武井壮「若ければ若い方がいい」発言に考える、エイジズムやルッキズムがなくならない理由

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2019年11月29日 00:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

武井壮インスタグラムより

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます

<今回の有名人>
「若ければ若い方いい」武井壮
『有田哲平と高嶋ちさ子の人生イロイロ超会議』(TBS系、11月25日)

 タレント・小島慶子の新著『仕事と子育てが大変すぎて泣いているママたちへ!』(日経BP)の発売記念として、同書にも収録されているエッセイスト・犬山紙子との対談がネットで公開された。

 「容姿や年齢にとらわれる『呪い』はもう要らない」というタイトルで、子どもを持つ母親である小島、犬山両氏が、子育てや社会の問題を正面から語っている。

 その中で小島は、「残念ながら日本の社会にはセクシズム(性別を理由に差別すること。女性、男性はこうあるべきという考え方)とエイジズム(年齢を理由にした差別をしたり偏見を持ったりすること)とルッキズム(外見至上主義。見た目による差別をすること)の3点セットが深く根を下ろしていて、そういう言葉や態度のモデルがそこら中にある」と、日本社会における差別問題に言及。

 犬山も、特に「今の社会はルッキズムとエイジズムに偏りすぎていますね」と同調する。こうした呪いを解いていくのは自分たち世代という方向に議論は展開していくのだが、そう簡単にはいかないだろうと私は感じている。

 小島は大学卒業後、TBSの女子アナとなり、写真集では水着姿も披露している。犬山は20代のとき、美人なのにオトコに振り回されるオンナたちの生態を描いた『負け美女 ルックスが仇になる』(マガジンハウス)でデビューし、情報番組のコメンテーターも務めている。両氏の仕事もしくは経済活動に、若さや美貌が貢献してきた部分は大きいだろう(犬山自身は「負け美女」を自称していないと言っていたが)。

 エイジズムやルッキズムの恩恵を受けてきた彼女たちが、子育てをするようになって、エイジズムやルッキズムのおかしさに気づき、「そういう社会は間違っている」と言い出すのは、理屈としては通る。しかし、若さや美をもとにのしあがってきた人が、山の頂きに立ってから「若さや美で人を判断するのはナシにしましょう」と言っても、世間に「ずいぶんと都合がいいな」と受け取られてしまいかねないのだ。

 それでは、若さや美をもとにのしあがってきていない人が「若さや美で人を判断するのはナシにしましょう」と言ったら説得力があるのかと言えば、それもまた違うだろう。「ババア、ブスのひがみだ」というふうに決めつけられて話を聞いてもらえなかったり、発言者への個人攻撃に終始する恐れもある。

 エイジズムやルッキズムをやめようと提言する人は、エイジズムやルッキズム競争の覇者であっても、敗者であってもいけない。これこそ、我々の住む世界に、いかにエイジズムやルッキズムが浸透しているかの証明と言えるだろう。

■個人的な好みとして女性に若さを求めるのはアリ

 もう一つ、エイジズムやルッキズムがなくらないであろうと私が思う理由は、「エイジズムやルッキズムが正当化される領域が存在する」からである。11月25日放送の『有田哲平と高嶋ちさ子の人生イロイロ超会議』(TBS系)では、独身の男性芸能人を集めて「結婚できない理由」を探るという企画を放送していた。タレント・武井壮は、結婚相手に求めることとして、“若さ”を挙げ、「若ければ若い方いい」と発言していた。武井いわく「生物学的な年齢だけではない」「大人の社会的な常識があって、仕事もよくできる人に叱られるのがダメ」「高嶋(ちさ子)さんみたいな人が一番ダメ」ととどめを刺した。

 もし自分の個人的な好みを語る場ではなく、一般的なオフィスで、武井が一緒に働く女性を「若ければ若い方いい」と言ったり、「高嶋さんみたいな人が一番ダメ」と発言したら、これは完全なるセクハラだろう。また同番組の冒頭では、同じく独身男性芸能人である俳優・武田真治が、結婚相手の条件を語る中で「ぽっちゃりが苦手」とし、森三中・大島美幸に「実際にお太りになられている」と発言していたが、これも職場での発言なら、アウトだ。

 しかし、プライベートの世界、つまり恋愛や婚活で好みを追求するのはアリだ(男女とも年齢、外見が受け付けない人と恋愛や結婚をしたいと思う人は、ごく稀だろう)。セクハラ撲滅を目指すことに異論はないが、「年齢や外見で人を評価する」ことが完全悪かというと、そうとは言い切れない部分もあるのではないか。

 エイジズムやルッキズムというと、男性が自分は攻撃されない安全圏に身を置き、女性にとやかく言うイメージを持つ人もいるだろうが、同性間でも、特にルッキズムは発生しやすいのではないか。女性が「自分の個人的な好み」により、外見で女性を評価することは存在すると私は思っている。

 例えば、東日本大震災の際、被災した女性に化粧水や乳液、リップクリームなどの基礎化粧品を差し入れたら喜ばれたという話をニュースで見たが、スキンケアという美容は手洗いや歯磨きと同じような生活習慣の一つと言えるだろう。しかし、美容系の女性誌を見ると、愛用のコスメについて聞かれるのは、女優やモデル、女子アナなどの“キレイ職”の女性ばかりである。これは読み手の女性が、個人的な好みとして、「キレイな人」に憧れを抱いているからではないか。それを汲んだ作り手との間に、「キレイじゃない人が美容を語っても意味がない」という、「キレイな人>そうでもない人」との暗黙の了解も存在しているように感じる。

 差別をなくしたい人たちは、よく「自分がされて嫌だったから、後世に伝えない」と被害者として語るが、それだけでは不十分で、同時に「自分もなんとなく下に見てしまう人がいる」「その人を下に見たのはなぜか」という差別の実践者としての自分の意識も明らかにする必要があるだろう。しかし、これはなかなか難しい。またエイジズムやルッキズムと資本主義が組み合わさって賃金が発生していることもあるので、差別をなくすというのは、そう簡単なことではない。

■武井の問題点は、女性を感情のある人間として見ていないこと

 話を武井に戻そう。武井が若い女性が好んでも、それは個人の嗜好なので責められるものではない。経済力もあるし、武井と結婚すれば「有名人の妻」というポジションが得られるので、そのあたりに魅かれる若い女性もいるだろう。41歳のオードリー・若林正恭が、25歳の看護師と11月22日に結婚したことが発表されたが、女性の方が若い「年の差婚」をする人気芸能人も多い。

 しかし、武井の話を聞く限り、もし若い女性と結婚できたとしても、長くは続かないのではないか。武井は「女性の怒りの声や表情、しぐさがダメ。恋心がなくなる」と発言していたが、他人と一緒に暮らす中で、「怒らない」ことが一度もないなんて、お互いにあり得ないからである。武井の問題点は、若い女性を追い求めていることというより、女性を感情のある人間として見ていないことなのではないか。番組を見ながら、結婚できない理由は、案外そんなところにあるように思った。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。

このニュースに関するつぶやき

  • 年齢は当然の話。結婚恋愛に限らず全てにおいて若い方が時間があり可能性が大きい。出産も若い方がリスクが少なくなる、若い適齢期の女性を求めるのは男性の本能だよ。
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