立花龍司さんに聞くコーチング「怒ると叱るは違う。基本的には褒める」

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2019年11月19日 12:22  ベースボールキング

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日本野球界のトレーニングコーチとして草分け的な存在と言える立花龍司さんのインタビュー。前回はコーチという言葉の語源、従来の日本型のコーチング、最新のコーチングなどについてお話をうかがいました。今回は更に踏み込んで、コーチングの具体的な事例についてお届けします。



■コーチングは時間がかかるもの
最新のコーチングは『質問、気づき、気づかせ、提案型』とお話しました。またコーチは学び続けることが必要ともお話しました。そこでよく勉強しているコーチにありがちなことで自分もそうだったんですが、勉強したことを全て選手に言いたくなるんですね。でもそれだと選手が『気づく』ことにはなりませんし、『提案』とも言えません。まずは選手に質問するためには、よく観察する必要があります。そしてコーチが気づいたことを選手に質問して、一緒に考えたり選手に考えさせたりする。そして最後に背中を押すのが提案です。これをやることは凄く時間がかかるんですよね。「これをやれ!」と命令した方が早くて楽なことは間違いありません。

ただ時間がない時にはその時なりの手法もあります。それが『足し算のコーチング』です。選手が今できることを挙げて、更にそこからできるようになることを想像させる。そうすることで選手が納得して動きやすくなります。逆によくあるのが『引き算のコーチング』。ここができない、これが苦手。だからこれをやれ、というものですね。これだと選手にも響きませんし、効果は持続しません。

■「怒る」と「叱る」は違う。基本的には褒める
これも良く言うことですが『怒る』と『叱る』は違います。怒るは感情的で、叱るは論理的です。子どもに対しても危険なことをした時などは叱ることは必要です。そこで怒ってしまうと子どもにとっては大人が凄く大きく怖いものに見えて、トラウマになってしまうことが少なくありません。そして激しく怒られるとフラッシュバックして同じことを繰り返してしまうという実験結果も出ています。逆に上手くいったことを褒めると、それも強く心に残って、上手くいったことを繰り返すということも分かっています。

私がニューヨークメッツ(MLB)にいた時、ショートにレイ・オルドニェスという守備の名手がいました。彼がある試合で打球の前を通ったランナーのせいでエラーをして負けたことがあったんですね。その試合が終わった後、その日のうちに担当のコーチは同じ状況でノックを繰り返し受ける練習をさせました。決して罰という意味合いではありません。そのノックを簡単にさばく様子を見てコーチが「お前くらいの選手はこれくらいのプレーはできて当たり前だから大丈夫だよ」と言ったんですね。そうすることで選手はまた前向きになりますよね。成功体験をすぐ再現させる。そして褒める。そのことが重要だと感じる例でした。


■コーチングの基本はポジティブ
『足し算のコーチング』でも触れましたが、コーチングの基本的な感情はポジティブである必要があります。ポジティブシンキングということは、『何々したい』という成功が前提にあります。一方でネガティブシンキングは『何々してはいけない』という失敗が前提になるんですね。日本ではどうしてもこの失敗が前提になっていることが多いです。
これはスポーツに限らず子育てでもそうです。日本の場合は大人に怒られないようにという考え方、アメリカでは大人に褒められようという考え方が多いです。例えば子どもが外に出て一人で街を歩くとします。車にひかれないようにと思う親の気持ちは同じです。こういう時に日本は「道路に飛び出したらダメだよ」と言うことが多いと思いますが、アメリカでは「道路を渡る時は左右をしっかり見るようにね」と言うことが多いです。一方は行動を禁止している、一方は行動を促しているということがよく分かりますよね。
野球でも同じような例があります。例えば高めのボールが速いピッチャーで、そこを打ってしまうとアウトになる確率が高いというデータがあります。そういう時に日本では「高めのボールに手を出すな」と指示することが多い。そうするとどうなるか? 選手は逆に高めのボールに手が出たり、中途半端なスイングになることが多くなります。そうではなくて、「低めのボールを狙え」と言われたらどうでしょう? 選手は前向きになりますよね。このように考え方を『してほしくない』ではなく『してほしい』という風に変えて、それにあった言葉遣いを選ぶだけで大きく変わってくると思います。(取材:西尾典文)

立花龍司さんに聞くコーチング「『楽しい!』という経験がその後の努力に繋がる」




立花龍司さんプロフィール
1964年生まれ。大阪府出身。浪商高校(現大体大浪商)、大阪商業大でプレーし、大学時に学生コーチに転向。天理大でスポーツ医学の単位を取得し、1989年に近鉄バファローズのトレーニングコーチに就任。その後ロッテ、ニューヨーク・メッツ、楽天でもコーチを務めた。筑波大学大学院修士課程修了。筑波大学野球研究班研究員、日本野球科学研究会会員。
2001年より大阪堺市阪堺病院内SCA(ストレングス&コンディショニングジム)を設立主宰。現在は大阪と千葉で『タチリュウジム』を開設して後進の指導に当たりながら、全国各地で講演活動も行い、note(https://note.mu/tachiryu89)でもこれまでの経験をもとに様々なことをテーマに発信している。

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