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【将棋】木村一基は、なぜ46歳にして初タイトル(王位)を獲得できたのか? 本人を直撃!「それがわかっていれば、もっと早くから取り組んでいますよ(笑)」

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2019年11月16日 06:51  週プレNEWS

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写真自らを「将棋の強いおじさん」と呼ぶ、気さくな木村一基・新王位
自らを「将棋の強いおじさん」と呼ぶ、気さくな木村一基・新王位

29歳の絶対王者に挑戦し、46歳にして初のタイトルを獲得。親しみやすい風貌と、軽妙なトーク&ジョークで、幅広い層のファンから熱烈に支持されている人気棋士、それが木村一基(きむら・かずき)だ。自らを「将棋の強いおじさん」と呼ぶ気さくな人柄の新王位を直撃インタビュー!

* * *

――今日だけ"おじおじ"と呼んでもいいですか。

木村 はい、いいですよ。

――まずは初タイトルの獲得、おめでとうございます! 今回の王位戦を振り返ってみていかがでしょうか。

木村 まあ、とにかく疲れたというのが本音です(笑)。

――対戦相手の豊島将之(とよしま・まさゆき)3冠(当時)は、今年5月に名人を4連勝で奪取するなど、非常に充実されていました。

木村 ですので、最初は7番勝負の最後まで行けるかどうかという不安がありました。私が3つ勝たないと7局目までいきませんので。その点では7局目まで行けて、ほっとしています。

――なんと謙虚なお言葉! 対戦前は、やってやろう!という強い気持ちと、獲(と)れないかもという不安な気持ちが、常に交錯されていたとか。

木村 特に今回は連敗スタートでしたのでね。3局目にやっと1勝を返せて、「これでストレート負けすることはなくなってよかったな」って。

――2連敗の後は2連勝し、さらに1勝1敗で勝負は最終局へ。ところが、振り駒(駒を振って先手後手を決める方法)で後手番に! 将棋は先手がとても有利なので、運のなさを嘆くおじおじのファンがたくさんいました。

木村 私が後手番を引いた時点で、何かよからぬ予兆があるように感じられたんでしょうね(笑)。でも、私はやるべきことは本当にすべてやって臨んだので、そこはあまり意識していませんでした。

――ネット上では、将棋ファンの9割以上がおじおじを応援していた印象です。

木村 これまで一回もタイトルを獲ったことがなく、年齢的にもおそらく今回が最後の挑戦じゃないかって。そう感じた方が応援してくださっていたように思いましたね。

――3年前に43歳で当時の羽生善治(はぶ・よしはる)王位に挑戦したときも、これが最後かもしれないと多くのファンは見ていたように感じます。

木村 ええ。私自身もいつもそういうような心構えで臨んでいましたからね。ただ、3年前の敗戦は......やはり悔しさは......ありましたね。

――あのときは3勝2敗と追い詰めてからの惜敗でした。ちなみに、10年前は深浦康市王位(当時)に挑戦し、3連勝の後4連敗でタイトル奪取に失敗したこともありました。

木村 単純に自分の実力が足りなかったということです。まあ、過去にとらわれるよりも、気持ちを切り替えていくことが大事かなと思います。

――そして、7度目の挑戦で悲願の初タイトル奪取。一番大きかったのはなんですか。

木村 それがまったくわからないんです。将棋指しってスポーツ選手のようなトレーナーがいないんですね。だから今の自分に何が欠けているかとか、わからないまま調子が上がったり下がったりしてるんです。(なぜタイトル戦で勝てたか)それがわかっていれば、もっと早くから取り組んでいますよ(笑)。

――ハハハハ。確かに。

木村 ひとつだけいえることは、今年に入ってから研究の時間を大幅に増やしました。外出したときの10分程度の空き時間も、頭の中で戦術を練ったり。起きてから寝るまで自分でもいやになるくらい勉強を続けたことが、いい方向に出たのかなって。

――ほぇ〜! でも、年齢とともに気力や記憶力が落ちてきますが、そのあたりは?

木村 正直、きついです。20代、30代の頃と比べて疲れやすくなってますし、やる気も出づらくなっています。「もう今日はこのへんでいいかなあ」と思うときも少なくないですから。でも、そういうときでも「もうちょっと」と頑張るようにはしています。

――あともう一歩を頑張らせたものはなんなのでしょう。

木村 結局自分には将棋しかありませんから、やるしかないということです。ピークは過ぎているという自覚はあるので、現状維持をする努力ですね。それを怠ると真っ逆さまに落ちていきますので。

――でも、おじおじは46歳にして、29歳の豊島前王位を破って初タイトルを奪取。しかも、今年はA級(順位戦の頂点)に復帰して、竜王戦では挑戦者決定戦に出場。むしろ今が一番指し盛りなのではないかという声もあります。

木村 それはたまたま結果が出ているからでしょうね。やはり40代になれば疲労は蓄積しやすくなりますし、読みの精度も落ちてきますから。

――では、プロ棋士養成機関である奨励会時代の話も少し伺いたいと思います。

木村 二段までは早かったんですよ。中学生でなりましたので。17歳で三段になって、いずれはプロ(四段)になれるだろうと思っていました。

――ところが三段リーグでは長らく停滞するという。

木村 奨励会では一日2局指すんですけど、一回の不調で半年がパーになるんですね。その繰り返しで6年半を過ごしました。その間に後輩が抜いていったり、同じような実力だと思っていた人がすっと上がっていったり。

――つらいですよね。

木村 全力で将棋に取り組んでもうまくいかないと、もうこの道でやっていくのは無理なんじゃないかって気持ちになるんです。奨励会は年齢制限(26歳)があるので、20歳をすぎると誕生日が来るのが本当に怖かった。でも、自分には将棋しかないし、ここで投げ出したら何をやっても投げ出すんだろうなって。苦しみながら続けていました。

――奨励会時代には二度と戻りたくないですか。

木村 そうですね。たぶん、奨励会時代の話になると、ほとんどのプロ棋士は暗くなると思います(笑)。

――そして、トップ棋士ではかなり遅い23歳で四段に昇進してプロの道へ。そんな遅咲きのおじおじが46歳で初タイトルを獲ったことはものすごい快挙だと思います。座右の銘は「百折不撓(ひゃくせつふとう)」(何度失敗しても志を貫くこと)。

木村 棋士になったときから書いていますので、もう23年になりますね。失敗しても信念を曲げないというのは、なかなか簡単なことではありませんけどね。

――まさに、百折不撓を体現されている将棋人生かと。

木村 結果的にそうなりましたかねえ。まあ、それだけ遅かったので、なんともいえないところもありますが(笑)。

――「王位」と揮毫(きごう)するときは感慨深いものがありますか。

木村 まだ違和感がありますね。慣れていませんから。つい九段と書きそうになったりして(笑)。

――ゲン担ぎはしますか。

木村 負けたときと同じものは前日に食べないとか、それくらいです。対局の前日は、だいたい鶏の唐揚げかトンカツかギョーザかステーキ。対局のときは小食になる分、割と重めのものが多めですね。

――少しプライベートなお話も。結婚は何歳で? 奥さまのどこにほれたのですか。

木村 結婚したのは28歳です。そうですねえ、お互いにまったく気を使わなくていいところがよかったですね。今は気を使わなさすぎて......どうなんでしょうね(笑)。

――ハハハハ。タイトル奪取後の取材では「奥さまや娘さんの支え」を尋ねられて、涙を拭う場面もありました。

木村 その質問をした記者さんは知り合いで、何か聞かれるぞとは思っていました。私が用意していたのは「ファンへの思い」で。ずっと身構えていたら、まったく違う家族のことを聞かれたんです。

――読みが外れた、と。

木村 その瞬間、弁当を作っている妻の姿が頭をよぎりまして......。思わず......。でも、私が泣いてる場面だけみんなが一斉に写真を撮るので、「なんだよ〜」とも思いましたけど(笑)。

――お弁当は毎日ですか?

木村 上の娘が中学生で弁当なんですね。それで私の分も一緒に作ってくれるんです。

――さぞ奥さまは初タイトルを喜んでくださったのでは?

木村 特別な祝いの言葉はなかったですよ。ただ、対局が終わって何日かたったとき、上の娘から「3年前(の王位戦)に負けたときは、妻が家で慟哭(どうこく)していた」という話を初めて聞きまして。ああ、苦労かけたなあと思いました。なるべく私には意識させないように振る舞っていてくれて。

――いい話です(泣)。今後の目標はありますか。週プレ的には、49歳で名人位を最年長で奪取した故・米長邦雄先生の記録をぜひ更新してほしいです!

木村 私自身、長年タイトルには縁のないものだと思って過ごしてきましたからね。それがタイトルが獲れたというのは、いい状態にあるということかと思います。とりあえず今は、このいい状態を維持することが一番の目標です。

――最後に、おじさんの星、中年の星といわれることは?

木村 ありがたいし、とても名誉なことだと思います。どんな人でも40歳を過ぎれば曲がり角が来ますからね。私自身、多くのファンから応援していただき、それが力になった部分もありましたので、少しでも恩返しができればいいなあと思っています。

●木村一基(きむら・かずき) 
1973年6月23日生まれ、千葉県四街道市出身。故・佐瀬勇次名誉九段門下。46歳3ヵ月での初タイトルは、それまでの37歳6ヵ月を大幅に塗り替える史上最年長記録! あだ名は「将棋の強いおじさん」、おじさんをもじった「おじおじ」、受けの棋風から「千駄ヶ谷の受け師」など

取材・文/浜野きよぞう 撮影/内山一也

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