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辞書作りの世界を描いた『舟を編む』、どれくらいリアルだったんです? 映画版制作に関わった『大辞林』編集長インタビュー

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2019年11月15日 20:03  ねとらぼ

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ねとらぼ

写真左:実際に使われていた用例採集カード、右:映画用に制作されたレプリカ
左:実際に使われていた用例採集カード、右:映画用に制作されたレプリカ

 制作期間10余年、数十人規模の制作チーム、かつて膨大な手作業により指紋が消失する者もいた。――― これは巨大な建造物ではなく、“辞書”という1冊の本の話です。2019年9月、大型国語辞書『大辞林』(三省堂)から、13年ぶりの全面改訂となる第4版が刊行。本記事は、映画『舟を編む』の制作にも関わった編集長・山本康一さんへのインタビュー企画となります。



【用例採集カード、実際はどう使われていた?】画像で見る「辞書づくりの現場」



 ねとらぼのTwitterアカウントで質問募集を行ったところ、やはり多かったのは「本当に『舟を編む』のように辞書を作っているんですか?」というのもの。同作は辞書づくりの現場がリアルに描かれている一方、山場の「『血潮』という言葉が1つ抜けていたために作業を全て中断し、膨大な確認作業を始める」というシーンなどに関しては、時代の変化で少しだけ変わってしまった点もあるのだとか。



●話題を集めた『舟を編む』、どれくらいリアルだった?



―取材参加者――



・山本康一さん:『大辞林』第4版編集長



・ながさわさん:数百冊の辞書を保有する辞書コレクター。暇さえあれば辞書を引いている



・ねとらぼ編集部



――――――――



――― ねとらぼ読者から質問を募った結果、『舟を編む』に関する質問が最多でした。やっぱり業界内でも有名な作品なんですか?



編集長:もちろんですよ、この業界の人は皆触れているでしょう。知らなかったらモグリですよ(笑)。



 『大辞林』の初代編集長・倉島(節尚/くらしまときひさ)が辞書の制作過程などについて書いた本があるのですが、三浦しをんさん(原作小説の作者)はそういうのをよく読んでいて、非常にリアリティーのある作品だと思います。基本的にはあの通りですね。



ながさわ:映画版で取材協力してましたよね。



編集長:そうですね。小説のときは小学館さん、岩波さんに取材されていて、うちには声が掛からなくてガックリ来たんですが(笑)、映画は「ぜひやってほしい」ということで。当社にロケハンも来ましたし、私は脚本の初稿段階からミーティングに参加していました。



 これはかつて当社で実際に使っていた「用例採集カード」、こちらは映画で使われたレプリカです。



――― 新しく見つけた言葉を記録するカードですよね。これって文房具メーカーが作っているんですか? 用例採集している人はかなり少ないと思うのですが



編集長:いえ、これは『大辞林』専用に作ってもらっていました。昔は、これが机にドカッと置かれていて。使い方はいろいろで言葉の意味を書いたり、出典資料をそのまま貼ったり。当時は、けい線を無視してメモ代わりにもしていましたね。



 用例採集のやり方は今も昔も変わりませんが、デジタル化の流れでツールは変わってきています。今は社内データベースもあるし、私の場合はタブレット端末から「Evernote(エバーノート)」で。



ながさわ:(編集長のタブレットを見ながら)語や用例だけでなく、出典資料までちゃんと画像で保存してるんですね。



編集長:以前は新聞をパシャっと撮影していたんですが、『大辞林』の制作作業が忙しくなったとき「電子版なら電車内でも作業できるぞ」「スクリーンショットでいけるから、けっこう楽だな」と。おかげで会社に来る時間が早くなっちゃいましたよ。



ながさわ:私も用例採集しているのですが、原典までは記録できていないので参考にさせていただきます。



――― 「用例採集している人はかなり少ない」と言ったばかりなんですが、なぜ……?



ながさわ:趣味です。しっかりやりたいですね。



●『舟を編む』より『舟を編む』っぽいことしてません?



――― 逆に「『舟を編む』のここはちょっと違うぞ」というシーンは?



編集長:小説だと作者・三浦さんが「時代を限定したくない」ということで、いつの話なのか書かれていないですが、映画版はセットを使う都合もあって時代設定が設けられています。1995年〜2010年ごろが舞台になっていて、よく見ると1995年のカレンダーが映っていたり。



 それで時代の変化について言うならば、「血潮」のシーンでしょうか。



――― 校正の途中で「血潮」の記載漏れが見つかり、1カ月間泊まり込みで確認作業を行うところですね。辞書作りへの情熱が試されるような印象的なシーンでしたが



ながさわ:そんなミスはありえない、ということですか?



編集長:いえ、「あの語がないじゃないか」「ここが違うぞ」というのはよくあるトラブルで、ヒヤヒヤしながら作ってますよ(笑)。血潮のような基本的な語が抜け落ちていることも、なくはない。



 でも、現在はデジタル化が進んでいて。特に『大辞林』は編集支援システムを組んでいて、人手を使わなくても短時間で調べられるようになっています。大量動員して皆でゲラをめくって、誤りを見つけるというのは今は現実的ではありません。



ながさわ:「血潮」のようなミスがあっても、PC上から一発で検索できる、と。



編集長:そうですね。でも、それだけでは分からないところもあって、辞書づくりの基本は今でも「自分の目で見ること」です。そういう意味では『舟を編む』のリアリティーは揺らがないと思います。



――― 雑誌編集部にいたことがあるのですが、原稿にミスがないか1つ1つ自分の目でチェックしていく校正作業は重労働。『大辞林』ほどのページ数(3200ページ)となると……



ながさわ:そういえば、読者から「何校までやったんですか」という質問が来ていましたね。



編集長:大きいのは4校くらいまでで、責了(※)ということにしたのですが、責了の確認として念校(※)が出て。その後も再念校、再々念校。紙でいうと7校くらいまでやりました。



※責了:責任校了の略。訂正箇所が少ない場合などに印刷会社に責任をもって修正してもらい、校正を終了すること



※念校:責了後、念のために校正すること



――― ミスがないか細部まで確認する作業を7回も繰り返したわけですか、あのページ数で



編集長:再校(2度目の校正)までは「棒ゲラ」といって、書き込みスペースがある形で印刷するのですが、そうするとページ数が2倍の6000枚くらいまで膨れ上がります。



ながさわ:6000ページ×2周で、1万2000ページ。もうめくるだけでも相当なことですよね。



編集長:初代編集長の倉島は紙のめくり過ぎで指紋が消えたそうですが、私の場合は手首を痛めました。もっと紙をめくるフォームに気を付けるべきだったかもしれません、手首を返さないようにするとか。



 ちなみに、デジタル版でもやっぱり紙で確認しないといけないところがあって、こちらも3校くらいやっているので、合計すると10校ですか。あと、最後のほうはスケジュール的に厳しくて。赤字(修正指示)が少なかったのもありますが、1カ月間で3校回していました。



――― 何だかんだで『舟を編む』の血潮のシーンより、辞書愛が試される展開になってません?



編集長:死ぬかと思いました(笑)



ながさわ:よくぞご無事で!



(続く)



※「『“大型”国語辞典』は50万項目収録の『日本国語大辞典』だけ」「『大辞林』などは中型」とする見解もあるが、大型に相当するものが1つしかない分類は一般読者には分かりにくいと思われることなどから、本記事では『大辞林』の規模でも「大型国語辞典」としている


このニュースに関するつぶやき

  • すごく良くて、すごく勉強になった映画。そしてアニメ。
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  • これ、懐かしいな。 映画も何度か観たし、本でも何度も読んだな。 好きな映画・本の一つだわー!
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