この秋App Storeに訪れた変化 - 松村太郎のApple深読み・先読み

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2019年11月12日 17:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
6月にアップルが開いた「WWDC19」でお披露目されたiPhoneやiPad、Macなどの新OSが、この秋に続々とリリースされました。新OSの登場とともに装いを新たにしたアプリストア「App Store」の変化について、改めて松村太郎氏に解説していただきました。

WWDCはアプリ開発者向けのイベントであり、アプリを作る開発者に対して最新の技術情報を提供し、実現しようとしているアプリ開発を手助けしたり、新しいアプリのアイデア着想へとつながるインスピレーションを与える場だ。

毎年、各プラットフォーム向けの新OSが発表され、付属のアプリやシステムの機能などはユーザーにも直接的に影響が出る。これらが発表される基調講演は、一般ユーザーにとっても気になる部分である。

さらに、新OSで新たに開発できるようになるアプリや新たに利用できるようになる技術に関するセッションが続き、世界各国からやってきた開発者たちが熱心に耳を傾ける。むしろ、WWDCは基調講演が終わったあとからが重要なのだ。

アプリ開発の手法やできることについても関心が集まるが、そうしてできあがったアプリを通じてビジネスを展開したい開発者にとって、ユーザーに対してアプリを配信・販売するための場としてのApp Storeに大きな関心が集まるのは必然といえる。
○App Storeの功績

App Storeは、iPhoneの2代目となるiPhone 3Gが発売された2008年7月にオープンしたモバイルアプリストアだ。

それまで、アプリケーションは箱に収められたソフトウエアを販売するパッケージソフトの形態で流通しており、日本ではコンピュータショップを中心に、米国ではさらに書店やスーパーなどを通じて販売されてきた。

しかし、iPhone向けのApp Storeは、完全にオンラインを通じたダウンロードの形式でアプリを無料もしくは有料でインストールできるモデルとして確立された。大手アプリ開発会社にとっては、流通網を開拓する必要がなくなり、大幅なコストダウンと機会創出につながったが、より大きなインパクトがあったのは個人の開発者だろう。

先述のようなパッケージソフトによる流通の仕組みしかなければ、個人で全米、もしくは全世界に対してソフトウエアを販売することは不可能だった。それこそ、MicrosoftやAdobeのような大規模な企業が、世界中の市場に販売会社を立てて、流通企業や小売チェーンと手を組んで、初めてソフトウエアの世界販売を実現できたからだ。

それに比べると、App Storeはローカライズの手間こそあるが、Appleのサーバーにアプリをアップロードしてチェックボックスを操作するだけで、その地域のiPhoneユーザーに対してアプリを販売できるようになる。

有料アプリの場合、30%の手数料が徴収されることになるが、開発者からすれば、アプリが公開された瞬間からビジネスモデルが成立する点、また30%程度のコストで世界中の人々にアプリが販売できる可能性が開けるならば納得できる金額、ということになる。

加えて、アップルはApp Store経由でのみ、iPhoneやiPadにアプリをインストールできる仕組みを守っている。App Storeで公開されるアプリは、Appleによって毎週10万本近くが審査され、そのうちの4万本をセキュリティやバグなどの理由で却下している。
○新ストアと新しいアプリ形態

この秋に各OSがアップデートしたことで、App Storeは以下のようなラインアップに変化した。

iPhone・HomePod向けApp Store(iOS 13)
iPad向けApp Store(iPadOS 13)
Mac向けApp Store(macOS Catalina)
Apple Watch向けApp Store(watchOS 6)
Apple TV向けApp Store(tvOS 13)

iOSとiPadOSの分離については、現状は名称が分かれたことが最も象徴的な出来事で、iPhone向けを含むiPadアプリという構造などの変化は訪れないとみられる。しかし、iPadアプリについては「Project Catalyst」によって、Macアプリとしてビルドできるようになったため、iPhoneアプリとは異なる歩み始めていきつつある。

例えば、TwitterはすでにMacアプリから撤退し、Webインターフェイスやサードパーティーのアプリを活用するよう案内していたが、Project CatalystによってiPadアプリチームがそのままの人員でMacアプリを担当できるようになったことから、Mac向けTwitterアプリが復活した。

また、これまでアプリが提供されてこなかったFacebook Messengerも、Mac向けアプリを準備しているという。こちらも、Project Catalystを活用することで、ウェブブラウザのSafariでは実現できなかった、音声やビデオによる通話などiPad版と同じ機能がMacで利用できるようになるとみられる。
○Watchアプリが百花繚乱に

そして、この秋のApp Storeにおける最も大きな変化は、Apple Watch向けApp Storeが新設されたことだ。

前述の通り、Apple Watchアプリはこれまで、iPhoneアプリに付属する形で配信・インストールされてきた。つまり、Watchアプリ単体でインストールすることはできず、必ずiPhone側のアプリと連携しながら活用する方式が採られてきた。

Apple Watch自体の性能充実を待ったことや、Apple Watchの登場から4年の間にどのような活用が進むのかを見極めるという意味でも、Watch単体のApp Storeをはじめから用意しなかった戦略は理解できる。その一方で、iPhoneアプリと必ず対になるWatchアプリの構造から、Watchアプリの存在意義を見いだせず、TwitterやAmazonなどはすでに撤退していた。

Watch専用アプリストアの新設は、時計というデバイスにフォーカスした小さいアプリという分野が開けていく可能性がある。シンプルなUIの短いコードで書かれたアプリが、既存もしくは新規の開発者によってたくさん作られることが予想できる。

iPhoneがそうであったように、Apple Watchもアプリによって新しい活用方法が見出され、デバイスやプラットフォームそのものの価値が向上していく効果が期待できる。

Watch向けApp Storeは、シンプルな検索とおすすめアプリの表示にとどめられる。iPhoneやiPad、Mac向けのApp Storeでは、アプリの使い方や開発者インタビューなどが毎日掲載されるが、Apple Watchがそうした文字を読むには適さないデバイスだからだ。

Apple Watch向けのアプリが単体で配信されることになった技術的な背景として、今回のWWDC19で最も重要な「SwiftUI」の存在がある。一部の開発者にとっては、iPhoneアプリが始まって以来、10年に1度のインパクトがあるという。次回の記事では、その理由について探っていこう。(松村太郎)

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