新潟県青少年野球界の真摯な取り組み、「球数制限導入」の背景にあったもの

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2019年11月15日 12:10  ベースボールキング

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10月27日に大阪大学中之島センターで行われた「野球科学特別セミナー シンポジウム」では新潟県青少年野球団体協議会(NYBOC)の 石川智雄副理事長が、新潟県青少年野球界の取り組みについて紹介した。



今春、新潟県高野連は、4月の県大会での「球数制限」の導入を打ち出した。これが、今年の「球数制限」議論の契機となったが、その背景には、団体の垣根を超えて「一体となって子供と野球の未来」を考える新潟独自の取り組みがあった。

こうした動きのきっかけとなったのは、2005年の県立野球場建設委員会の発足だった。新潟県に本格的な新球場の建設を推進するために、野球界全体がまとまる必要があったのだ。2007年には社会人から大学、青少年野球までが結集した(のちに独立リーグも参加)新潟県野球協議会が発足。
2009年に念願の「HARD OFF ECOスタジアム新潟」が完成。
この年2月に行われた新潟スポーツ医学研究会のシンポジウム「新潟の野球を底上げするための現場と医療者の交流」で、県内野球少年の健康被害が明らかになった。
これを受けて2010年には新潟県野球協議会普及育成部が設置され、翌2011年には新潟県青少年野球団体協議会(NYBOC)が発足した。
NYBOCには、高野連、リトルリーグ、リトルシニア、ボーイズ、ポニー、中体連少年部、スポーツ少年団学童部、県女子野球連盟と、男女、硬式軟式を含めたすべての青少年野球団体が加盟した。

その背景には、深刻な「野球離れ」の現状があった。少子化の進行を遥かに上回る勢いで野球人口が減少。NYBOC各団体でも深刻な問題になっていた。

そこでNYBOCは、
「少子化や野球離れを始めとする変わりゆく野球事情に危機感を持つとともに、今こそ新潟の目指すべきスタイルは何か、保護者の方が安心して大切なお子様を預けられる環境づくりとは何か、それらを団体の垣根を越えて共有したい、そして野球を、スポーツの素晴らしさを次世代にも伝えていきたい。」
という方針を打ち立てた。

2012年4月には「野球手帳」を製作。これを県内で野球をする小中学生2万人に配布した。
「野球手帳」には、
1. 少年期の骨や関節の特徴と身体の成長
2. 少年野球で多い故障について
3. 障害予防セルフチェック
4. ストレッチング
5. 投球動作の基本
6. 投球数のガイドライン
7. クールダウン、アイシング
8. 怪我をしたときの応急処置
9. 野球肘検診について
と、野球をする上で知っておくべき「身体を守る知識」がわかり安く説明されている。
その上で「野球肘検診の記録」を記入することができる。
小学校から中学、高校と団体、チームを変わりながら野球を続けても、子どもたちの成長の記録、怪我や既往歴の記録をそのまま引き継ぐことができた。
この「野球手帳」の普及が、新潟県青少年野球界に「共通認識」を醸成する上で大きな役割を果たした。

さらにNYBOCは「21C型穂波(にいがたほなみ)プロジェクト」を立ち上げる。野球を「始めよう!楽しもう!続けよう!」のスローガンのもと、野球サミットの開催、新潟メソッドの作成、障がい予防検診・研修会の充実などの活動を始めた。
2016年、2018年には「新潟野球サミット」を開催。
また2018年12月には「HARD OFF ECOスタジアム新潟」で、新潟青少年野球フェスタを開催。野球肘検診には81チーム、1450名が受信した。このなかで約70%の子供が「野球手帳」を持参していた。

NYBOCでは、今後の少年野球の方向性として、「スポーツマンシップを前提として、球数制限を導入するとともに、障碍の少ない投球動作の指導ができる指導者の育成」が必要だとしている。
「できることから、新潟から。」のスローガンには、議論の段階を経て、行動へと踏み出した新潟県青少年野球界の意気込みを見ることができる。

今春の新潟県高野連の「球数制限」導入のニュースは、唐突なように思えたが、その背景には10年近い歳月をかけた、新潟県青少年野球界の真摯な取り組みがあったのだ。(文・写真:広尾晃)

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