blackbear「hot girl bummer」に込められた本当の意図は ロングヒットに至るまでの背景を解説

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2019年10月22日 18:11  リアルサウンド

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blackbear「hot girl bummer」

 言うべきではない言葉がノーイントロで飛び出すとドキッとしてしまいますが……Fワードという露骨な表現を使って”お前らみんなクソだ”と言い切るアメリカのラッパー、blackbearによる「hot girl bummer」がSpotifyグローバルデイリーチャートで最高11位、米ビルボードソングスチャートでは66位を記録し現在も上昇中。日本ではSpotifyデイリーチャートで最高70位と順位こそ高くないものの、SNSでシェアされた回数に基づくバイラルチャートではここ最近常時50位以内に入り、ヒットの兆しをみせています。Fワードを強く言ったり、がなり立てることはないものの、Fワードだけ引き伸ばしてラップすることでその言葉が余計に耳に残り、言いたいことが巧く強調されています。


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 blackbearはマシュー・タイラー・マストによるソロプロジェクト。高校時代はロックバンドに所属し、音楽の道へ進むために中退。アトランタに移りR&B歌手のニーヨと仕事しつつ自身の作品をリリースし、2011年のEP『Year Of The Blackbear』でニックネームである“blackbear”を使い始めます。そんな彼の名が業界内に広まったきっかけが、ジャスティン・ビーバー「Boyfriend」(2012年)のソングライターに名を連ねたこと。「Boyfriend」は米ビルボードソングスチャートで2位まで上り詰めました。


 blackbearが歌手として頭角を現すのが、2017年リリースの「do re mi」のスマッシュヒット。


 ドレミといえば「ドレミの歌」を思い出す人が多いでしょうが、この曲のサビの歌詞は〈Do re mi fa so f**kin’ done with you,girl〉という、R&Bではお馴染みの性愛ソング。ドレミを用いた例えが上手いかは別として(しかしながらR&B曲ではこの手の比喩はよく見られます)、タイトルとのギャップで人々を惹きつけたことは確実。「do re mi」は米ビルボードソングスチャートで最高40位を記録しています。


 そのblackbearが8月23日にリリースしたのが「hot girl bummer」なのですが、この曲が物議を醸すことに。というのも、ラッパーのミーガン・ジー・スタリオンがその2週間前、ニッキー・ミナージュおよびタイ・ダラー・サインをフィーチャーしてリリース、米ビルボードソングスチャートで11位に初登場を果たした「Hot Girl Summer」とタイトルがそっくりなのです。


 blackbearは「hot girl bummer」をリリースする週のはじめにジャケット写真をツイートしたのですが、このタイミングが「Hot Girl Summer」初登場11位の判明直後だったこともあってか、ツイートへはミーガン・ジー・スタリオンのファンと思しき人々からの誹謗中傷リプライが絶えません。パクリとの声は勿論、陳腐だと言い切ったり、ゴミ箱を示す絵文字を使って曲に価値がないと吐き捨てるなど、ミーガン・ジー・スタリオンファンの暴走が多数見られます。


 この炎上が結果的に「hot girl bummer」およびblackbearの認知度上昇に寄与してしまったとは思うのですが、実はblackbearによるこのタイトル、ミーガン・ジー・スタリオンがリリースする3週間以上前につぶやかれているのです。ミーガン・ジー・スタリオンの楽曲自体のパクリではないことはこのことから判ります。


 しかし、ミーガン・ジー・スタリオンが自身を“Hot Girl Meg”と呼んでいることを踏まえれば、“Summer”を”bummer(バマー:不愉快で失望させること、怠け者の意)”と置き換えることにミーガン・ジー・スタリオンのファンが怒るのも無理はないでしょう。果たしてblackbearがミーガン・ジー・スタリオンにビーフを仕掛けたかは判りかねますが、blackbearが白人、ミーガン・ジー・スタリオンが黒人であることから、ファン同士の罵り合いの言葉に人種差別を意識した文言が見られるのが気掛かりです。


 当のblackbearは「hot girl bummer」をパロディではないと弁明したものの、当該ツイートは後に削除され真相は闇の中。曲に込められた意味をMVで探ってみると、操り人形にされるところだったblackbearが最後に逃げるという物語になっています。操り人形はまるで、blackbearがミーガン・ジー・スタリオンを非難しているに違いない! と頭に血がのぼった人たちの攻撃対象を指すかのよう。何かを頑なに信じて疑わず、噂や嘘を信じてまでも敵への攻撃を厭わない人の存在には、アメリカだろうと日本だろうと関係なくうんざりするわけで、Fワードを用いて心情を吐露するblackbearには共感してしまいます。


 最後にFワードについて。日本では比較的どころかかなり緩やかであり、たとえばリリースされたばかりの星野源「Same Thing (feat. Superorganism)」でも用いられています(ただし、今月放送された『おげんさんといっしょ』(NHK総合)でこの曲が披露された際、Fワードはさすがに伏せられましたが)。一方、海外の楽曲でFワードが用いられる場合には曲名にEマークが表示されます。これはFワード等露骨な表現が含まれた楽曲に表示される「EXPLICIT」マークであり、聴き手が自分の責任で聴取する/しないを選択することが可能。アメリカでは昔から音楽の露骨な表現に寛大な一方、CDジャケットでもマークを提示してきました。個人的には、取捨選択させず上から制限を強要するのではなく、ユーザーに委ねるこの方式に賛同します。その方が、なぜ露骨な表現が含まれているものが敬遠されているのかを自発的に考えるきっかけになるはずです(Spotifyでの対応についてはこちらに記載あり)。(Kei)


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