“カルチャー”としてのGLIM SPANKYを味わい尽くすーーリキッドライトショーを用いた、今だからこそできる表現への挑戦

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2019年12月05日 07:01  リアルサウンド

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GLIM SPANKY(写真=上飯坂一 /11月29日東京・キネマ倶楽部公演にて)

 GLIM SPANKYの持つ幻想的な側面にフィーチャーし、通常のライブよりも毎回ディープでサイケディックな世界を展開する自主企画によるワンマンライブ『Velvet Theater 2019』が東名阪にて開催され、11月29日に東京・キネマ倶楽部で最終日を迎えた。


(関連:GLIM SPANKYの“温故知新”の絶妙なバランスはどう培われている? 松尾レミ&亀本寛貴に聞く


 今回の『Velvet Theater』には、大場雄一郎率いる「チームOverLightShow 〜大箱屋〜」によるリキッドライトショーをすべての公演で導入している。リキッドライトショーとは、1960年代にアメリカ西海岸で流行した舞台照明の一つ。着色したリキッド(油滴やゲル)をプロジェクターの光に通すことで作り出す、動的かつ色彩豊かな表現が当時サイケデリック〜プログレッシブなバンドに好まれた。最も有名なのは「フィルモア・イースト」(マンハッタンのイーストヴィレッジにあったコンサート会場)のザ・ジョシュア・ライト・ショーで、OverLightShowはその手法を忠実に受け継いでいる。元々はグランドキャバレーとして使われていた設備を利用して作られた、昭和の匂いを色濃く残す会場であるキネマ倶楽部に、数台のプロジェクターを持ち込んで展開される本格的なリキッドライトショーが、グリムの幻想的なサウンドスケープにどのような効果をもたらすのか。チケット即完で超満員となったフロアからは、開演前から溢れんばかりの期待が熱気となって伝わっていた。


 筆者が観たのは、28日、29日と2日にわたって同会場にて行われた東京公演の初日。栗原大(Ba)、栗田祐輔(Key/Glider)、そして武並J.J.俊明(Dr)という馴染みのメンバーを率いて登場した松尾レミ(Vo/Gt)と亀本寛貴(Gt)。栗原の弾くアップライトベースのダブルストップ(2音同時に弾く奏法)に導かれ、松尾がアコギをジャランと鳴らしながら“時計が午後11時を打ったとき、おとぎ話を読んでいた男は、何かを思い出したように立ち上がって窓を開けました”と、詩の朗読を始めた。すると、ステージ後方にはひび割れた月のような赤い模様が浮かび上がり、おもむろに踏み鳴らされたキックの振動によって徐々に形を変えていく。その現実離れした音と光の空間が、我々の意識をあっという間に吹き飛ばした。


 続く「NIGHT LAN DOT」では、青いリキッドがまるで生き物のように動き出し、分裂や融合を繰り返しながらスクリーンいっぱいに広がっていく。プロジェクターの熱を利用しリキッドを沸騰させたり、着色したリキッドを何色も組み合わせて繊細なグラデーションを表現したり、グリムの演奏に反応しながらリアルタイムで作り上げていくリキッドライトショーは、二度と同じことができない“一回性”の強いアートなのだ。


 筆者は去年、米国カリフォルニア州で行われた音楽フェス『デザート・デイズ』で、マッド・アルケミー(https://www.madalchemy.net)によるリキッドライトショーを見たのだが、デジタル機器に一旦取り込んでから再生される彼らの演出とは違い、アナログ的手法にこだわったOverLightShowのそれは、より立体的で温かみがありグリムのサウンドとの相性も抜群だった。しかもグリムは今回、VJも起用しており、リキッドライトショーのアナログな映像と、VJによる作り込んだ映像を組み合わせることによって、単に60年代のフィルモアを再現するのではなく「今だからこそできる表現」にチャレンジしているのだ。それを強烈に感じたのは、3曲目に演奏された「MIDNIGHT CIRCUS」。まるで月面のような真夜中の砂漠を、サーカス団が行進する映像(個人的には80年代に作られた「サントリーローヤル」のCMを思い出した)に、リキッド風の映像をオーバーラップさせた演出が、ストーリー仕立てのこの楽曲の雰囲気と完全にシンクロし、まるで1本の映画を観ているような濃密な時間を作り上げていた。


 冒頭で述べたように『Velvet Theater』は、グリムのディープな世界にフォーカスしたセットリスト。「怒りをくれよ」や「褒めろよ」「ワイルド・サイドを行け」のような、疾走感あふれるライブ定番の楽曲をあえてはずし、彼らの持つメロディの美しさやアンサンブルの細やかさ、サウンドプロダクションの緻密さをじっくりと聴かせる楽曲が数多く並んでいる。特に、ライブ後半に用意されたアコースティックセットは本イベントのハイライト。「お月様の歌」や「夜風の街」「美しい棘」といった楽曲を、松尾の歌と亀本のアコギを軸にアップライトベースやカホン(ペルー発祥のパーカッション)など時々加えながら演奏すると、会場からはため息が漏れた。中でも圧巻だったのは、浅川マキ「ジンハウス・ブルース」のカバーだ。〈近かよらないでよ あたしの側に だってあたしはいま 罪におぼれてるからさ〉と、背徳的かつ官能的な歌詞を松尾がブルージーに歌い上げ、それに亀本が組んず解れつのバッキングで応じる様子はたまらなくセクシーだった。


 また、音源では打ち込みと生演奏によるハイブリッドなアレンジを聞かせていた「Breaking Down Blues」も、この日の演奏ではオーガニックなバンドアンサンブルを全面に打ち出した(ハンドマイクで歌う松尾も新鮮だった)。ライブ終盤ではシングルリード曲「ストーリーの先に」を、アンコールでは「Tiny Bird」も披露。「ここ最近は、ゆったりとしたテンポの楽曲を作るモードに入っていた」と、以前亀本に会ったときに明かしてくれたが、奇しくもそれは今回の『Velvet Theater』のコンセプトにもうまく合致していたのだった。


「音楽も映像も、昔のものと今のものをかけ合わせるという方法でGLIM SPANKYは表現しています。それに賛同した仲間がこうやって集まってくれてとっても嬉しいです。みんな、ありがとう」


 ライブのMCで、そう話していた松尾。前回のインタビューでも彼女たちの口から「温故知新」という言葉が出たが、オーセンティックなロックミュージックとモダンなサウンドプロダクションを融合した彼女たちの音楽性を、最もエッジーな形で表現しているのがこの自主企画イベント『Velvet Theater』なのだ。音楽だけでなくアートやファッション、文学などを総合した「カルチャー」としてのGLIM SPANKYを味わい尽くす、忘れ難い一夜となった。(黒田隆憲)


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