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桜を見る会だけじゃない! 日米貿易協定では外務省が文書を改変 元国際交渉官「内容は令和の不平等条約」

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2019年11月15日 14:45  AERA dot.

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写真「桜を見る会」に参加した安倍晋三首相=2019年4月13日 (c)朝日新聞社
「桜を見る会」に参加した安倍晋三首相=2019年4月13日 (c)朝日新聞社
 安倍晋三首相主催の「桜を見る会」で、自民党所属の国会議員らに出席者の推薦枠があったことが問題になっている。野党は名簿の公開を求めているが、菅義偉官房長官は14日、記者会見で「名簿については、会の終了をもって、遅滞なく廃棄している」と説明。資料はすでに“隠ぺい済み”ということだ。

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 隠ぺいが疑われているのは、「桜を見る会」だけではない。政府・与党が今国会の最大の焦点と位置づけている日米貿易協定でも、隠ぺい疑惑が指摘されている。にもかかわらず、協定の承認案は15日に衆院外務委員会で可決され、19日に衆院本会議で採択される予定だ。なぜ、政府は隠ぺい工作に手を染めなければならなかったのか。その背景には、専門家から「交渉で負けた」と批判される協定の内容にあった。

* * *
「日米貿易協定は『令和の不平等条約』です」

 こう話すのは、TPP(環太平洋経済連携協定)などの通商交渉で国際交渉官として参加した経験のある明治大の作山巧教授だ。日米貿易協定は、2017年にTPPを離脱した米国のトランプ大統領が安倍政権に求め、今年9月に最終合意に達した。交渉期間は、わずか半年。異例のスピード決着だった。

 安倍首相は「両国に利益をもたらすウィンウィンの合意」と強調したものの、その内容は過去の貿易協定と比べて似て非なるものだ。公式には、日本政府は関税撤廃率について「米国約92%、日本約84%」と発表している。ところが、日本の対米輸出額の約3割を占める自動車と自動車部品については関税撤廃の合意がなされていない。作山教授は言う。

「通商交渉は『ギブ・アンド・テイク』が基本で、日本が農産品でTPP並みに譲れば、米国から自動車などで譲歩を引き出さなければなりません。それが、今回は米国の譲歩はほとんどありません。TPPと日米貿易協定を関税撤廃率で比べると、日本は95%から84%に小幅の低下なのに、米国は100%から自動車などを除くと57%まで下がりました。とてもウィンウィンの協定とは言えず、ここまで完敗した交渉を国会で承認するなど、信じられないことです」

 安倍首相は「自動車および同部品は単なる交渉の継続ではなく、さらなる交渉による関税撤廃を明記した」と説明するが、そんなことは協定の関係文書のどこにも書かれていない。そのため、官僚たちは“ウソ”と“隠ぺい工作”に奔走せざるをえなくなっている。

■書き換えられた外務省文書

 外務省が公表した日米貿易協定の概要を説明した資料では、9月26日には<米国譲許表に「更なる交渉による関税撤廃」と明記>と安倍首相の説明に近い書き方をしていた。それが、10月18日には<米国附属書に「関税の撤廃に関して更に交渉」と明記>と変化。わずかな違いに思えるかもしれないが、関税引き下げのスケジュールを示す譲許表に「関税撤廃」と書かれていないことの意味は大きい。将来的な自動車関連の関税撤廃が約束されていないことを示すからだ。7日の衆院連合審査会で共産党の田村貴昭衆院議員からそのことを指摘されると、内閣官房の渋谷和久政策調整統括官は、ニつの文書について「時系列に伴う修正」と、改変を認めた。前出の作山教授は言う。

「関税撤廃で合意しているのなら、政府は自動車関連のどの品目で将来的な関税撤廃に合意しているかをリストにして示せばいい。しかし、本当は合意がないのでそれはできないでしょう。世界貿易機関(WTO)は自由貿易協定(FTA)について9割超の関税撤廃が必要としていて、米国の自動車関連の関税撤廃がなければそれを満たしません。日米というニつの大国が国際ルールを無視することの意味は大きい。これまで安倍首相は韓国に対して元徴用工問題で『国際的な約束を守ってほしい』と批判してきましたが、協定が発効してしまえば今後はそれも言えません。国際的な自由貿易のルールを、トランプ大統領と一緒に破壊することになるからです」

 安倍政権の国際ルール違反を表に出さないようにするため、国会での説明は意図的に改変された情報ばかりになってしまった。その一つが、協定の経済効果を示した試算だ。

 政府の試算では、協定の経済効果は実質国内総生産(GDP)を約0.8%押し上げるという。しかし、これは米国が自動車関連の関税をすべて撤廃したことを前提にしている。東京大学大学院の鈴木宣弘教授(農業経済学)が、協定の内容通り、自動車の関税撤廃がないことを前提に政府と同じ手法で試算すると、GDPの増加率は0.09%にしかならなかった。鈴木教授は言う。

「日本政府の試算がおかしいことは、米国の貿易情報誌からも『撤廃を仮定してGDPの増加効果を計算した』と指摘されています。せめて、自動車関連の関税が撤廃されていない場合の試算と2本立てで発表すべきですが、それすらしていません」

■GDPがマイナスになる可能性も

 これだけではない。協定の発効でもっとも影響を受ける農林水産物について、政府は生産額が600億〜1100億円減少すると試算している。ところが、国内対策で農業の競争力が高まるとして、生産量への影響は「ゼロ」だという。ちなみに、自動車関連の関税撤廃が実現したとして試算しても、GDPは0.16%しか増えなかった。

「試算には『価格が下がっても、生産コストが下がる』『コストが下がれば、賃金が上がる』などの前提をつけて、意図的にGDPの増加率を引き上げています。試算の前提を変えることは、ドーピング剤を打つようなもの。そんなことをすれば、結果の数字はいくらでも増やせます」(鈴木教授)

 そのほかにも、試算には「日本の農産品は品質が高いので、米国産と入れ替わらない」「農業で職を失った人は、瞬時に別の業種に転職できる」といった前提がある。いずれも試算のための机上の空論で、非現実的だ。そのこともふまえて鈴木教授が試算をすると、GDPはマイナス0.07%となった。政府はそれでも、今回の協定で牛肉や豚肉の関税が下がっても、コメの開放がなかったことが「成果」だったと主張している。だが、この説明もあやしい。

「来年に大統領選を控えるトランプ氏にとって、コメの生産地であるカリフォルニア州は民主党の票田なので、もともと興味がないのです。しかも、コメ以外の農産品では譲っているのに、自動車関連の成果は何一つなかった。こんな協定は前代未聞です」(鈴木教授)

 前出の作山教授は、交渉の過程で日本が持っていたカードをアメリカ側に提示した形跡がないことも、元国際交渉官として疑問に感じているという。

「トランプ大統領が自動車の関税を上げると脅してきたら、日本は『では、牛肉の関税を現行の38.5%から上限の50%まで上げます』と反論すればよかった。これは国際ルールの違反ではありません。実際、EUはトランプ大統領の脅しに対して、対抗措置として米国のどの品目の関税をどこまで上げるのかのリストを準備しています。日本は、韓国に対しては輸出優遇国(ホワイトリスト)からの除外という対抗措置を取りましたが、米国にはそのそぶりすら見せていません。本気で米国と交渉していたとは思えません」

 では、米国は今回の協定に満足しているかというと、そんなことはない。コメについてはTPPの水準に達しておらず、米国内で批判が出ている。協定は、来年5月以降に再交渉されるため、今後、コメなども議題にのぼる可能性がある。今回は始まりにすぎないのだ。それでも協定の承認案は、大きな混乱もなく15日に衆院外務委員会で可決した。TPPは70時間以上の時間をかけて議論したが、日米貿易協定の審議時間は10時間にも満たなかった。安倍政権の思惑通りの展開に、野党の農林議員も嘆くばかりだ。

「こんなにひどい協定なのに、野党議員が体を張って審議を止めるどころか、プラカードを持ち込んでメディアにアピールするようなこともしない。だから、すべてが与党のスケジュール通り。闘う気すらなくて、情けない。野党の幹部は、国民の生活よりも大臣のクビを取ること(辞任)しか考えてないんだよ」

 戦後史で例をみない「不平等条約」が、安倍首相とトランプ大統領の間で実現しようとしている。だが、そのことを政治家も国民も多くの人が知らない。最大の危機は、そこにある。(AERA dot.編集部/西岡千史)

このニュースに関するつぶやき

  • 日米貿易協定など自由貿易の事をちゃんと報道すべきだと思う。
    • イイネ!0
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  • 貿易の交渉で日本に有利になるようにしたいなら、日本も憲法改正をして武力を背景にした交渉ができるようにすればいいのよ。
    • イイネ!23
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