ヴィジュアル系バンド×YouTuber『B.PチャンネルFes.』、成功の秘密は? イベントから感じた未来への可能性

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2019年12月05日 13:01  リアルサウンド

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『B.PチャンネルFes.』(KEIKO TANABE)

 ヴィジュアル系バンドとYouTuberのフェスという、新しい音楽の楽しみ方が実現した。2019年11月7日、幕張メッセイベントホールで開催された『B.PチャンネルFes.』である。


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 同イベントは、己龍、Royz、コドモドラゴン、BabyKingdomなどヴィジュアル系バンドが所属する事務所・B.P.RECORDS(以下、B.P.R)が主催し、ゲストにはNon Stop Rabbit、夕闇に誘いし漆黒の天使達や、YouTuber・ヴァンビが以前活動していたヴィジュアル系バンド・LOG-ログ-、そしてヴィジュアル系エアーバンド・ゴールデンボンバーを迎えた。今回が初開催となったフェスは多くの観客を集め、成功をおさめた。その秘密がどこにあったのか、当日の様子を振り返っていきたい。


 ステージは「開会宣言」からスタート。舞台上のスクリーンに映し出されたのは、今日この日を迎えるまでのB.P.RECORDSチャンネルの歩み。B.P.RECORDSチャンネルとは、B.P.R所属バンドによるYouTubeチャンネルだ。これまでは主に各バンドのMVなど音楽活動にまつわる動画が公開されていたが、2018年11月からは「自分達に興味を持ってもらう」ことを目的とし、いわゆる“YouTuber”として動画が配信されるようになった。そこから1年間、毎日動画配信することを目標とし、そのひとつの集大成として今回のフェスを開催することもB.P.RECORDSチャンネルの動画で発表されたのであった。


 映像が終わると、B.P.R所属バンドのボーカル4名が楽屋から生中継で登場し、己龍の九条武政(Gt)が“仕事”としてスタッフとトランプに興じている場面も映されつつ、開幕を宣言。トップバッターであるLOG-ログ-による動画へとつなげた。各出演者が登場する前に流れた動画は、YouTuberが多く集まるこのフェスならではの演出で、出演者のことを知らなくても、自己紹介、導入としての効果があったように思う。ライブパフォーマンスを披露するだけに留まるわけにはいかない、という主催者側の意思も感じられた。


 動画では、ヴァンビによる人気YouTubeチャンネル「ヴァンゆんチャンネル」さながらにLOG-ログ-のメンバーが「モッツァレラチーズゲーム」を実行。動画が終わると程なくしてメンバーがステージに登場し、ライブスタート。ヴァンビが「V・A・M・B・I! どうも! ヴァンビです! いや、今日は、L・O・G! LOG-ログ-だ!」と叫ぶと、一日限定復活の彼らを待ち焦がれたオーディエンスがグッズのリングをキラキラ輝かせながら飛び跳ねる。「Adore you〜キミヲ想フ声〜」「PEACH SAMURAI」といったエレクトロでポップな楽曲を披露し、サポートの己龍・遠海准司(Dr)も含めメンバー全員で笑い合いながらステージを進めていった。まっすぐ前を見つめ真剣に歌いながらも、「何が起こるかわかんないね、人生!」「今日はどんな経験も経験値になるから!」と、彼が身を以て感じてきたであろうリアルな言葉を伝えながら、奇跡の再演を果たした。


 LOG-ログ-のステージが終わると、すかさず己龍の酒井参輝(Gt)、九条、遠海がMCとして登場。出番を終えたばかりの出演者にインタビューし、終わるとすぐに次の出演者の制作した動画が始まる、という流れに。結果として、このフェスにおいて何も催しがない時間は各出演者間で5分前後しかなかったのである。オーディエンスを飽きさせない、時間の限り楽しませようとする心意気が感じられた。そして、分刻みの厳しいタイムスケジュールの中でも、最後までほぼタイムテーブルどおりに進行していたことも同時にお伝えしておきたい。


 次に登場したのはB.P.R所属バンド・BabyKingdom。“MUSIC THEME PARK”をコンセプトに活動しているだけあり、「MUDDY CANDLE」「大阪ちんぷんかんぷんROCK」など、テーマがピンポイントでコンセプチュアルな楽曲ばかり。そこに咲吾(Vo)の嬉々とした歌声が乗り、オーディエンスはテーマに合わせた振り付けでライブに参加する。「カマッチャイナ!」では、他の出演者も大勢登場し、ステージを全力で走り抜け、踊り、まるでお祭り騒ぎ。大型フェスならではの愉快な光景を見せてくれた。


 続いてはYouTuberバンド・Non Stop Rabbit。彼らは一体どれだけ“キャッチーなメロディ”の引き出しを持っているのか。そして矢野晴人(Vo/Ba)の歌声の素直さや純粋さたるや。その連続攻撃にただただ引き込まれるオーディエンスも多かった。MCでは、ゲストバンドとしてホームのオーディエンス(B.P.Rのファン)に対し「仲良くなるには差し入れが必要」と、田口達也(Gt/Cho)が客席にお菓子を投げ楽しませるシーンも。その他、“Twitterでバズった曲”として「いけないんだ、いけないんだ」を披露するなど、彼らのまっすぐなパフォーマンスに、心が浄化されたような感覚を得た。


 一方、コドモドラゴンはハヤト(Vo)が「やっとヴィジュアル系っぽい気持ち悪いの出てきたでしょ」と自虐するほど、スクリームや楽曲の激しさ、速さでこれまでの流れの全てをかっさらってしまう。「棘」から「RIGHT EVIL」まで、盛り上がるしかない楽曲達を武器に最初から最後までかっこよさ、強さを叩きつけていった。


 彼らに客席が圧倒された後に登場したのは、夕闇に誘いし漆黒の天使達。ヴィジュアル系と思われそうなバンド名だが、実態は“神奈川厚木発コミック系ラウドバンド”。この日のためにヴィジュアル系メイクを施したメンバーをよそに、千葉(Gt)は”V違い”のピーマン(=Vegetable)姿で登場。「はたらく君に贈る歌」では小柳(Vo)によるフリップ芸や、運転手のジェスチャー(顔の表情と右折時、左折時の動作が秀逸)など、あの手この手で笑わせる。「ウォウウォウイェイイェイ酒ナイト」では他の出演者が大勢登場し〈テキーラ ジン ウォッカ ウォウウォウイェイ〉の歌詞に合わせて全力ダンス。ワンマンかと錯覚するほどの一体感とひとつの到達点を見た。


 今年10周年を迎えたRoyzは、自己紹介ラップ動画でメンバー全員のポテンシャルの高さを見せつけてから登場。自称“B.P.Rイケメン代表”・昴(Vo)の美しい歌声と激しいサウンドの融合が心地よい「IGNITE」から始まり、ミディアムテンポのバラード「月ハ蜃気楼、遠ク」では切ない恋心をしっとりと聴かせ、激しいだけがヴィジュアル系ではない、ということを証明してみせた。


 ゴールデンボンバーは登場前に喜矢武豊(Gt)による「歌ってみた」動画を披露。彼らの人気が出たきっかけのひとつがニコニコ動画にあるため、このような動画を制作したことは至極自然なことだ。


 ステージに登場すると、鬼龍院翔(Vo)は「(今日の出演者は)全員かっこいいなあ、夕闇以外」と茶化し、歌広場淳(Ba)は大トリの己龍を「ラスボス」と称し、一層盛り上げるためにコールアンドレスポンスを先導。そして「YouTuberになりたーい」とぼやく喜矢武豊(Gt)と「YouTubeではASMR動画で癒しの効果音を聞くのが好き」とおすすめする樽美酒研二(Dr)の前フリを受け「抱きしめてシュヴァルツ」へ。間奏で喜矢武は回転する椅子に座り、YouTuberのように「高速回転をしながらギターソロを弾いてみた」を披露。頭に装着したカメラの顔面アップの映像もスクリーンに流れていた。そして、突如聞こえてきた川のせせらぎのようなASMR動画らしき音に会場全体が癒される、かと思いきや、樽美酒が裸でトイレに座った状態で登場。先ほどの音は川のせせらぎの音ではなく、樽美酒が用を足す音だったのだ。ラストには「女々しくて」で乱入した他の出演者と共に会場を存分に盛り上げた。


 夕刻に開始したフェスも遂に最終演目。“ラスボス”己龍が登場すると、黒崎が「百鬼夜行、我らに続け」と言い放ち演奏開始……かと思いきや沈黙が続く。そんな思わぬハプニングもあったが、「百鬼夜行」ではデスボイスが炸裂し、続く「朔宵」では黒崎とオーディエンスによる扇子が美しく舞った。そして和楽器の音色がメロディアスで心地よい「悦ト鬱」や、高速ながら圧倒的な演奏力の高さで魅せる「九尾」などを披露し、曲中にオーディエンスにウェーブさせる場面も。ラストの「天照」まで、この日出演したヴィジュアル系バンドの中でも最高級の存在感と威厳を見せつけた。


 最後は出演者全員がステージに現れ「繚乱レゾナンス」を演奏。この楽曲は出演者全員が参加する動画として事前に公開されていた。最後の最後までオーディエンスを楽しませようと準備をしていたことが伺えると同時に、こうした試みもイベント成功の秘密のひとつだと感じる。


 客席をバックに写真撮影をし、フェスは終幕。最後までステージに残った己龍の酒井参輝(Gt)がマイクをとった。


「夢は叶うんだなと実感しています。夢を追いかけている人はここに沢山いると思います。夢を追いかけている人は諦めずに追いかけてください、ありがとう」


 彼の言葉には、新しいことをひとつ成し遂げた達成感が表れていた。当日に到るまで様々な仕掛けを用意し、それが着実に実を結んだのを実感できたからなのではないだろうか。彼らを見て、また新たな音楽の楽しみ方に挑戦するアーティストが増えていく未来を感じた一夜だった。(白乃神奈)


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