原因不明の体調不良で死にかけた人も、「一度の診断で安心しないように」と医師

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2019年11月27日 08:00  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

※写真はイメージです

 疲れや不調って、 「しかたない」 「こんなもんさ」と やりすごしがち。 でも、原因や治す方法 ちゃんとあったら……、 それ、知りたくありません?

「疲れ」「だるい」は主観でしかない

「疲れが取れない」「なんだか身体がだるい、重い」というのは、あくまでも主観、つまり自分の感じ方。血液や尿を検査しても数値には出ないし、症状が見えないからMRIやCTの検査もできない。つまり、証拠がないのだ。ここにやっかいさが潜んでいる、と東京女子医科大学病院総合診療科の部長代行・島本健臨床教授は言う。

「昔から、『疲れる』『だるい、重い』という主訴は医師にとって、とても難しい。データにも出ないし、はっきりした定義もない。判断が難しいのです」

 身体症状があればまだ手がかりになるが、メンタルの病気の場合はそれすらない場合も。だからこそ、原因を探っていくには、ある程度の時間とプロセスが必要となる。

 六番町メンタルクリニック院長・海老澤尚先生も、

「メンタルの病気の可能性があっても、いきなり診断することはできません。メンタルが原因ではない病気の可能性が本当にないのか、きちんと段階を追って調べる必要があるからです」

 ところが、病院に行くほどの疲れやだるさ、重さを感じている当人にとってみれば、「病院に来たのだからすぐ診断してほしい」「早く何が原因か突き止めたい」という気持ちでいっぱい。先に述べたように、巷には脅かしのような情報があふれているので、不安だけがどんどんつのっていく。

 その結果、起きてしまうのが、ドクターショッピングやインターネット情報をうのみにした自己診断だろう。本人にしてみれば、よりよい医療を、より確かな情報を求めてやっているのだが、結局はなんらメリットにならないことも多い。

「病院を転々とする、というのは患者さんが納得していないということでしょう? 納得できるように話をよく聞く、診療の進め方をていねいに伝える、という医師側の配慮が足りないとも考えられる。でも、パッと見てパッと診断するのがいい医師というわけではありませんよ」(島本先生)

 不安や焦りを早く解決したいあまり、なかなか診断を下さない医師に見切りをつけてみたり、あるいは評判の高い大病院に行くのがいちばんと思い込みがち。でも、そんなことを続けていると、いつでもその場しのぎの医療を受けるはめになるのだ。

 また今回、取材した先生方がともに警鐘を鳴らしていたのがインターネット情報。あきらかに間違えていたり、古くて今は通用しないという内容も散見されるのに、それを信じて不安になったり、思い込んで頑なになったりしている患者も多いそう。

「せめて医師や病院、製薬会社など信頼できる発信元かどうかチェックして」(島本先生)

 身近に信頼できるかかりつけ医を持つなど、長い目で見て、いつも安心できる医療を受けられるよう、私たち自身の意識改革も必要。これから超高齢化を迎えるにあたり、そろそろ真剣に考え直してみるべきかもしれない。次のページでは、病気の診断における理想のプロセスについてみていこう。

体調不良を診断する4ステップ

 例えば、1度、病院にかかって風邪と診断され、薬を出される。それでもよくならない、どうやら風邪じゃなさそうだぞと感じたら、病院を変えたくなるのが人情というもの。

 ところが、「病気の診断には、きちんと踏むべきプロセスがある」と、前出の海老澤尚先生。

 まずはしっかり話を聞いてもらうというのが第1段階。「気のせいですよ」などと言う医師は論外だが、患者側も自分の状態をきちんと説明できることが大切。これが正確な診断の近道だ。

「私たち総合診療科では、最低でも15分は話を聞くようにしています。それでも初診では話していただけなくて、あとから実は……ということも。特に家族関係や人間関係についてはそう。でも、医師と患者が一緒に協力して考えていく、治していく、ということが大切です」(島本先生)

 病状に関係ないと自己判断するのは禁物。特にメンタルの病気は環境が原因のことも多いからだ。

「うちのメンタルクリニックでは、初診は約50分かけて話を聴きます」(海老澤先生)

 最初の段階では、「緊急性を要する危ない病気なのか、そうでないのかを判断しなくてはいけません」(東京女子医科大学病院 総合診療科診療部長代行・島本健先生)。

 まず疑うのは重度の感染症である敗血症や急性の臓器不全など。急性疾患とは急激に発症し短い経過をたどる病で、見逃すと命にかかわるものもある。

「これらの病気を疑いながら、段階を踏んで検査を行い、ひとつひとつ、この病気ではないと除外するプロセスが必要。ほとんどが血液検査で大まかな分類ができるので、その後、適切な検査さえすれば診断にいきつきます」(島本先生)

 急性疾患でなければ、慢性の病気の可能性も高まる。

「メンタルの病気でなくても、疲労感やだるさを感じる病気はたくさんあります。甲状腺の疾患や睡眠時無呼吸症候群などもそう。専門性の高い検査が必要なものもあります。これらは検査をすればわかるので、検査結果で異常がなければ、メンタルが原因の可能性が高まります」(海老澤先生)

 こうして臨床推論を進め、正しい診断に導いていくのだという。

【病気の診断プロセス】


●STEP1


疲労の状態を確認し、急性疾患を疑う。


血液検査の結果、数値の異常あり。


 ↓


〈YES〉急性疾患の疑いあり。精密検査へ


主な疾患/急性臓器不全(肝、心、腎、副腎)・敗血症・重症糖尿病


〈NO〉STEP2へ



●STEP2


見逃してはいけない慢性疾患を疑う。


CT、MRI、内視鏡などの検査の結果、異常あり。


 ↓


〈YES〉慢性(重篤)の病気の疑いあり。専門医や大病院へ


主な疾患/悪性腫瘍・感染症(急性肝炎、結核など)・希死念慮のあるうつ病


〈NO〉STEP3(またはSTEP4)へ



●STEP3


「疲れが取れない」「身体が重たい」のほかに「笑えない」「意味もなく悲しい」などがある。持続が月単位で長く続く、朝方が最も悪く、運動などで軽くなる、日によって変動する、ストレスが多い。


 ↓


〈YES〉精神科あるいは該当する専門医へ


主な疾患/うつ病・糖尿病・甲状腺機能低下症・貧血・薬剤の副作用・アルコール依存・ウイルス感染 *妊娠(適齢女性)の可能性も


〈NO〉STEP4へ



●STEP4


珍しい難病が隠れている可能性あり。考えられる専門医を紹介する。


主な疾患/線維筋痛症・慢性疲労症候群

「きちんとした医師なら、このプロセスをたどるはず。ところが、早く診断してほしいとあちこちの病院に行かれてしまうと、情報やデータが分断されてしまう。継続して1人の医師に診てもらえばそんな事態にはなりません」(島本先生)

 3ページめでは、最初にかかった病院で病気を見抜いてもらえず、あやうく命を落としかけた女性の実例を紹介する。

〈実例〉近所の開業医で回復せず
「一気に悪化して死にかけました」

【病気の正体は劇症糖尿病! 桜木梅子さん (仮名・40代)】

 とにかく、疲れてはいたんです。主人が長い闘病生活を送っていて、その介護をしながら3人の子育て。毎日が目まぐるしいほど忙しい。自分で言うのは変ですが、手抜きができないまじめな性格なので、休む間もなく動いていました。

 ただ、健康には自信があったんです。料理も好きでバランスよく食べていたし、体力もあるほう。マッサージに行ったり、早く寝るなどしてなんとか乗り切れていました。だから、疲れがひどい、熱があると感じたあの日も、風邪と疲労だと思っていました。いつもかかる近所の内科で風邪薬をもらいましたが、寝てもいっこうに回復しない。微熱が下がらず、だるさも取れず、そのうち吐き気もしてきました。

 もう1度診てもらいましたが、原因はわからずじまい。その夜からです。一気に悪化し、ベッドからまるで起き上がれない。吐くものもないのに吐き気は止まらず苦しくてしかたない。ちょうど姉から様子見の電話がかかってきたときは、話すのも難しい状態でした。

 驚いた姉は「それ、おかしい! 大きな病気かも」と駆けつけてくれ、すぐにタクシーに私を乗せて中規模の病院に駆け込んだのです。そのときの私は秒を追って悪化していて、タクシーの中では意識を失いかけていました。

 すぐに血液検査をしたら、血糖値が400! 危険な状態と判断され、即入院。ほぼ1週間寝たきりで、その間の記憶もさだかではありません。

 診断された病名は、劇症1型糖尿病 (※)。膵臓からいっさいインスリンが分泌されなくなり一生、注射が必要と宣告されました。

「ほんとに危なかったですよ」と、死の危険もあったとわかったときは、幸運だったとは思いましたが、完治しないという事実はやはりショックでした。

 1型糖尿病は原因不明なのに、生活習慣が原因の2型糖尿病と混同されてしまう……。不摂生の結果と思われてしまうのが、ほんとうにつらいです。姑にいやみを言われるのも悔しくて悔しくて……。

 初診で、すぐに病気が判明していたら……と思うこともありますが、結果は同じだったかもしれない。それは誰にもわかりません。でも、疲れやだるさをあなどってはいけない、自分の体力を過信してはいけないと痛感しました。

 これが学びとなり、主治医は自分で納得できる先生を探し出しました。一生、付き合うわけですから。今は信頼できる医師と、進歩してきた治療法で、安心して生活ができています。

〈※1型糖尿病〉
自己免疫の暴走によって膵臓でのインスリン分泌ができなくなる病気。生活習慣が原因である2型糖尿病とは違い、原因は不明。生涯にわたり、インスリン注入が必要である。

テレビで注目の「総合診療科」の実態は?

 テレビでは毎日おびただしいほどの健康情報が発信されている。特に重病、難病モノは人気だ。芸能人が健康診断をした結果、驚きの余命宣告をされたり、ちょっとした不調に悩まされ続けた結果、実はこんな難病奇病だった! と解明されたり。かなりセンセーショナルな内容が多い。

 そんな番組で最近よく聞くのが、「総合診療科」「総合診療医」という言葉だ。

 実際、疲れた、体調不良だといっても、何科に行くのがいいのか迷うことは多々ある。頭も痛いが耳鳴りもする、腰も痛いが不眠もあるなど、症状がココ!とピンポイントでなく、あちこちあるとなおさら。「総合」という言葉どおり、全部診てくれるなら、とても助かる。テレビの影響か、原因不明の疲れや体調不良の原因をたちどころに突き止め、ときには解明しにくい難病奇病の診断もできるイメージがある。

 どれほどスーパーな診療科なのかと、東京女子医科大学病院の総合診療科を訪ねてみた。前出の島本臨床教授から、返ってきたのは、私たちの心配を一掃する言葉。

「体調不良や疲れが実は難病だったというのは、ごくまれなケース。可能性がないわけではないが、数としては非常に少ない。そもそもテレビに出てくるような症例は、珍しいからこそ扱われるわけですから」

 そう、難病は数そのものが圧倒的に少ない。だからこそ患者会ができたり、医療費助成がある。客観的な事実を考えると、すぐに難病かも!? となるのはいきすぎた心配だということがわかる。日々臨床の現場に立つ医師にそう言われると、ホッとするものだ。

「テレビの影響は本当に大きい。先日も薬の数を心配する患者さんが続き、変に思ったら、前日のテレビの影響でした。内容にインパクトがあるので心配になるのはわかりますが、まずは自分を診てくれている医師を信用してほしい」

“穴”を見過ごさないのが総合診療医

 それでは「総合診療科」とは、どんな診療科で何をしてくれるのか。

総合診療科は、その名のとおり患者さんの心身の症状を総合的に診る科です。医療は道具なしに診断するところから始まりました。さまざまな医療機器が登場し、高度に発展した結果、精度を追求されるようになりました。そのうちに、本当に少しずつ、人全体を診るという側面が薄れてきてしまったんです」(島本先生・以下同)

 大学病院でも内科がなくなり、臓器別に特化した専門科が並んでいる。

「医学の進歩という面ではよかったが、医師と患者はそもそも『人間と人間の関係である』という考え方が失われたことは否めない。これではいけないという危機感のもと、ひととおりの診断・治療ができる医療が必要だと生まれたんです」

 さらに、この総合診療科誕生の背景には、加速化する超高齢化があるという。

「高齢になってあちこちが悪くなると、専門科の先生だけでは治療がしにくい面が出てきます。例えば、『腎臓が悪いからこの治療法はできません』となると、その科ではできることはないと判断されてしまう。そうなると、総合的に患者さんの状態を把握し、どの治療ならできそうか、そのどれを選択するかを判断する人が必要。そこを担う存在が総合診療医です」

 総合診療科が対象とするのは高齢者だけではなく、どの年代でもかかることができる。加齢の影響も出てくる中年期以降の世代にとっては、あちこちの科に行かなくても、総合的に診てくれる存在は頼もしいことこのうえない。

「専門の診療科だと、どうしてもその領域にばかり目がいき、ほかが見えにくくなる傾向がある。その科の見立てに病気がジャストフィットすればいいのですがそうでない場合、『穴』が多くなる。そこを見逃さないのが総合診療医なのです」

 が、気軽にかかりやすいかといえば、そうでもない。大病院では総合診療科があっても、近所ではあまり見かけないのが実情だ。

「この科は国が責任を持って総合診療の専門医を育てようと始めて2年。まだまだ医師の数も少なく、認知度も低い。でも、地域の内科のなかにも、総合診療医的な考え方で診察をしてくれる先生はいます。ぜひ探してほしいですね」

《識者PROFILE》
島本 健先生 ◎東京女子医科大学病院 総合診療科診療部長代行。臨床教授。専門は循環器科だが、現在は総合診療医として日々、診察にあたりながら、若手医師の教育にも携わる。

海老澤 尚先生 ◎六番町メンタルクリニック院長。精神科医。不安症、不眠症治療など、多岐にわたる診療経験があり、ひとりひとりの心の悩みに寄り添い職場での悩みやストレスにも理解が深い。

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