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ラーメン界に「貝だし」ブーム到来 東京「琥珀」大躍進に見る業界の期待と憂い

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2019年11月17日 13:00  AERA dot.

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写真宍道湖しじみ中華蕎麦 琥珀の「宍道湖しじみ中華蕎麦〈塩〉」は一杯850円。一杯につき約65個のしじみを使用したスープは芳醇な香りに溢れている(筆者撮影)
宍道湖しじみ中華蕎麦 琥珀の「宍道湖しじみ中華蕎麦〈塩〉」は一杯850円。一杯につき約65個のしじみを使用したスープは芳醇な香りに溢れている(筆者撮影)
 秋はラーメン界が騒がしい季節だ。2大イベントといわれる東京ラーメンショーと大つけ麺博の開催に加えて、賞レース「TRYラーメン大賞」の発表がある。名だたるラーメン評論家が1年かけてラーメンを食べ歩き、そのなかから選び抜かれた名店がランキングされるため、業界最高権威ともいわれている。過去には「らぁ麺 やまぐち」「中華そば しば田」「町田汁場 しおらーめん進化」など本連載でも紹介した名店が選出されてきた。今年10月に発表された「第20回 TRYラーメン大賞 2019−2020」では、「宍道湖(しんじこ)しじみ中華蕎麦 琥珀(こはく)」が新人賞を受賞した。18年7月以降にオープンしたお店が対象の賞だ。

【写真】圧巻!大量の宍道湖産大和しじみで出汁をとる

 京急線の雑色駅(大田区)から徒歩5分、古くから続く商店街を抜け、踏切を渡った先に「琥珀」はある。決して駅前の目立つ場所ではないが、令和元年5月1日のオープン以来、連日大行列を作っている。

 一杯につき約65個のしじみを使用した「琥珀」のスープは、芳醇な香りに溢れている。ひと口食べただけでしじみの旨味が口の中に広がる。これまでに食べたことのない一杯だ。

 店主の岩田裕之さんは、20代の頃に食べた横浜家系ラーメンがきっかけで、ラーメンの食べ歩きを始める。当時好きだったお店は「六角家」と「八代目がんこラーメン」。30歳までは会社員だったが、食好きが高じて飲食業界に飛び込んだ。居酒屋や焼肉店などを経て、ラーメンでの独立を考えるようになる。そこで13年、知人の紹介で東十条の人気店「麺処 ほん田」の門を叩いた。当時36歳。やや遅めのスタートだった。

「ほん田」は明るく楽しい職場だったが、仕事は過酷だった。何時間も立ちっぱなしで、特に夏の暑さは厳しかった。何度も逃げ出したくなったが、ラーメン作りの楽しさに夢中になった。

「焼肉は素材で美味しさが左右される部分が大きいですが、ラーメンは素材とともに技術によるところも大きい。いい素材を使ったからといって、美味しいラーメンが作れるわけではないですからね」(岩田さん)

 その後、「ほん田」がプロデュースするお店の責任者を3年半務め、ラーメンの新たな味づくりをいくつも手掛けていく。19年に入り、いよいよ独立に向けて動き始めたとき、雑色で韓国料理店を営む母親から、「そろそろお店を閉めたい」と相談を受けた。母が長く守ってきた場所で成功したいと、お店を改装してラーメン店を開くことを決意する。準備を進め、大安だった5月1日、「琥珀」は令和初日にオープンした。

■貝だしラーメンの時代が到来!?

 王道の醤油や豚骨ではなく、しじみをラーメンのスープに選んだのは、関西で食べたしじみラーメンの味が忘れられなかったから。「ほん田」の系列店「夏海(なつみ)」の限定ラーメン「しじみラーメン」をヒントに味づくりをして完成させた。

 しじみの仕入先にもこだわった。いくつかの候補の中から、力強いダシがラーメンに向いていると島根県の宍道湖産を採用。岩田さんが何度も交渉を繰り返した結果、価格・品質ともに申し分のない仕入先を見つけることができ、しじみラーメンを一緒に盛り上げてくれるパートナーとなった。味づくりにも自信がつき、思いきって店名に「宍道湖しじみ中華蕎麦」と入れた。島根県出身というわけではないが、宍道湖のしじみに絞ることにした。

 しじみというと味噌汁のイメージが強く、一般的にはラーメンと結びつきづらい。周囲には大丈夫かと心配されたが、知り合いの有名店主たちの応援もあり、徐々に口コミが広がっていく。しじみのヘルシーなイメージもあって、家族連れや年配のお客さんもたくさん食べに来てくれた。

 岩田さんが一番意識したのはラーメンを食べた後の“余韻”だという。お店を出てから帰り道にじわじわとしじみの風味を感じながら帰ってほしいという思いだ。今後はこのラーメンを通じて、宍道湖の名前も広めていきたいという。

「琥珀」がここまで注目が集めた背景には、昨今の「貝だしラーメン」ブームがある。

 桑名産のハマグリをふんだんに使ったスープが特徴の新宿御苑前の「SOBAHOUSE 金色不如帰」が「ミシュランガイド東京2019」で一つ星を獲得。さらに、銀座などに展開する「むぎとオリーブ」もハマグリを使ったラーメンで大ブレークしたのち、ミシュランガイドでビブグルマンを獲得した(17年)。大阪でも「ストライク軒」「人類みな麺類」「醤油と貝と麺そして人と夢」など、貝だしの人気店が数多くあり、貝だしラーメンは一定の人気を保ち続けるとともに、ここ数年プチブームになっていた。

 だが、「琥珀」のようにしじみだけに特化したお店はほとんどなく、ひと口でしじみをこれほどまでに感じられるラーメンは今までなかったと言ってもいい。

 だからこそ、岩田さんは「しじみラーメン」が大行列店になるとは想像していなかったという。まずは自分の目指す一杯を作りあげ、地元のお客さんで成り立つお店を目指していた。すでに一定の人気を集めていたハマグリでもなく、近年ブーム化している鶏清湯や濃厚系でもなく、自分の道を貫いた姿勢が功を奏したのかもしれない。庶民的な味わいのしじみで上品な旨味を演出し、それが受賞にも結びついたのだ。

 人気店ができるとそれにインスパイアされるお店が増え、ブーム化するというのはよくある流れだ。だが、しじみラーメンは真似をするのが難しい。製法ももちろんだが、何より原価率の壁が立ちはだかる。ラーメン店を成り立たせるうえで、理想とされる原価率は30%ほど。「琥珀」は生産地と値段の交渉がうまくいっているとはいえ、それでも原価率は40%を超えているという。

 しじみラーメンはお酒を飲んだ後にピッタリなこともあり、今後は繁華街で朝まで営業できるお店を作りたいと岩田さんは考えている。都心だけでなく、「琥珀」を起爆剤に、しじみの産地である宍道湖でご当地ラーメンのように「宍道湖しじみ中華蕎麦」が広がっても面白い。だが、多店舗展開するにあたって「琥珀」もコストの壁を越えていかなければならない。

 限られた素材をむやみやたらに仕入れるお店が増えると、他のお店の仕入れにも影響してくる。貝だしラーメンに注目が集まる一方で、ハマグリなどは国内生産量が年々減少し、価格も高騰しているのが現状だ。本当に美味しいラーメンが残るためには、産地側も食材をおろす先をしっかり選ぶなど、ある程度の条件設定が必要になってくるだろう。(ラーメンライター・井手隊長)

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて18年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho

※AERAオンライン限定記事

このニュースに関するつぶやき

  • 日清のシーフードラーメンに勝る、ラーメンはコスパ考えると無いカモ…高いよ…普通にラーメンに500円以上は出せないな…
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  • 貝だけじゃなくて、鳥パイタンと合わせるとより上手い
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