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綾辻行人氏驚喜のカルトホラー! 横溝正史ミステリ&ホラー大賞優秀賞受賞の問題作『出航』ついに刊行!!

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2019年10月31日 19:11  ダ・ヴィンチニュース

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ダ・ヴィンチニュース

写真『出航』(北見崇史/KADOKAWA)
『出航』(北見崇史/KADOKAWA)

 読書とは、著者の用意した乗り物に身を委ね、旅をするようなものだ。乗り込んでしまったら、わたしたちは当分のあいだ、著者に感覚を支配されることになる。荒れ狂う海に出る船に乗り、真夜中の道をひた走るバスに揺られ、錆びついた自転車を力いっぱい漕ぎながらも、結末へと続く旅を「楽しんでいる」。その一点が、わたしたち読者と『出航』(北見崇史/KADOKAWA)の主人公である“私”との、決定的な違いであるように思われる。

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 ある日、“私”が大学から帰ってきたら、食卓に母の書き置きがあった。それによると、彼女は北海道に行ったらしい。愚痴っぽく情けない父と長男である“私”、母がいなければどんどん派手になる女子高生の妹、気弱な飼い犬のブチという家族を捨てて。いわゆる家出というやつだ。

 母はどこにでもいるふつうの主婦だったが、ときおり奇怪な態度を見せることがあった。あるときは、潮風と砂が吹きつける浜辺に立ち、厳しい表情で延々と陰惨な物語を描写した。唇をかみしめて語る母の、凛として怪しげな雰囲気に、幼い“私”は背筋が寒くなったのを覚えている。

 母が家を出てからというもの、“私”以外の家族はおかしくなった。父は家をゴミ屋敷にしてしまうし、飼い犬はゴミに埋もれて下痢をしている。妹は夜な夜な遊び歩くようになり、注意しても効果はない。もとの平穏な暮らしを送るには、母を連れ戻すしかなさそうだ。そう考えた“私”は、母がメモに書き残した独鈷路戸(とっころと)という極めて読みにくい名前の土地を目指した。

 ところが、独鈷路戸に向かうまでのバスがまず異様だった。年代物のバスの車体には、瘡蓋のようにびっしりと赤錆が浮いている。それに乗る老人たちは、みな手にズタ袋をさげている。中身はどうやら生きた子猫だ。“私”は、大量の猫と老人たちの臭気に耐えながら、謎の動力で進むバスに揺られて、母のいる港町へとたどり着いた。海から吹きつける風が肌に刺さり、腹部が破けた猫の死骸が動き出し、処女の生き血をすする吸血鬼のように活力のある老人ばかりが住む、血と錆の匂いが染みついた町へ──。

“私”は、バスに乗り、自転車に乗り、グロテスクな景色に驚愕したり慄いたりしながら母を取り戻そうと奔走する。切れ目なく続く文字の中に、わたしたちはよく知っている感覚を読み取る。冬の海を前にしたときの寒々しさ、ざらりとした瘡蓋の手触り、血の味、錆の匂い。いつのまにか、わたしたちは“私”と経験を共有している。物語を「楽しんでいる」つもりが「乗せられている」。そして“私”の意識は、母なる海へ──猛々しくうねり、生物と死骸をいっしょくたに抱き、過去も未来をも溶かし込み、素知らぬ顔でそこに在る海へと向かう。そこでふと、わたしたちは気づいてしまうのだ。みずから「生きている」つもりのわたしたちも、その実、自我という容れ物に乗せられて、行くべきどこかへ「連れ去られている」だけなのではないか?

 横溝正史ミステリ&ホラー大賞優秀賞受賞、綾辻行人氏が驚喜し、選考会でも賛否両論を巻き起こしたという問題作。本能を呼び覚ますカルトホラーの海へ、あなたも船を出してみては?

文=三田ゆき

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