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キレやすいシニアへの処方箋 脳の老化で怒りが増加 イライラ運転、店員への八つ当たり あなたは大丈夫?

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2019年10月28日 16:00  AERA dot.

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写真写真はイメージです(Getty Images)
写真はイメージです(Getty Images)
 アタマきた! イライラする! 若いときと比べ、こうした感情が起きやすくなったという人は多くないだろうか? これは仕方ないことで、人間は脳の「老化」によって総じて怒りやすくなるらしい。しかし、これが原因で取り返しのつかない事故やトラブルにつながることは避けたい。キレやすいと感じる人は、怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」を試してみては。

 9月下旬、記者は都内のある図書館でこんな光景を見かけた。

 昼過ぎ、館内のア席はほぼ満席状態。新聞ラック近くのソファとソファの間には、本などを置くための小さな丸テーブルがある。そのテーブルを挟み、高齢の男性がそれぞれ座っていた。

 そのうち、男性らのせきばらいや舌打ちが耳に入り、さらに「シュッ! シュッ!」という何かがこすれる音が相まって聞こえてきた。視線をやると、2人が丸テーブルを自分の元へ引き寄せ合っていたのだ。

 周囲の人らも気になって見ていたが、騒動はその後、口論に発展。

「なにするんだ!」

「あんたこそ失礼だろ」

 などと言い争い、職員が止めに入ってきた。

 この様子について、精神科医で著書に『なぜ、「怒る」のをやめられないのか』がある片田珠美さんは、「よくあるケース」という。

「テーブルの奪い合いは『縄張り争い』の行動の一つ。図書館では新聞や雑誌の取り合いもよく起こる。そもそも図書館は定年後の元会社員男性の主な行き場の一つ。無料で長くいられる。だからこうした男性同士の縄張り争いのトラブルが起きやすい」

 認知科学が専門でキレる心理に詳しい名古屋大学教授の川合伸幸さんもこう話す。

「人間が怒る主な理由はいろいろな意味での縄張りの侵害があるからだ。それと自分が自由に動けないということも怒りの原因となる。例えば満員電車内で体がぶつかって口論になるケース。こうした縄張りの侵害は、自分だけでなく家族らに及んでも怒りの原因となる。名誉も含め、縄張りが侵害されることが怒りにつながる」

 科学的には、性別に関係なく、脳の「老化」にあると分析する。

「人の脳は加齢とともに前頭葉の機能が低下する。思考や判断、計画、抑制などをつかさどる領域が衰え、怒りの感情を抑えにくくなると考えられている。早い人だと40代半ば過ぎから『老化』が始まるとされている」

 そうなると、気をつけなければならないのは、シニア世代だけでなく、中年からということになる。

 たしかに、キレる中年の事例も少なくない。

 今年7月4日。JR目黒駅近くの路上で、47歳の男が、「肩がぶつかった」と言い、相手男性の目を傘で突き、失明させた事件があった。捜査関係者によると、男は自宅周辺で近隣住民とたびたびトラブルを起こし、「キレる怖い人」と認識されていたという。

 川合さんは、この男の行動の背景心理についてこう説明する。

「普段から攻撃性が強かったとすれば、キレるスイッチが入る起点が低かったのだろう。この起点も人それぞれ個人差がある」

 また、前出の片田さんは次のように分析する。

「『怒りの置き換え』によるものだろう。欲求不満がたまった末の行動だ。例えば会社員なら、上司や取引先に怒りを直接ぶつけるわけにはいかない。そのため、怒りの矛先を向け変え、部下や後輩などの弱い者に怒りをぶつける。最近話題になっている『カスハラ(カスタマーハラスメント)』もそうだ。店員など言い返せない立場の人に、ため込んだ怒りをぶつけてしまう。怒りの置き換えが日本社会に蔓延していると言える」

 片田さんによると、教職員のいじめも「怒りの置き換え」によるという。

「いわゆるモンスターペアレントへの対応などで教師もストレスがたまっている。それでも怒りの原因になった相手には直接ぶつけられない。その怒りの置き換えで20代の若い教師がターゲットになったのだろう」

 片田さんによれば、キレる原因を分析すると4つの要因が浮かび上がるという。

(1)脱抑制
 老化に伴い抑制が利かなくなること。前頭葉は脳の司令塔で、感情や衝動を制御しているので、老化によって前頭葉の機能が低下すると、キレやすくなる。個人差があり、自制できる人もいる。認知症も絡む。前頭側頭型認知症という主に前頭葉と側頭葉が委縮する認知症では、キレやすくなる。暴言・暴力や反社会的行為が出現することもある。キレやすい高齢者は認知症の可能性も疑うべきで、MRI検査を受けた方がいい。

(2)不安・焦燥感
 技術の進歩に追いつけない不安。経済的不安。寝たきりになるかもしれないという不安。こうした様々な不安があると、焦燥感にさいなまれキレやすくなる。

(3)孤独感・疎外感
 核家族化によって1人暮らしや夫婦2人暮らしが増え、孤独感にさいなまれやすい。高齢者の知恵を役立てる機会が減り、自分が必要とされている実感を持てなくなった。年金支給額が減額されるという報道ひとつ取ってみても、むしろ自分が社会にとって厄介者になっているように感じる。

(4)あきらめきれない高齢者の増加
 アンチエイジングや、高齢者のセックス特集など、いくつになっても大丈夫という世の中の風潮になっている。しかし現実はそう甘くない。70、80になっても現役同様という人は稀で、理想と現実のギャップを味わうことがほとんどだ。それでも、あきらめきれず、ジレンマにさいなまれる。

 高齢者が、不安や焦燥感が原因でキレることについて、片田さんは象徴的な事件を挙げる。

 9月29日、神戸市営地下鉄新長田駅構内で、78歳の男が駅員に対しひざ蹴りなどをしたとして公務執行妨害の疑いで逮捕された事件だ。男は改札機に敬老パスを入れてしまい、駆け付けた駅員が「改札機が壊れてしまう」と注意したところ逆ギレ。駅員の胸倉をつかみひざ蹴りし、さらに別の男性駅員にもひざ蹴りをしたという。

「この行動は、テクノロジーの進歩についていけないがゆえの不安・焦燥感によると考えられる。切符を買うこと一つを取ってみても、自分が時代についていけないことへの不安が焦りを生み、キレる行動につながっていく」(片田さん)

 前出の川合さんは、中高年がキレることを、車のアクセルとブレーキに例える。

「怒りの表出はアクセルとブレーキで例えられる。運転中イライラしたり、それこそあおり運転をしたりする人は、アクセルの踏み方が激しい人なのだろう。心も体もすぐアクセルを踏み込んでしまう。一方で、年齢を重ねるとブレーキの利きが鈍くなってくる。このアクセルとブレーキのバランスは、育ちや環境などさまざまな要因が絡む。特に高齢者はブレーキの利きが鈍るケースがほとんどだ」

 川合さんは、疑似運転を体験できるドライブシミュレーターを用いた実験をしたことがある。結果は、高齢者は運転中に赤信号が連続すると、攻撃性(怒り)が高まるというものだった。

 ただ、川合さんは、「高齢者はキレやすい」と短絡的にみることには、根本的な疑問を感じているという。

 2017年版の犯罪白書によると、年齢層別の刑法犯検挙者数で最も多いのは65歳以上で約4万7千人。20年間で約3・7倍となっており、たしかに数は増えている。しかし、人口比でみると、逆に65歳以上の検挙者の割合は最も小さくなっている。

 川合さんは、

「高齢者は我慢が足らず、思いどおりにならないとすぐ暴力を振るうという論調には違和感を覚える。ことさら『老人は社会悪』といった表現で言うのは、今の世の中に高齢者をたたきたい気分があるからではないか。そうした風潮は、世代間の分断を強化することにつながる。豊かな社会ではない」

 と指摘する。

 中高年以上の人たちが、キレて暴走しないためにはどうすればよいのか。

 日本アンガーマネジメント協会代表理事で、日本のアンガーマネジメントの第一人者の安藤俊介さんに聞いた。

「怒ることは悪いことではありません。マイナスな怒りにならないように線を引けば良いのです。アンガーマネジメントでは怒ることは構わないと考えています。その上で、怒るときには、他人を傷つけない、自分を傷つけない、モノを壊さない、という三つのルールを守って怒れるようになろうと説いています」

 それでは、具体的にはどのような行動で怒りをコントロールすればいいのか。まずは、カッとなったり、イラッとしたりした瞬間は、どうすればいいか。

「頭にきたときに絶対にやってはいけないのが反射的な言動です。怒りに任せて発した言葉で人間関係に傷が入ることや、相手も売り言葉に買い言葉で応戦し、互いに怒りがエスカレートしてしまうことがあります」

 安藤さんはこう指摘した上で、

「怒りのピークは、怒りを感じてから長くても6秒程度といわれています。とはいえ、何もせずにただ6秒じっと待つのは簡単ではありません。アンガーマネジメントでは、6秒待つためにさまざまなテクニックがありますが、一番簡単な方法は深呼吸をすることです。目の前の怒りからいったん意識をそらし、冷静になるために6秒を使うことが大切です」

 このようにして怒りを抑えた後にも、やっておくべきことがある。一つは、「怒りの温度計」という。

「自分の怒りを数値化し、コントロールする方法です。怒りの数値を温度計のように、これは5度、10度などと『見える化』するのです。気温でも血圧でも数値がわかれば、その後の対策を立てることができます」

 怒りの段階を自分で測れるようになると、目の前の怒りに対処しやすくなるという。

 同様に、怒りを記録する「アンガーログ」も有効な方法として勧めている。

「自分は怒りっぽいと自覚している人でも、いつ何に怒りを感じたかを思い出そうとすると、覚えていないことが少なくありません。そこで役立つのが怒りを記録する『アンガーログ』です」

 アンガーログは、怒りを感じるたびにその場でノートやスマートフォンに記録すること。項目は、日時、場所、出来事、怒りの強さ──など。全部書けなくても、書けるところだけで構わない。書いている最中に分析や反省はしない。記録を続けることで、自分が何に対して怒りを感じやすいのかが見えてくるという。

 そもそも私たちはなぜ怒るのか。安藤さんは私たちが持つ、ある考え方に着目する。

「私たちを怒らせているものは、自分の中にある『べき』です。『べき』は自分の希望、願望、欲求を象徴する言葉です。私たちは自分の理想とする『べき』が目の前の現実で裏切られると、怒りの感情を持ちます。『ルールは守るべき』『会社はこうあるべき』など、私たちは多くの『べき』を持っています。私たちの行動のほとんどは、この『べき』に基づいており、そして、イラッとすることの裏には必ず『べき』が隠れています」

 安藤さんは、「『べき』の三重丸」を持つことが重要だという。

「自分の持つ『べき』とうまく付き合うために、イラッとするたびに心の中に三重丸を想像し、描いてみてください」

 三重丸の中心の円が、許せるゾーン(1)。ここは自分の思う「べき」に収まる範囲。そしてその周りにあるのが、まあ許せるゾーン(2)。自分とは少し違うが許容できる範囲。そして、一番外側にあるのが、許せないゾーン(3)となる。これはもう許容できないという範囲だ。

「怒りの感情に振り回される人は、(1)でなければ(3)といった具合に両極端に考える人です。100点でなければ、もうダメとしていては、何事にも腹が立つでしょう。(2)のまあ許せるゾーンが大きいと『そういうこともあるか』と多くのことが気にならなくなり、無駄なイライラが減ります」

 怒りはマイナスな面ばかりではないと安藤さんは言う。

「怒りの感情は闘志になります。怒りは何かを変えたいという大きな力になる。怒りの感情をエネルギーにすることも、怒りの感情に振り回されてモチベーションを下げることも、自分で選択することができるのです」

 生きていく上では、怒りとうまく付き合うことが、必要なようだ。アラフィフのおじさん記者も、高齢になってもキレる記者にならないよう気をつけたい。(本誌・羽富宏文)


※週刊朝日10月25日号に加筆修正

【おすすめ記事】老人はなぜ「怒り多く、欲深くなり、心を乱す」のか その原因は子にあり?


このニュースに関するつぶやき

  • 70歳になる母親も辛抱強く穏やかに喋るタイプだったのに、叫んで言ってみたりキーキーしだしたから、何で?聞いたらコラム内容な事言ってたな。 https://mixi.at/agAOIOI
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  • あなたは大丈夫?ってタイトルにあるけど、大丈夫じゃない高齢者が読んでたとしたらこの長い記事読み終るまでに2回はキレてると思うよ(´・ω・`)
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