立花龍司さんに聞くコーチング「『楽しい!』という経験がその後の努力に繋がる」

2

2019年11月20日 12:12  ベースボールキング

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ベースボールキング

写真
日本野球界のトレーニングコーチとして草分け的な存在と言える立花龍司さんのインタビュー。前回まではコーチの語源と由来、日本式コーチングの問題点、コーチングにおける重要なポイントを伺いました。最後となる今回は更に踏み込んで、育成年代におけるコーチングについてお届けします。



■子どもに伸び伸びプレーさせることが重要な理由
コーチングは常にポジティブシンキングで、考え方を『してほしくない』ではなく『してほしい』に変えることが重要だとお話しました。これは特にジュニアの年代に重要なことです。例えば同じゴロを受けて処理する練習を一方のグループは失敗したら罰走のある『何々してはいけない練習』、もう一方のグループはどんどん数を多く続けようという『何々しよう練習』にする実験を行いました。そうするとどこに差が出てくるかというと、ゴロを受けに行く歩幅、歩数に出てくるんですね。『何々してはいけない練習』のグループは歩幅も狭くなって歩数も少なくなります。確実に捕球できるボールだけを捕球しようとするんですね。そうやって目先の結果にこだわると、子ども達はチャレンジしなくなるんです。これが伸び伸びプレーさせることが重要な理由です。

■大人は「年間計画」、子どもは「年齢計画」が必要
少しトレーニングの話になりますが、子どもの身体というのは大人のミニチュアではありません。千葉ロッテに1位指名された大船渡の佐々木朗希くんの例で有名にもなりましたが、まず子どもの骨には骨端線という溝があり、そこから成長軟骨が生まれて骨が大きくなります。この骨端線が閉じると、成長が止まったということになります。ただ骨端線が閉じていない、まだ柔らかい骨の時に大きな負荷をかけて剥離骨折などを起こしてしまうと、その修復に本来骨を成長させる分が取られてしまうことになります。そのような骨折を経験した子どもの身長の成長曲線は、通常の成長曲線と違って波が分かれてしまい、結果として体が大きく伸び切らないということにもなります。まずそのことを指導者の方全員には知っておいてもらいたいですね。
高校野球でも球数制限の話が出ていますが、これも高校生というくくりではなく、本来であれば学年でも分けるべきだと思います。プロなどの大人は勝つためにトレーニングを年間計画で考えますが、子どもは将来いかに大きく伸びるかというために、年齢で計画を立てていく必要があると思いますね。


■ジュニア年代に重要なトレーニングとは
我々のようなコーチ、特にジュニア年代に関わる者の仕事は、選手の器をいかに大きくするかということです。選手の器を大きくしておけば、後からそこに入る技術の量も大きくなります。それが選手のスケールの差になってきます。

器を大きくするためにはまず目先の1勝を頭から消すことが必要です。子どもの年代にもトレーニングは必要ですが、その年代にしか伸びない巧緻性、敏捷性、反応といったことを重視するべきでしょう。特に巧緻性、自分の体を自由に操ることができる能力というのはその子の競技人生を大きく変えるものになります。

巧緻性を伸ばすためには野球の動きだけでは不十分です。アメリカがシーズンスポーツを導入しているのはそのためです。小学生のうちは3〜4、中学生では2〜3、高校生や大学生でも2つのスポーツを行うのが主流です。社会主義国のキューバでも7歳から11歳の間は様々な種目をやり、12歳から18歳でも専門競技の時間は長くやりますが、他の競技もやります。日本でも有名なリナレス選手は13歳まで陸上の選手でしたが、自分で選んでその後野球を専門にしてあそこまでの選手になりました。

一方で日本は小学校の時から野球なら野球しかやらないことが多い。そうするとその時は上手でも、体が大きくなってきた時にできるプレーの幅が小さくなります。そのあたりが選手のスケールの差になっていることは間違いないと思います。

■「楽しい!」という経験がその後の努力に繋がる
小学校の年代はとにかく『野球は何て楽しいんだ!』と思わせるようなことを徹底してやることが重要だと思います。この時の気持ちが後から大きく変わってきます。
私がアメリカに渡った時に思ったことは、メジャーの選手は本当に野球が好きなんですね。選手達が私の誕生日にビデオカメラを贈ってくれたことがあったので、そのお返しに日本のグラブをプレゼントしたことがありました。日本のグラブの質は世界でも一番で、メジャーの選手にも喜ばれるんですよ。そうしたらその選手たちが練習に来るときもグラブをはめてきたり、移動の飛行機でもグラブにボールをパンパンずっと投げたり、グラブの革の匂いを嗅いだりしてるんですね。グローブを買ってもらって嬉しい、日本の小さい子どもたちと同じことをやっているんです。そうやって野球が好きな気持ちを持ち続けていることが、大人になってからも努力できる原動力になっていると思いますね。


■指導者も勉強することによって変われる
よく指導者講習会でお話させてもらうと、「(今でもパワハラの指導をしている)本当に聞いてほしい人が聞きに来ない」ということを聞きます。でもそういう指導者はいずれ淘汰されていくと思います。私自身も大学で初めてコーチをした時は高圧的な指導をしていました。そんな私も多くのことを学んで変わることができた。ですから、どんな指導者でも学ぶことによって変わることができるはずです。一人でも多く指導者が変わることが、日本の野球界が変わることに繋がります。
そのためにこれからも多くの場所でお話しし、発信し続けていきたいと思っています。(取材:西尾典文)




立花龍司さんプロフィール
1964年生まれ。大阪府出身。浪商高校(現大体大浪商)、大阪商業大でプレーし、大学時に学生コーチに転向。天理大でスポーツ医学の単位を取得し、1989年に近鉄バファローズのトレーニングコーチに就任。その後ロッテ、ニューヨーク・メッツ、楽天でもコーチを務めた。筑波大学大学院修士課程修了。筑波大学野球研究班研究員、日本野球科学研究会会員。
2001年より大阪堺市阪堺病院内SCA(ストレングス&コンディショニングジム)を設立主宰。現在は大阪と千葉で『タチリュウジム』を開設して後進の指導に当たりながら、全国各地で講演活動も行い、note(https://note.mu/tachiryu89)でもこれまでの経験をもとに様々なことをテーマに発信している。

このニュースに関するつぶやき

  • いかに的を射たコメント。昭和脳なトレーニングは最早通用しないんだよね。
    • イイネ!4
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

ニュース設定