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英語民間試験と東京五輪 共通する「無茶ぶり」の構造

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2019年11月14日 16:00  AERA dot.

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写真英語民間試験導入の延期を表明した萩生田光一文科大臣(c)朝日新聞社
英語民間試験導入の延期を表明した萩生田光一文科大臣(c)朝日新聞社
 11月1日、文部科学省は英語民間試験導入の延期を決定した。試験対策を早くから進めてきた高校生、高校教諭らは不信感を示した。高校生は「途中で変えるぐらいなら、最初から決めてほしくなかった」と非難し、高校の校長は「もう現場は動いている。行き場のない憤りがある」と怒る(談話はいずれも朝日新聞11月2日)。一方で、英語民間試験の導入については、地域格差、経済格差をもたらすという理由から反対の声も大きく、延期を歓迎する声が聞かれた。

 英語民間試験導入の延期の決定とほぼ時を同じくして、もう一つ、社会を大きく揺れ動かす決定がなされた。東京オリンピック競技大会(以下、東京五輪)で、マラソンと競歩が札幌に会場を移して行われることになった。東京五輪代表をねらう選手がこう批判した。

「東京のコースが決まった日から準備が始まっていた。それは海外の選手も同じ。時間を返せと言いたいし、開催10カ月前に走るコースが決まるなんてありえない」(朝日新聞10月30日)

 だが、炎天下での競技に、選手、スタッフを心配する意見は多くあった。札幌移転を評価する人もいる。

 英語民間試験の導入、炎天下でのマラソンと競歩は、ともに受験生、選手に大きな負担を強いるとして批判にさらされていた。そして、延期と移転というちゃぶ台返し、それに対する関係者の怒りと称賛。これらの問題を巡る構造はそっくりだ。

 何の因果か、大学入試と東京五輪、いずれも文科省が関わる一大イベントである。

 文科省と東京五輪の関係をすこし説明しよう。2015年、文科省の外局としてスポーツ庁が発足。東京五輪、サッカーやラグビーのワールドカップなど「スポーツに関する施策を総合的に推進する」ことを目的としている。スポーツ庁オリンピック・パラリンピック課という部署が担当する2020年東京五輪は、日本オリンピック委員会(以下、JOC)を中心に、文科省、東京都などが関わって運営する。

 英語民間試験導入と東京五輪は、その実行プロセスにおいてのゴタゴタにいくつもの共通項が見られる。なかなか興味深い。

 たとえば、文科省は英語民間試験導入について「大学入試において、英語資格・検定試験を活用し、英語4技能の評価を推進することの意義について」のなかで、受験生のメリットをこう強調している。

「受験生は、志望する大学・学部等ごとに資格・検定試験実施主体に成績証明書の発行を請求し受領した上で、それを各大学に提出することが不要となり、手続面だけでなく場合によっては経費の面でも出願の負担が軽減されます」(文科省ウェブサイト)

 受験生は「負担が軽減」とは思わないだろう。「手続面」で「軽減」された分は、受験料や交通費どころか、さらなる出費がかさむ。離島や山間部などに住む受験生が試験会場に向かうだけで、交通費、場所によっては宿泊費などのお金がかかり、「負担」は増大するばかりだ。

 また、英語民間試験の会場が離島や山間部など遠隔地などでの設置がむずかしいことについて、文科大臣は「試験会場を増やす方向で検討する」旨の発言を繰り返し、最近では「遠隔地の学生に交通費支援制度を作る」と説明をしてきた。

 しかし、試験の実施会場は簡単に見つかるものではない。国会の委員会では、高校を会場にして教員に試験監督をさせればいいという案も出た。だが、入試直前の多忙期に教室を明け渡すのはむずかしい。学校の教員に試験の運営を任せるのは、過重負担となり、教員の働き方改革にも逆行する。

 一方のJOCである。東京五輪の招致活動ではこんな能天気なフレーズを示していた。

「この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」(「TOKYO2020立候補ファイル Discover Tomorrow」 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会編)

 マラソンと競歩の選手は、真夏の東京を「温暖」「理想的な気候」とは評価しないだろう。しかし彼らはオリンピック代表をめざし、暑さ対策を兼ねた練習を繰り返してきた。JOCや東京都も、かぶるタイプの傘、打ち水、マラソン午前3時スタートなどのアイデアを出したが、悲しいかな、失笑を買うだけだった。

 いずれの問題でもゴタゴタしてしまうのは、次のような共通項があるからだろう。

(1)受験生、選手のことを考えていない
(2)実施まで時間があったのに十分な調査をしなかった
(3)計画が場当たり的でずさんな面がある
(4)何が何でも実施ありきで突っ走る
(5)直前に不備が発覚しても言い繕う
(6)当事者やメディアから危なさや愚かさを指摘されても、根拠のない自信で乗りきろうとする
(7)主催者や役所のメンツを優先させる
(8)引き返す、変更するという発想を持たない
(9)危機管理システムが機能しない
(10)関連企業、スポンサーに遠慮する

 困ったことに、初志を貫くためにかなり無茶なロジックを展開してしまうのもよく似ている。

 まずは、東京五輪での小池百合子都知事の発言を見てみよう。11月1日、小池知事は記者に問われてこう答えている。

「準備をしていただいてきた、また心待ちにしてきた、100万人を超すであろうと思われる、例えば、マラソンの競技のところで、中には、沿道でよく見えるコーヒーショップとかお店屋さんを予約しておられた方、都の職員も、中にもそういう方いらっしゃるし、もっと言えば、それを見るためにマンションを買ったという人までいるんですね。一室を。そこの沿道が見えるからと」(東京都ウェブサイト)

 この発言では、選手よりもタワーマンション在住の高所得者ファーストと言われても仕方ない。

 続いて、英語民間試験での萩生田光一文科大臣の「身の丈」発言である。再現しよう。

「裕福な家庭の子が回数受けてウォーミングアップができるみたいなことは、もしかしたらあるかもしれないけれど、そこは自分の身の丈に合わせて2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえれば。できるだけ近くに会場をつくれるように業者や団体の皆さんにお願いしています。だけど人生のうち自分の志で1回や2回は故郷から出て試験を受ける。そういう緊張感も大事かなと思うので」(「BSフジ LIVE プライムニュース」10月24日)

 図らずも英語民間試験の経済格差、地域格差という本質を突いてしまった。

 一方、2018年、元総理である森喜朗・東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長の話。

「この暑さでやれるという確信を得ないといけない。ある意味、五輪関係者にとってはチャンスで、本当に大丈夫か、どう暑さに打ち勝つか、何の問題もなくやれたかを試すには、こんな機会はない」「部屋の中で暖房をたいて実験をするわけではない。これが自然で起きていて、逆らうわけにはいかない。この暑さでそっくり2年後、東京で(五輪を)やるということを考えなければならない」(「日刊スポーツ」2018年7月18日)

 選手にここまで求めるのはあまりに酷ではないだろうか。

 知事、文科大臣、元総理。立派な経歴を持ち、理性も知性もあるはずなのに、いったい、どうなってしまったのだろう。入試改革と東京五輪には、彼らにこう発言させてしまう得体の知れない「魔力」があるのだろうか。

 ならば、悪魔払いが必要なのかもしれない。そのためには、いったん立ち止まってじっくり冷静に考える。間に合わなかったら、延期する。中止する。場合によっては返上する。そういう選択肢を持ち合わせる勇気を持ってほしい。

 筑波大学附属駒場高校の2年生は、入試改革を次のように厳しく批判した。

「大学入学共通テスト。ひとことで言えばこれは入試ではありません。入試を入試じゃなくする制度です」「ぼくたちに入試を受けさせてください」(AERAdot.10月25日)

 いま、マラソンと競歩の選手は憤りを抑えながら、札幌移転に合わせた準備をしている。しかし、競技コースが決まっていないので、競技に向けた準備が十分にできず、困惑するばかりだ。体調管理、体力づくりは並大抵のことではないのだから。

「札幌移転。ひとことで言えばこれは競技ではありません。競技を競技じゃなくする制度です」「ぼくたちに競技をさせてください」―――そう言われないよう、万全な体制づくりをしてほしい。

(教育ジャーナリスト/小林哲夫)

【おすすめ記事】国に逆らった大学は正しかった 英語民間試験に「NO」を突きつけていた7大学


このニュースに関するつぶやき

  • いまさら「悪魔払いが必要」とかそんなの記事にしてなんなの? みんなが盛り上がっているときにあえて発言する勇気をもってほしい。
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  • ザッと長さみたら相変わらずダラダラダラダラと長い文章。必殺批判したいから超独自の偏向しまくった内容なんでしょうから、一文字も読みませんが。
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