映画『スター☆トゥインクルプリキュア』は大人の心も掴む ダイバーシティと環境問題を扱うその先進性

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2019年11月07日 08:01  リアルサウンド

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『映画スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』(c)2019 映画スター☆トゥインクルプリキュア製作委員会

 『プリキュア』シリーズの劇場版作品『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』が話題をよんでいる。近年『プリキュア』シリーズの劇場版作品は大手レビューサイトでも高い評価を受けているが、今作も子供だけでなく大人も含めて多くのファンから賞賛の声が相次いでいる。今回は本作の魅力について考えていきたい。


参考:「全プリキュア大投票」の結果を数字面から徹底分析! シリーズ16年の歴史と愛され続ける理由


 『スター☆トゥインクルプリキュア』はシリーズ16作目にして、初めて宇宙がテーマとなったプリキュア作品だ。星座や宇宙、UMAなどの未知の存在が大好きな主人公の女の子、星奈ひかると、惑星サマーンからやってきた宇宙人の少女、羽衣ララの出会いから物語は始まる。劇場版ではその2人と、映画オリジナルキャラクターである謎の宇宙生物ユーマとの交流を中心に描かれている。


 今作のテーマの1つめは多様性の問題だ。多様性の尊重は『プリキュア』シリーズが描きつづけてきたテーマの1つである。初代の『ふたりはプリキュア』は「女の子だって暴れたい」というコンセプトの元に性格の異なる2人の少女がプリキュアに変身し、敵と素手で戦う作品だ。昨年は男の子のプリキュアが登場するなど、女の子向けアニメ作品の定型を自ら壊すことによって従来の性的役割からの解放も1つのテーマとしている。『スター☆トゥインクルプリキュア』は”未知なる存在=宇宙生命体”とし、ひかるをオカルト好きの好奇心旺盛な女の子とすることで異文化への積極的な接触を通して多様な文化や考え方の尊重と共存の難しさを描いており、その魅力は劇場版でも発揮されている。


 ユーマとの出会いに心を躍らせているひかるに対して、ララは上手に接することができずに衝突を重ねてしまう。しかしララも似たような境遇の身として「みんながひかるのようにいい人というわけではないから、注意しなければいけない」とユーマに率直に思いをぶつけることで言葉を超えて心が通じあい、仲を深めていく。子供には他者に対して優しく接することの重要性を、大人には言葉や文化が異なる相手とのコミュニケーションの難しさを伝えるシーンだ。また仲を深めたララとユーマに訪れる別れのシーンでは、テレビシリーズでも訪れるであろうひかるとララの未来も予感させられる。


 2つ目のテーマは環境問題だ。ユーマの正体は星の子供であり人間の感情に影響を受けやすい。いい影響を受ければ緑が豊かな美しい星に、悪い影響を受ければ死の星になってしまう。敵であるハンター達は希少生物であるユーマを捕らえて高額で売ってしまおうと画策するのだが、その際に「結局は人のやることだ」と2人に語る。これは現実社会の環境問題をほのめかしており、地球を守るのも壊すのも結局は人間の行動の結果である、という意味として受け止められる。


 また映像の美しさも本作のメッセージを支えている。作中では、沖縄やナスカの地上絵、ヤスール火山、イグアスの滝、モアイ像などの世界中のミステリースポットや自然の雄大さを感じられる場所を訪れる。特に印象に残るのはボリビアにあるウユニ塩湖を、ひかるとララ、ユーマが走るシーンだ。空の青さが湖に反射し、まるで空を走っているように感じられる描写となっており、守らなければいけない自然の美しさを感覚的にも伝えてくれる。多様性と地球環境の問題という2つの難しいテーマを真正面から扱いながら、72分に収めていることも高評価の理由の1つだろう。


 自然描写の美しさは映画の見せ場である歌やダンスシーンでも発揮されている。近年の少女向けアニメではダンスや歌を使った演出が多く用いられており、『プリキュア』シリーズでも毎回注目を集めているが、今作は従来のエンドクレジットではなく物語の中核をなす場面で使われている。映画内で紹介された名所を背景にプリキュアたちが踊る姿を見ながら、子供達も体を揺らして楽しんでいる光景が印象的だった。


 テレビシリーズの『スター☆トゥインクルプリキュア』では、前期のエンディングにおいて、ピンクレディの「UFO」の振り付けを連想させるダンスをキャラクター達が踊ったり、『うる星やつら』のオマージュもあった。宇宙や宇宙人に関連した作品へのリスペクトが感じられ、それは劇場版でも健在だ。本作では『ET』などの名作SF映画の影響も感じられつつ、特に強く想起させるのは『超時空要塞マクロス』シリーズだ。宇宙から襲来した異星人との対立やコミュニケーションを経て、武器で戦うだけでなく歌や文化の力で相互理解や融和を図っている『マクロス』シリーズのように、本作も戦うだけではなく、歌やダンスで対立を解決しようとする描写もなされる。


 ダイバーシティを重視する社会では諍いなども起こりやすく、日本だけでなく世界中で大きな議題となっている。中には罵倒を重ねて相手を排除するような動きもあり、そのような情勢に一石を投じる作品も多く誕生し、世界の映画シーンで高い評価を獲得している。


 『プリキュア』シリーズのように女児向けの作品は、そういった注目を集める機会は少ないかもしれない。だが、本作には諍いを対立による解決ではなく、お互いの文化を尊重しながら思いをぶつけ合うことで問題を解決する姿勢がうかがえる。それらは大人向けの作品と同等のメッセージ性を宿しながらも、子ども達にも伝わるように表現されており、その製作の姿勢が多くのファンの心を掴むのだろう。現代社会を鋭く評した2019年を代表する作品の一つであることは間違いなく、今後も更なる傑作を期待してしまうシリーズだ。


■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。


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  • テーマ曲「Twinkle Stars」が強烈な印象に残った。CD買って聞く価値がある曲だった。
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