森口将之のカーデザイン解体新書 第23回 驚きの連続! テスラの新車「モデル3」は外見も中身も独創的だった

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2019年11月08日 11:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
これまで、1,000万円クラスの大型セダンやSUVを送り出してきたテスラの新型車「モデル3」には、500万円台からという価格、大きすぎないサイズなどから、普及版というイメージを抱く方が多いかもしれない。しかし、デザインは上級車をしのぐほど攻めている。

○老舗ブランドとは考え方が違う

テスラが米国で「モデル3」を発表したのは2016年。当初は大量生産の体制が整っていなかったようだが、2018年には日本仕様を発表し、今年からデリバリーを始めた。筆者も東京都内で試乗できたので、まずはデザインについて解説していく。

モデル3のデザインは、今なお根強い人気を誇る大型セダン「モデルS」の延長線上にある。とりわけ、エクステリアはその傾向が強い。一見して電気自動車(EV)だと分かるカタチではない。その点ではBMW「i3」のほうが斬新だ。

これは、テスラが狙ったところでもあると考えている。モデルSのスタイリングが独創と革新にあふれていたら、1,000万円クラスのクルマを買う富裕層はあそこまで飛びつかなかっただろう。既存の自動車と大きく変わらないビジュアルを持っていたからこそヒットしたのであり、モデル3もその流れの上にあると思っている。

しかし、今年登場した老舗プレミアムブランドのEV、具体的にはジャガー「i-PACE」やメルセデス・ベンツ「EQC」と比べると、明らかに違うところがいくつかある。

ひとつはフロントクリルがないことだ。初期のモデルSは長円形のグリルを装着していたが、それは上で書いたように、違和感を与えないというテスラの配慮だと想像できた。ゆえにブランドの浸透が進むと、マイナーチェンジでグリルを消滅させた。EVが使うモーターやバッテリーは、エンジンに比べると発熱量が少ないので、空力を考えればグリルはないほうがいいからだ。

対照的に、上記の老舗ブランドEV2台は大きなグリルを据えている。ともに伝統をアピールするためだと思っているが、ジャガーのそれは冷却用としての機能はなく、ダウンフォース(車体を下に押し付ける力)を発生させるために使っている。逆にいえば、テスラは過去へのしがらみがないので、グリルレスにできたといえる。
○前後にトランクを用意

もうひとつ、モデル3から感じるのは、フロントノーズが低く、キャビンのガラス面積が大きいことだ。最近の乗用車は歩行者保護性能を確保する関係で、フードを高くする傾向にある。プレミアムブランドのグリルが大型化しているのは、この影響があるかもしれないが、当然ながらガラス面積は狭くなりがちだ。

しかし、EVはノーズの中にエンジンはなく、はるかに小さなモーターが収まっているわけだから、ノーズは低くできるはず。テスラはこのメリットを活用する方向でフォルムを描いた。おかげで、正面から見るとノーズが低く、ガラスが広いことは一目瞭然。これは車内の開放感にも寄与する。

それだけではない。テスラはモーターやインバーターなどの機器を、バッテリー同様に低く収めることで、リアだけでなく、フロントにもトランクを用意した。これもモデルSから受け継いだ部分で、EV専用プラットフォームだからこそ可能になった技ともいえる。同じくEV専用プラットフォームを持つジャガーも前後に荷室を配置しているが、エンジン車とプラットフォームを共用するメルセデスの荷室はリアだけだ。

ちなみに、モデル3のボディサイズは全長4,694mm、全幅1,849mm、全高1,443 mmで、長さは5ナンバー枠内、幅は1,850mm以内に収まっている。日本の事情を考慮したかのような寸法なのである。

モデル3のキーは薄いカード型。これをセンターピラーのセンサーにかざすとロックが解除となり、ドアを開けることができる。逆に、降車時にはカードをかざしてロックする。この際にクラクションで確認の合図を出すことも可能だ。米国ではスマートフォンにキーを内蔵できるそうだが、日本ではまだ認可されていないとのこと。こういう部分でも、一歩先を行くブランドであることを実感する。

○「引き算」のインテリアデザイン

運転席に座るとインパネが低く、視界は思いきり開けていて、ミッドシップエンジンのスポーツカーのようだ。頭上もスモークのガラスルーフになっているので明るい。

それ以上の驚きはインパネの造形で、センターに15インチという巨大な横長のディスプレイがあるだけだ。モデルSやモデルXでは運転席の前にあったデジタル式メーターさえ存在しない。スイッチと呼べるのはステアリングのスポーク左右に並んだ丸いダイヤルだけ。エアコンのルーバーもインパネの段差に埋め込んであり、ミニマリズムの極みである。

モデルSやモデルXでは縦長だったディスプレイを横長にしたのは、スピードメーターなどをドライバーの目に近い場所に表示するという目的もあったものと思われる。筆者は愛車の1台がセンターメーターということもあり、違和感はまったく抱かず、逆になぜ、今まで統合しなかったのだろうと不思議に思ったほどだ。

モデル3のインパネを見ていると、これまでのクルマのインテリアは「足し算」、つまり機能が増えればその分、スイッチも増やしていくという考えだったのに対し、テスラは逆にインターフェイスを統合し、操作系を減らしていく「引き算」のデザインを実践していると感じた。

ステアリング奥から両側に生えるコラムレバーも一新した。モデルSやモデルXではメルセデスのそれを流用していたが、モデル3ではスタイリッシュなオリジナルデザインになったのだ。

後席は、このクラスの平均的な広さを確保している。床下にバッテリーを積むためフロアはやや高めだが、前後方向の余裕はあるし、つま先は前席下に入れられる。頭上も余裕があるが、これは独自の設計によるところが大きい。モデル3のリアウインドーはセンターピラーの直後から始まっているので、内装材の厚みがないのだ。おかげで自動車離れした開放感が得られる。

その代わり、荷室へのアクセスはモデルSやモデルXのようなリアゲートではなく、通常のトランクリッドになる。実用面では上級車種のほうが上かもしれないが、トランクスルーによって空間を広げることは可能で、床下収納スペースは驚くほど深い。さらに、前述のようにフロントにもトランクを持つから、逆にセダンとしては使い勝手に優れるほうだろう。トータルでの容量は542リッターと十分な数字を誇る。

このように、走り出す前からさまざまな驚きをもたらしてくれるモデル3。デザインだけで買いたくなる1台に仕上がっていたが、走り出すとさらなる魅力に包まれた。その様子は日を改めて報告することにしよう。

○著者情報:森口将之(モリグチ・マサユキ)
1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。(森口将之)
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