花粉症は「くしゃみ・鼻水・鼻づまり」だけの問題じゃない!莫大な経済損失に対し日本では何が行われているのか?

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2019年10月31日 20:00  QLife(キューライフ)

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日本人の3人に1人が花粉症、経済損失は3000億円


日本医科大学付属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 准教授 後藤穣先生

 「年が明けるとまたじきに、あのつらい花粉症の季節がやってくる…」。日本人の3人に1人がそんな風に思う、つまり、花粉症に悩んでいます。さらに、花粉症患者は年々増えています。そんなに大勢いるとなると花粉症は、くしゃみ・鼻水・鼻づまりで本人が辛いというだけの話にとどまりません。いまや花粉症は国に約3000億円もの大きな経済損失をもたらす「国民病」として、厚生労働省をはじめ国を挙げて対策を考えている病気なのです。では、経済損失につながる理由や、世の中の対策はいったいどのようなものなのでしょうか?

 ノバルティスファーマ株式会社は10月30日、「企業が直面する重症花粉症によるプレゼンティーズム課題」と題したメディアセミナーを都内で開催。同セミナーでは、重症花粉症の実態について日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の後藤穣准教授が、プレゼンティーズムと労働生産性の関係について予防医学者の石川善樹氏が、花粉症とプレゼンティーズムに対する企業としての取り組みを株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)CHO(Chief Health Officer)室の平井孝幸室長代理が、それぞれ講演を行いました。

鼻づまりによる寝不足や薬による眠気が問題、新薬に期待

 「花粉症による身体への影響」と題した後藤先生の講演では、花粉症の現状についてわかりやすく解説。日本はスギ花粉症が圧倒的に多いのに対し、海外ではイネ科やブタクサの花粉症が多いのだそうです。「海外で多い花粉症よりスギ花粉症の方が、重症度が高いことが調査によりわかりました。スギ花粉症の、日常生活への支障度は高いといえます」と、後藤先生。また、「くしゃみ・鼻水・鼻づまりの3大症状の中でも、特に鼻づまりが労働生産性の低下につながる」と指摘。その理由の1つとして、くしゃみ・鼻水に対し遅れてやってくる鼻づまりは、睡眠障害につながるということを挙げました。

 さらに、日常生活に支障を与えるもう1つの大きな理由として、抗ヒスタミン薬を用いた薬物療法による集中力・判断力の低下を指摘。「抗ヒスタミン薬の服用により、眠くなり、学力などの低下につながってしまいます。しかし、この薬を飲んだからといって、花粉症が根本的に治るわけではないというのが、従来の花粉症薬物治療の弱点です」。アレルギー反応を火事に例え、「ヒスタミンという燃え広がった後の火を薬でせっせと消しても、花粉症の火元は残る」と、説明した上で、「花粉症は、スギ花粉を吸いこむ→IgE抗体ができる→ヒスタミンが出る→くしゃみが出るの4段階で起こります。今は、「ヒスタミン」を抑える薬が主流ですが、もっと上流を抑える新薬に、注目が集まっています」と、今後の新しい治療法への期待を述べ、講演を締めくくりました。

健康経営で花粉症によるプレゼンティーズム解消へ


予防医学者 石川善樹氏

 続いて石川氏が、経済産業省作成の「健康経営オフィスレポート」を紹介。健康経営とは、従業員の健康増進を図ることにより、生産性向上につなげるという経営手法をいいます。企業に限らず、日本では国や自治体なども、健康経営に取り組んでいます。健康経営を行っていく上で指標とされるのが、「アブセンティーズム」と「プレゼンティーズム」。アブセンティーズムは、長期療養などで出勤しないことを指し、プレゼンティーズムは、病気や体調不良でも、無理して出勤している状態を指します。当然、プレゼンティーズムが増えると、全体の生産性は落ちます。「プレゼンティーズムに影響を与える5大要因は、運動器・感覚器障害、メンタルヘルスの不調、心身症、生活習慣病、感染症・アレルギーです」と、石川氏。花粉症対策はプレゼンティーズムの解消に大変重要であり、そのためにオフィス環境の改善を図る必要があると訴えました。


株式会社ディー・エヌ・エー CHO室 平井孝幸氏

 最後に、健康経営を実践するDeNAの平井氏が、同社における具体的な取り組みを紹介。同社は健康に関する社内セミナーを開催したり、健康豆知識をトイレやエレベーターホールに掲示するなどして、日常的に、社員に健康啓発をしているそうです。さらに、大手食品メーカーと共同で、花粉症の時期(3月の1か月)に、花粉症に悩む社員60人にある食品を食べ続けてもらい、改善の実感が得られたかを調査。その結果、3割弱で、改善の実感が得られたという声が得られたのだそうです。平井氏は、この社内調査を通じて、「参加希望者やコメント内容から健康経営のニーズの大きさを実感した」と述べ、「事前調査により、参加者の半数は花粉症により40%以上生産性が低下しており、プレゼンティーズムの観点からも改善サポートの必要性が大きいとわかった」と、締めくくりました。

 同セミナーでは、ノバルティスがこの10月に会社の人事担当者300人および管理職700人に対して行った、「花粉症が社員の生産性に及ぼす影響について」のインターネット調査の速報結果も紹介されました。調査の結果、人事/管理職の5割が、花粉症の従業員に対して業務への支障やパフォーマンス低下を感じていると判明。その他、花粉症社員に対して話しかけることに消極的になったり、組織全体の生産性低下を感じたりする人も多いということもわかったそうです。

 今後、オフィス環境の改善と、新しい治療の両方面から、花粉症のより良いコントロールが可能になり、プレゼンティーズムの解消と日本の経済損失の軽減につながることを、期待したいですね。(QLife編集部)

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