なわれたものです

◆ギャグ漫画家は5年でつぶれる!?

江口:吾妻さんと初めてお会いしたのは81年。いしかわ(じゅん)さんが開いた事務所のこけら落としのパーティでしたね。ひとことごあいさつしただけなんですが、吾妻さんもいらっしゃるらしいと聞いて、それはもう行かねばと。当時連載中だった『ストップ!! ひばりくん!』の原稿をほっぽりだして行ったのを覚えています。もう30年以上前の話ですが、こうして公の場でお話しさせていただくのは、実は初めてなんですよね。

吾妻:あのときは誰も僕に話しかけてくれなくて……悲しくてすぐ帰りました。家に帰ったら奥さんに「あなたが話しかけるなっていうオーラを出しているからだ」って言われたんですけど。

江口:漫画家はみんなシャイですから(笑)。ギャグ漫画家同士シラフで集まっても、何も話さずに終わるんじゃないかな。僕が酒を飲む理由もそこにあるというか、シラフだと見ての通り好青年なもので(笑)、酒を飲むと自分が漫画のなかで描いている「先ちゃん」のキャラクターになれるのがラクなんですよ。吾妻さんは何で酒を飲むようになったんですか? 「この徹は踏むまい!」(吾妻氏の『失踪日記』『アル中病棟』では自身のアルコール依存症のエピソードが克明に綴られている)と思って、今日はそのあたりをぜひくわしく伺いたくて(笑)。

吾妻:やはり仕事のストレス……あとは江口さんと同じでシラフだと人と会話できないんです。

江口:アル中の人って飲んでても飲んでなくても楽しくなさそうじゃないですか。『失踪日記』を読むと、吾妻さんは朝から飲んだりされてましたけど、それで仕事はできたんですか?

吾妻:朝から飲むと……それはできないですよね。そのときは仕事をしていない時期でした。

江口:吾妻さんは「タバコを買いにいってくる」と言って失踪されましたが、僕は「ちょっとゴミ袋買ってくる」って言って2〜3日消えたことがあります。そもそも原稿が落ちそうな状態で、片付けなんてしてる場合じゃないのにどうしても片付けたくなっちゃって。そしたら「あ、ゴミ袋がない!」って。むちゃくちゃですよね。

吾妻:手塚るみ子さん(プランニングプロデューサー。手塚治虫の長女)は「秋本治さん(『こちら葛飾区亀有公園前派出所』)みたいなシチュエーションコメディは長続きできるけど、ナンセンスギャグの漫画家は5年でツブれる」とおっしゃっていました。

◆ギャグを思いつけないと苦しくて苦しくて

江口:僕がデビューしたのが77年で、吾妻さんはすでに活躍されていましたけど、70年代後半ってギャグの競争が一番激しかった時代ですよね。で、ほかに負けないギャグを考えなきゃ!と思うし、自分のギャグにも飽きてくるし。最高のギャグを思いついた!っていう成功体験があると、ドラッグ中毒みたいなもので、あの刺激をもう1回!ってなってしまう。そこまでたどり着けないと苦しくて苦しくて……。そこで酒に逃げちゃう人もいるんでしょうけど、僕は苦しいときは「もう寝る!」っていって寝てましたね。

吾妻:でも、江口さんが落としてくれたおかげで、いまの漫画家はずいぶん休めるようになりました(笑)。

江口:あのころって、週刊連載やりながら月刊も描くとか普通でしたもんね。小林よしのりさんとかはやってたけど、僕は単純に「だってやれないもん!」「できないもん!」って。

吾妻:でもそれは、壊れないで生き延びるための自己管理能力に長けているんだと思います。

――お互いの作品への思い、印象に残っている作品を教えて下さい。

吾妻:初めて読んだ江口さんの作品は『すすめ!! パイレーツ』(77年連載開始)です。おもしろかったので、悔しくて途中から読むのをやめました。

江口:やめたんですか(笑)。僕はチャンピオンで『ふたりと5人』(72年連載開始)を読んで以降、時系列で読んでます。それまでのギャグ漫画って、暑苦しいっていうか、説明過多っていうか、くすぐってでも笑わせるぞ〜って感じだったんだけど、吾妻さんのギャグはすごくクールでしたよね。全然説明がなくて、読者を突き放しているような感じで。

吾妻:アメリカのホームドラマの影響だったんです。ボケても誰もツッコまない。

江口:ツッコミはないけど、会場の笑い声は入っているみたいな。それ以前だとみなもと太郎さんの漫画もそういうところがあったと思うんですが、みなもとさんは絵におかしみがあるじゃないですか。吾妻さんは絵もクールだから、最初は影響を受けるとか、熱心な読者とかいうよりは、こちらもちょっと距離をもって見ていました。『不条理日記』(78年)以降、さらに作品に狂気が加わってきたあたりから熱心に読むようになった気がします。

吾妻:余裕がないときはほかの漫画家の作品は読めないんだけど、少年誌の連載をやめて余裕ができたときに『ストップ!! ひばりくん!』を読みました。チャンピオンではかなり無理をして描いていたから、「いらない」と言われたときは正直ラクになりました。少年誌では内輪ウケや楽屋オチが嫌がられて、描かせてもらえなかったり。江口さんはそういうことはなかったんですか?

江口:僕の場合はとにかくもう遅すぎるから、編集が口出す間をあたえない(笑)。

吾妻:作者自身が出てくるのってイヤがられませんでしたか?

江口:いや、もう「なんでもいいからとにかく描いてりゃいい!」って感じで(笑)。原稿が描けないときに出てくる「白いワニ」も、実は吾妻さんの影響なんですよ。漫画のコマをヘビがよこぎっていくのがすごくおもしろくて、コマをつぶすのにすごくいいな!と思ってワニを描いたんです。ギャグの歴史って、イコール手抜きの歴史なんですよね。

◆なるべくダメなヤツに描いたほうが日記はおもしろい

――「作者自身が出てくる」作品の究極ともいえるのが「日記」ですが、自分が主人公の作品を描くことの楽しさ、苦しさはどんなところにありますか?

江口:自分ばっかり描いてると飽きるっていうのはありますよね。

吾妻:あとは、作者である自分が漫画のなかで自由に遊んでいる感じが、現実と乖離しているのはつらいですね。手塚治虫さんの作品も作者がよく登場しますが、読んでいるぶんには楽しかったんだけどな……。

江口:吾妻さんは、『失踪日記』や『アル中病棟』は元になるようなメモは取ってたんですか?

吾妻:いえ、全部記憶で描いてます。

江口:え!? ほんとですか? ぼくは何でも細かくメモしてます。今回の『正直日記』も、当時ホームページに掲載していた日記が基になっています。今はホームページの日記は書いてないけど、この日誰と会ったとか何を食べたとかは全部記録してます。そういう日常生活のことって、書いておかないと忘れちゃいませんか?

吾妻:日常生活は忘れちゃうだろうけど……ホームレス生活は忘れないですよ。失踪中は、ガス屋で働いているときが一番健康的でしたね。朝から夕方まで働いて、焼酎を3合飲んで寝る。

江口:あの時期の描写だけはお酒がおいしそうでしたね。

吾妻:まあ、アル中はアル中なんですけどね。飲まないと寝られなかったから。

◆失踪中に飲んでたサラダオイルはうまかった

――日記は基本的にノンフィクションですが、ときには脚色やウソも入るものなのでしょうか?

吾妻:基本は本当のことを描きますが、ウソも描きます。でもウソを入れるときはわかるように描きます。「愛人が3人いる」とか、「北海道に牧場を持っている」とか。

江口:僕の場合は半々ですね。全部「正直」には書いてません。半分は誇張もあるし、入れ替えもあります。

吾妻:『正直日記』はおもしろいけど、読んでいるとつらくもなります。まとめると、大酒飲んで下痢して二日酔いで原稿オトすって話なんだけど。

江口:(笑)

吾妻:ポツポツと原稿を落とし始めて、最後はどしゃぶりになっている。吉田戦車さんも「読んでいるとだんだん胃が痛くなる」と言っていましたよね。今回描き下ろした新作漫画「金沢日記2」も胃が痛くなる。単行本時から収録されていた「金沢日記」の第一弾は、田村(信)さんと和泉(晴紀)さんと、漫画家仲間で山上たつひこさんのアシスタントをしに金沢まで行くっていう楽しい話だったのに、続編 の2では打って変わって……。

江口:今回帯に使われている「江口さんには心底あきれました」っていう山上先生のひとことは、描き下ろし漫画に出てくるひとことなんですけど、冗談じゃないですからね。本気ですからね。でも、自虐もやりすぎは禁物だけど、なるべくダメなヤツに描いたほうがおもしろいじゃないですか。

吾妻:自分に酔ったような描き方をしても、読むほうはつまらないですしね。

江口:日記なんだけど、自分を俯瞰しているんですよ。これやったらネタになるんじゃないか、おもしろいんじゃないかと思う自分がいる。『失踪日記』のなかでは吾妻さんがサラダオイルを「おいしい」って飲んでいるのが印象的だったんですけど……。

吾妻:あれはおいしかった。

江口:おいしくないでしょ! 化け猫じゃないんだから!

吾妻:いや、揚げ物に使ったあとの油だから、エビとかカツとかの匂いがうつってて。

江口:そうか、味がないわけじゃなかったんですね(笑)。

最後は、江口氏がいま気になっている女性タレントをスライドで紹介。美少女絵の第一人者である江口氏と、萌えの元祖とも言われる吾妻氏は、注目している女性タレントにも共通点が!? 特に、江口氏がグラビアアイドルの中村静香を紹介したときは、思わず「しーちゃん……!」と静かに叫んだ吾妻氏。「60歳過ぎてしーちゃんとか言ってていいのかなオレ……」と若干反省する吾妻氏だったが、会場は爆笑。江口氏も「吾妻さんとは絶対女のコの趣味がかぶっていると思っていたので、今日確認できてうれしいです」と満足げだった。

●江口寿史
56年、熊本県生まれ。漫画家、イラストレーター。代表作に『ストップ!! ひばりくん!』『すすめ!!パイレーツ』など。92年に「江口寿史の爆発ディナーショー」で第38回文藝春秋漫画賞受

●吾妻ひでお
50年、北海道生まれ。69年『まんが王』でデビューし、以降次々に不条理ギャグ、SF、美少女漫画の元祖として活躍。ブランクを経て発表した自伝的漫画『失踪日記』(イースト・プレス)で再び注目を集め、復活を遂げる
司会進行/穴沢優子 取材・文/牧野早菜生 撮影/我妻慶一

このニュースに関するつぶやき

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  • 『失踪日記』『アル中病棟』はお笑いを交えたり絵柄が可愛らしい作風が救いでしたが、本当は凄絶な体験であったのではないかと思います。ご冥福をお祈り申し上げます。
    • イイネ!23
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