●5周年のタイミングでより音楽活動へ積極的に
2019年がアーティスト活動10周年イヤーとなる声優の伊藤かな恵。そんな彼女のアーティスト活動10年の歴史が詰まったベストアルバム『カナエルケシキ』がリリースされ、「10th Anniversary LIVE『カナエルケシキ』」の長野公演が12月28日、東京公演が12月30日に開催される。そして、ライブの2次プレオーダー受付が10月24日まで受付中。
今回は10周年記念ライブの開催を記念し、ライブタイトルにもなっているベストアルバム『カナエルケシキ』についてのインタビューを敢行。ベストアルバムに収録されている新曲「あと3センチ」や自身名義で歌うキャラクターソングのRearrange Ver.のことを中心にこれまでの活動についても振り返ってもらった。
○マイペースな10年でした
――2009年に1stシングル「ユメ・ミル・ココロ」をリリースしてから10年が経ちました。
経ちましたね!
――10年前を振り返っていただければと思うのですが、そもそも「アーティスト活動をしませんか」と言われた時はどんなお気持ちでしたか?
デビューのきっかけが、私が鈴川小梅役で出演していたTVアニメ『大正野球娘。』の挿入歌「パイノパイノパイ(東京節)」を歌わせていただいたことでした。そのレコーディングのときにランティスさんにお声がけいただいたんです。最初にお話をいただいたときはとにかくビックリして「え、えええええ!」という声しか出ませんでした(笑)。ただ、音楽は好きでしたし、いただいた楽曲を表現することも好きだったので、一歩を踏み出してみよう!と思って活動を始めたんです。
――アーティスト活動を始めてから転機になったと思うタイミングはありましたか?
自分の変化というのがそこまで分からないのですが、5周年のタイミングでより音楽活動へ積極的になれた気がします。5周年のときは、1年で5枚のCDを出させていただき、より深く音楽と向き合っていました。その頃からCDジャケットのコンセプトはこうやって撮りたいとか、歌詞ももっとやってみたいです、ということなどを提案させていただくようになりました。音楽とじっくり向き合ったことで、自分からも提案していこうと思えるようになった気がします。
――なるほど。そこからさらに5年が経ちました。これまでのアーティスト活動を振り返ってみての率直なお気持ちをお聞かせください。
後半5年の方があっという間に感じましたね。でも、10年前から「ここまでやる!」「ここまで頑張ったら終わり」というゴールは決めていないので、これからもゆるゆるっと活動をしていきたいなと思っています。
――マイペースな10年だった?
そうですね。「CDを出します!」となると一気に作業に追われることはありましたが、あれもして、これもして〜という忙しない駆け抜け方はしてこなかったです。みんなの声に後押しされながら、ゆるゆると自分のペースでやってきた気がします。色々な人に背中を押してもらって少しずつ進んで、気が付けば10年が経っていたという感じですね。
――そんな10周年を記念したベストアルバムが発売となりました。アルバムの制作に関してはいつ頃から話が挙がっていたのでしょうか。
いつ頃だったかなぁ(笑)。作りましょうという話は……確か、2018年の10月くらいだった気がします。その時に「10周年だけど何をしていく?」という打ち合わせをしました。
――その打ち合わせでベストアルバムを出すという話になった。
そうですね! 記念すべき年なので、これまでの楽曲を収録した「ベスト」を出しましょうという話になりました。「ベスト」となると今までリリースしてきたものを最初から振り返って、どの曲を入れるかという工程もあるからか、何だか特別感がありますよね。
――アルバムのタイトルは『カナエルケシキ』。これまでリリースされたアルバムタイトルを踏襲して「ケシキ」という言葉が使われていますね。
音楽って色々な場面や景色と一緒に思い出に残る気がするんですよね。私の楽曲も色々な景色と一緒に聞いて欲しいなと思っています。だから、私の楽曲たちを持ち歩いていただいて、「あのとき見た景色とこの楽曲が一緒に残っている」というような、それぞれの思い出にしてほしいなという想いを込めて、今回も「ケシキ」という言葉を入れました。あとはベストということもあるので、自分の名前を入れたいと思ったのと、「夢を叶える」という私の名前の由来もタイトルに込めました。
●キャラクターたちの10年後を考えていたらなんだか嬉しくなっちゃって
○10年後のキャラクターたち
――曲のセレクトはどのようにしていきましたか?
私の「この曲を入れたいな」という意見と、これまで関わってくださったスタッフさんの「この曲は絶対に入れたほうがいいよ!」という意見を合わせて決めていきました。
――2枚組というボリューミーなベストアルバムですが、Disc2にはご自身が演じられたキャラクターのキャラクターソングも収録されていますね。
先ほどお話したTVアニメ『大正野球娘。』の挿入歌「パイノパイノパイ(東京節)」を含めて4曲収録しています。うち3曲はRearrange Ver.として新たにレコーディングもさせていただきました!
――Rearrange Ver.としてアルバムに収録されているのは、『宙のまにまに』明野美星、『しゅごキャラ!』』日奈森あむ、『花咲くいろは』松前緒花のキャラクターソング。
これまで色々なキャラクターを演じ、キャラクターソングも歌わせていただいたので、どの楽曲にするかとっても悩みましたが、この3人にしました。Rearrange Ver.のレコーディングでは、自身の10周年と絡めて、それぞれのキャラクターが10年経ったらどんな成長をしているのか、というテーマで考えました。それぞれのキャラクターの10年後を想像しながら歌ったので、きっとマイク前の立ち姿も全然違ったんじゃないかな。でも、キャラクターたちの10年後を考えていたらなんだか嬉しくなっちゃって! ずっと泣きそうでした(笑)。
――泣きそうになるくらいキャラクターを大切にされているということが伝わってきました! ちなみに、どんな想像をしていましたか。
美星ちゃんは星のことが大好きだから、星にまつわるお仕事、例えばプラネタリウムとかで子供たちに自分の大好きな星のことを優しく教えてくれる子になっていたらなって想像していました。そういう絵も浮かんできちゃって、「トキメキ座流星群☆」のレコーディング時はとても幸せな気持ちになりましたね。あむちゃんは小学生だったので、10年後も20〜22歳くらい。まだ大学生かなと考えるときっと自分のやりたいことを見つけて選んでいく段階なんだろうなと思います。ただ、彼女に関してはどんな子に育ったのか考えるのが難しかったです。
――それはどういった理由から?
あむちゃんはクールにみられがちだけれども、実は恥ずかしがりやで可愛いものが好きという内面のギャップに悩んでいる子。そんな子が強く育つのか、それともより優しくなって色々な子に寄り添えるようになっているのか、どっちなんだろうと悩んじゃって。
――「これ!」という答えがあるわけではないですもんね。
そうなんです。ただ、そうやって悩みながらレコーディングしたっていうのも何だかあむちゃんらしいかなって。あとは、どんな方向性に育っていても、明るく真っすぐに、すごく前向きではあるんだろうなという想いで「君のBirthday」を歌わせていただきました。
――『花咲くいろは』の松前緒花はいかがですか?
緒花ちゃんは最初の頃、流されやすくて「ふにゃ」ってなっちゃう子でした。ただ、物語が進むにつれて、人を引っ張ったりまとめたりして信頼されているおばあちゃん(四十万スイ)のようになりたいって思うようになったんですよね。彼女自身がそう言葉にもしていたので、人を引っ張っていけるような、強い子になっていたらいいなと思い、「空に近い場所」は力強く歌わせていただきました。
――もしかしたら、彼女もおばあちゃんと同じく女将さんになっているかもしれませんね。
だとしたらすごいですよね! アニメの一話では「なるようになればいい」みたいな子がそこまで考えて行動するようになっていたら、感動しちゃいます!
――伊藤さんがこれほどキャラクターへ思い入れを持ってくださっていることが嬉しい方々は多いと思います。
そう言っていただけると私も嬉しいです。
――私もいままさにエモさを感じています。
エモい! これがエモいってやつなんですね(笑)。
●また10年後かな
○10年間大切にしてきた日常や考え方を新曲に込めて
――ここまで「Rearrange Ver.」のお話を中心にうかがってきましたが、アルバムには新曲「あと3センチ」も収録されています。
そうなんです! 今回、新曲を制作すると決まったときにデビュー当時からお世話になっている「アツミサオリ」さんとぜひご一緒したいとお願いしました。これまでアツミさんの楽曲を色々と歌わせていただいてきたのですが、アツミさんの世界観を歌で表現するのがすごく楽しくて、好きなんですよ。
――なるほど。この曲は楽曲に関してはアツミさんと伊藤さんの共作、作詞は伊藤さんが担当されていますね。
はい。アツミさんもゼロから誰かと一緒に作るのは、ほぼほぼ初めてだったみたいで、二人で連絡を取りながら制作していきました。最初に顔合わせをした後は、私が鼻歌で歌ったものをアツミさんに送って、それを組み合わせながら一曲を完成させていきましたね。
――曲が完成してから詞を当てはめていった?
はい。ただ、最初に私が書いた歌詞が曲調に対して重たすぎて、相当ネガティブに感じるものだったらしく……。一度はアツミさんから「この歌詞は曲の雰囲気と合わないかも」とご指摘いただいて作り直しました。ほぼ全部書き直した結果、アツミさんからOKをいただき、ちょっとだけ前向きな曲が出来上がりました(笑)。
――そんな試行錯誤を繰り返して完成した「あと3センチ」に込めた想いは?
「10周年だから、みんなにありがとうを伝える!」みたいな大きなテーマはなくて。今まで大切にしてきた日常の気持ちや考えを切り取った曲にしたいと思って制作しました。歌詞も日常のなかでちょっとだけ頑張ってみる、まだまだ途中だけれどもちょっと頑張ってみる、ということをテーマに書かせていただきました。
――そのテーマはどことなくこの10年の活動の仕方に近い気がしました。
そうかもしれないですね。私の音楽活動の向き合い方に似ているような歌詞の運びに自然となった気がします。そういえば、レコーディングのときにも「かな恵ちゃんっていう感じの曲だよね」「タイトルは伊藤かな恵でもいいくらい」と言われました(笑)。それくらい私らしい自然な曲だと思います。口ずさめる曲がいいなと思って作ったので、移動中とかに聞いてみてほしいですね。眠たくなっちゃうかなぁ?(笑)。
――それくらいゆったりと心地よい楽曲ですが、これがアルバムの1曲目にきていますね。
そうですね、今回のアルバムはゆるっと始まります。
――曲順はどのように決めていきましたか?
新曲と「Rearrange Ver.」以外はリリース順に並べているのですが、今の私の楽曲が最初にあって、そこからこれまでを振り返っていただきたいと思い、この曲順にしています。あとはアルバムを1周してから、頭の新曲をもう一回聞いて欲しいなという意図もあります。
――10周年イヤーの2019年はアルバムの発売に加えて、10th Anniversary LIVE『カナエルケシキ』の開催も決定しています。こちらはどのようなライブにしたいと思っていますか?
活動を始めた当時から言っていることですが、初めて来た人が馴染めないようなライブはしたくないんですよね。だから、初めて来る人も、ずっと来てくださっている人も楽しめるような、同窓会みたいなライブにできたら、と思っています。あとはみんなで同じ時間を共有して、最後に「楽しかったな」という気持ちを持って帰っていただけるようなライブになるよう頑張ります!
――開催されるのが東京と長野。凱旋LIVEになりますね。地元はお好きですか?
好きです! なんだか時間の流れが違う気がするんですよね。ゆったりしていて別次元というか……。だから、東京で父・母と会うと不思議な気持ちになっちゃいます。この前出演した「ランティス祭り2019」にも来てくれたのですが、「両親が東京に……いる……!?」っていう変な感覚になりました(笑)。
――なるほど(笑)。今回は10周年のタイミングでのアルバムリリースでしたが、この先5年、10年と続けていくにあたって、目標はありますか?
気が付いたら5年経っていたね、10年経っていたねと言えるよう、ゆっくり、今まで通りに活動を続けていきたいと思っています。あとは今まで支えてくださった皆さんが変わらず好きでいてくださるような曲作りをしていきたいですね。「この景色と楽曲が一緒に思い出として残っているんだよね」と言ってもらえるような、心に残る曲作りを心掛けていきたいなと思います。
――今回のことをきっかけに今後、違うキャラクターの「Rearrange Ver.」を歌うっていう可能性も?
「ベストアルバム」というタイミングだからこそできたことではあるので、次はどうだろう。まずは皆さんの声が届いてからですかね。また10年後かな(笑)!
――10年後! 10代だったキャラクターたちは30代になりますね。
そうなってくるとまた想像するのが難しいですね! でもきっと変わらない子たちもいるんだろうなぁ。
――10年後が楽しみです(笑)。
どうなるかわかりませんけど続けていけるようにがんばります。(M.TOKU )