写真![]() 長さ247m、幅12.5m、深さ7mの「大水槽」を視察中、脇を締めて撮影する河野防衛相=10月20日午前11時ごろ、東京・中目黒にある防衛装備庁の艦艇装備研究所 |
ツイッターのフォロワー数が116万(10月21日現在)と日本の政治家で指折りの河野太郎防衛相。「ひまつぶし」で始めたと言いながら要職に就いても発信が絶えない「ツイッター大臣」ぶりを、記者として痛感する機会がありました。同行した視察について早速ツイートしたら、先に本人につぶやかれていたのです。(朝日新聞編集委員・藤田直央)
【画像】河野大臣がツイートした「大水槽」とは 中目黒の住宅街に囲まれた「艦艇装備研究所」の様子も
写真撮ってすかさず
視察があったのは、10月20日の日曜午前、東京・中目黒にある防衛装備庁の艦艇装備研究所。河野氏は海上自衛隊の艦船や兵器の研究の現状について説明を受け、戦前には戦艦大和の設計でも水流実験を重ねた「大水槽」などを訪れました。
河野氏の視察が続くなか取材できたのは午前11時過ぎまでで、報道陣は解散。私は最寄りの恵比寿駅から電車での帰途、とりあえず視察の様子をスマホでツイートして、その後フォローしているアカウントの投稿を眺めていました。
「あ、『大水槽』の写真がある」と投稿者をよく見たら「河野太郎」。時刻は午前11時32分…って私より5分も早いし! 午前11時半までの視察を終えて大臣車に乗り込み、すぐスマホで投稿する荒技を軽々とこなしたであろう姿が目に浮かびました。
そういえば河野氏は「大水槽」で脇を締めてスマホをかざし、壁に貼られた写真にも見入っていました。1964年東京五輪のボート競技代表が練習する様子です。まとめてすかさずつぶやくとは…。私のツイッターには「記者泣かせ」という反応がありました。
先を越された記者としては、私の投稿が時間のかかる動画じゃなかったら、と負け惜しみを言っておきます。
「使わない手はない」
河野氏は2010年からツイッターを初め、ツイートは1万8千近く(10月21日現在。以下同じ)。月平均にすると150ツイートです。私は河野氏が外相の頃にフォローを始めましたが、日韓問題での強気の姿勢など大臣としての動きや、日本外交の様々な活動について次々とつぶやく一方で、フォロワーたちとの軽妙なやり取りも重ねていました。
9月11日の内閣改造で防衛相に任命された直後には、自衛隊による台風15号被災地への支援についてツイート。私はその日の記者会見で、引き続き頻繁にツイートするのですかと聞いてみました。
河野氏の答えはこうでした。
「ツイッターはひまつぶしで、コーヒー飲んだり、ガム噛んだりみたいなつもりでやっていたらこれだけフォロワーが増えたんで、使わない手はないと思っています」「(外相当時は)外交の話を出して読んでもらえたので、自衛隊の活動や安全保障政策、防衛省の情報発信を織り混ぜていきたい」
10月20日も河野氏は10数回つぶやきました。艦艇装備研究所の視察以外に、寄せられた自分の似顔絵についてうんぬんしたかと思えば、自衛隊による台風災害支援を紹介。それぞれに数千づつ「いいね」がつきました。
ただしツイッターには、河野氏は公人なのに批判したらブロックされたという投稿も散見されます。ブロックとは、特定のアカウントに対し自身のツイッターを見たり書き込んだりできなくする機能です。
米国ではフォロワー6600万のトランプ大統領が批判者をブロックして裁判になり、「言論の自由を保障する憲法に違反する」という判決も出ています。
メディアが伝えるべきは
河野氏のフォロワーは防衛相就任時から20万も増え、116万。橋下徹・元大阪府知事(213万)や安倍晋三首相(157万)を追う勢いです。
一方で「防衛省・自衛隊」のアカウントは95万、陸自は77万、海自は76万、空自は40万。自衛隊の中には「とにかく活動をツイートして大臣にリツイートしてもらおう」という動きもありますが、撮影などが現場の負担にならないかという懸念もあります。
様々に波紋を広げる河野氏のツイッターに、冒頭で述べた「先を越された記者」としては考えさせられるものがありました。
私がよく取材する政府機関や政治家は、自身のホームページにとどまらずSNSでの発信を強めています。「誰々のツイッターによると」という報道は、トランプ米大統領のツイートを筆頭におなじみになってしまいました。
政府や政治が公表することを少しでも早く伝えるという面で、既存メディアの存在感は薄れています。むしろ大事なのは、語られたことは本当なのか、一貫しているのか、どのような過程で決まったのか、語られていないことは何か……。
「ツイッター大臣」に問うべきはそういうことなのだろうと、今回の河野氏の視察とツイートを通じて感じました。外相、防衛相と歴任して「ポスト安倍」に意欲を示す河野氏にとってツイッターは大きな武器になるでしょうから、それに報道が振り回されないためにも。