量子コンピュータはIT業界とAIをどう変える? Googleや専門家の見解から考察

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2019年10月28日 07:01  リアルサウンド

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Google Blog「What our quantum computing milestone means」より

 10月23日、Googleは量子コンピュータが古典的コンピュータでは計算不能な問題を解いたとする「量子超越性」を実現したと発表した。量子コンピュータに関しては数年前から積極的な投資がなされており、今後の応用が期待されている。一方で、量子コンピュータへの期待は現在でピークに達しており、投資の熱が引くことで「量子の冬」が訪れるのではないか、という危惧の声もある。


(参考:ナノテクノロジーがヒーローを変える? 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』スーツを考察


・はじまりは機械学習の加速化
 量子超越性の発表に合わせて、GoogleのCEOサンダール・ピチャイ氏はUS版Google公式ブログに記事を投稿した。その記事によると、今回の成果は2006年から始まった、量子コンピュータでAI技術のひとつである機械学習の処理を加速化する研究が結実したものだった。機械学習を実行するには多大な計算資源を要するのだが、古典的コンピュータの演算能力を大きく凌駕する量子コンピュータを計算に使うことができれば、それを更に進化させられると考えたわけである。


 今回の成果から直ちに量子コンピュータを実用化できるわけではないが、期待される応用としてより効率的なバッテリーの設計や創薬が挙げられる。こうした応用は、そのどれもがAI技術がすでに応用されているか、応用が期待されているものだ。


 量子コンピュータのような革新的技術の開発に関しては、悪用に対する懸念も生じる。こうした懸念に対して、GoogleはAIの善用を約束した同社規約「AI 利用における基本方針」に開発を進めると明言している。


 以上よりGoogleは量子コンピュータを「AI技術を継承しスケールアップさせるもの」と位置づけていることがうかがえる。


・ムーアの法則を推進?
 AI技術をスケールアップするものとして量子コンピュータを位置づける見方は、実のところ既に流布している。例えばUS版『ウォールストリートジャーナル』は、今年5月に量子コンピュータがAIを強化することを論じた記事を公開している。その記事では、想定される量子コンピュータのAIへの応用事例として、AIアシスタントを挙げている。現行のAIアシスタントは、ヒトと比べると柔軟な返答ができない。しかし、量子コンピュータが応用されて演算能力が飛躍的に向上すると、現状より適切な返答ができるようになると考えられる。


 世界的なビジネスアドバイザーであるバーナード・マー氏は、自身のブログで10月に公開した記事において、量子コンピュータがムーアの法則を再び推進することを指摘している。ムーアの法則とは、簡単に言えば18ヶ月ごとにコンピュータの演算能力が2倍になるという経験則である。半導体の技術開発が限界に達しつつある現在、この法則の終焉がささやかれているのだ。


 量子コンピュータが実用化されれば、ムーアの法則をさらに強力に推進することができる。その結果、より高性能のAIが誕生すると同時に現在よりさらに巨大なビッグデータを処理できるようになる。


 マー氏によれば、量子コンピュータを実用化した企業がムーアの法則を推進するIT業界の覇者となれるため、世界のビジネスリーダーはこの技術をめぐって開発競争を繰り広げているのだ。


・2年で4倍以上の投資、「AIの冬」と同じく「量子の冬」は訪れる?
 以上のような量子コンピュータをめぐる開発競争に関して、シンギュラリティ(技術的特異点)の社会的影響を研究する組織であるシンギュラリティ大学が運営するメディア『SingularityHub』は14日に記事を公開した。量子コンピュータ開発に対してはすでに多額の資金が投資されおり、投資している企業にはGoogle、IBM、そしてIntelといったテック業界の巨人たちが名を連ねる。その投資額は2017〜2018年の2年間で4億5,000万ドル(約490億円)に達し、2015〜2016年における投資額である1億400万ドル(約110億円)の4倍を超える。


 量子コンピュータへの投資に対しては、一部からは過熱気味という声も挙がっている。まだ実用化には程遠い技術に対して、過剰な期待を寄せているのではないかという懸念が生じているのだ。期待が裏切られた後は、一転して失望が広がり資金が集まらなくなる可能性がある。現在注目されているAI技術でさえ、2000年代は資金が集まらない「AIの冬」を経験しており、量子コンピュータだけが例外というわけではないだろう。


 量子コンピューティングを研究開発するスタートアップを率いるマイケル・マルタ―ラー氏は、「量子の冬」を予見し恐れている一人である。同氏は、自分の立ち上げた企業が「量子の冬」が訪れる前に軌道に乗ることを望んでいる。またベンチャーキャピタルのマネージャーを務めるマシュー・キンセラ氏は量子コンピュータ事業に投資している一方で、いつでもこの事業から撤退できる準備もしている、と話している。


 量子コンピュータは不可能だったことを可能にする夢の技術である。しかし、まだ歩き出したばかりの乳児とも言える。量子コンピュータに多大な期待を寄せる前に、まずは実用化に向けてしっかり育て成長を見守るのが賢明であろう。


(吉本幸記)


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  • ピーター・ショア(Peter Williston Shor)発明の因数分解アルゴリズムがあるから何万年かかるハズの公開鍵暗号が数分〜数時間で解けてしまう。量子演算アルゴリズム有無が重要
    • イイネ!1
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