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「病気ばかり診て、人間を見ていない医者」現役医師もがっかりした現実とは?

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2019年12月06日 07:00  AERA dot.

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写真大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
 患者の病気を治したくて医者になったはずなのに、なぜ医者は患者を見ず、病気ばかり診てしまうのか。京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師は、以前はそんな医者の姿をとても嫌だと思っていたけれど、いまは注意しないと自分がそうなってしまうことに気がつきました。自身の体験をもとに語ります。

*  *  *
「病気ばかり診て人間を見ていない」

 私たち医者に対して、ときどき耳にする批判です。

 どうしてそんなことになってしまうのか、医者になる前は不思議に思っていました。患者さんの病気を治したくて医者になったはずなのに、なぜ患者さん自身を見なくなってしまうのか。

 医者になって16年経過した今、うっかりすると病気だけを診てしまう。とても嫌だと思っていた医者の姿に、注意しないと自分がなってしまうことに気がつきました。

「病気のみを診て人間を見ない医者」は、特殊な人間だけが陥ることではなく、すべての医者に起こりうることなんだと、最近理解しています。

 はじめに違和感を感じたのは医学生の頃でした。

 医学生というのは不思議な存在です。医学を勉強し、知識は少しずつついていくのですが、まだ医者ではありません。言い方は厳しいですが、専門的な知識を身につけ始めた素人です。

 それでも、周りから医者と同じように扱われることがあります。患者さんからは医者の卵として声をかけてもらえます。

 ポリクリと呼ばれる病院実習は、医学部の5年生から6年生にかけて行われます。さまざまな診療科を1〜2週間ごとに回り、先輩医師や大学教員医師の傍らに付き添い、患者さんを一緒に診察します。

 カリキュラムによっては、大学病院の中だけでなく関連病院と呼ばれる地域の病院にも実習に行きます。

 私はとある病院の脳神経外科で実習をしました。数日間、病院に泊まり込み、緊急の対応も含めて勉強させてもらいました。

 私を指導してくれた先生はまだ30代と若く、仕事もテキパキとこなす優しい男性医師でした。ナースステーションでの看護師さんとのなにげないやりとりを見て、コメディカル(医療専門職)から信頼されている医者だということがすぐに伝わってきました。

 外来診察、手術、カンファレンスと怒涛の勢いで時間が流れ、あっという間に夜になってしまいました。夜も10時を過ぎ、医局のソファで一緒にカップラーメンをすすりながら、男性医師は翌日のカンファレンスの準備をしていました。

 クタクタになった私は「はやく帰りたい」と思いながらも、仕事のできる先生のもとで実習ができたことがとても満足でした。

 カタカタカタと勢いよくキーボードをたたく手が止まり、パソコン画面には手術予定の患者さんのCT画像を映し出しながら、男性医師は私に話しかけてきました。

「こんなに毎日忙しいと患者さんの顔を忘れちゃうんだよね」

「そういうもんなんですか?」

「うん、病院であいさつされても『誰だっけ?』と思うことがあるよ」

 私は複雑な気持ちになりました。

「だけどさ」

 先輩医師は続けます。

「脳のCT画像をみると誰だか思い出す。手術で見た脳の血管の走行は覚えている」

 そう言って笑いました。

 病気のことはしっかり診ているけど病人のことは見ていない。

 医者になり何年も経過し、同じような言葉を何度も耳にしました。病気を診れば思い出すけど、患者さんのことは覚えていない。

 コメディカルからの信頼も厚く、患者さんにも優しかった尊敬する医者の口から、まさかそんな言葉が出てくるとは思いませんでした。

 正直がっかりしました。

 しかし、医者になって気がつきました。学生実習のときの医者が決して特別だったというわけではないということ。多くの医者がそうなってしまう危険性があります。もちろん、私も。

 なんでもかんでも他人のせいにするのは良くないですが、人間を見なくなってしまうのは現行のシステムにも問題があると思います。

 一日に何十人と診察をし、そのまま休むことなく手術や当直を繰り返す労働環境では、患者さん個人と向き合う時間はおのずと限られます。

 また、もうひとつ「病気だけを診て患者さんを見なくなる」原因として私が考えているのは、医者同士で行うカンファレンスだと思っています。

 テレビドラマや映画などで、医者がカンファレンスを行っている場面を見たことがある人も多いでしょう。

 私たち医者がカンファレンスで話し合っている内容は、病気の診断と治療法です。

 診断がつかない病気に対して、血液検査の結果やCT画像などの臨床情報を共有し、医者同士が議論します。正しい診断が確実な治療につながります。

 診断と治療法を議論する時間がカンファレンスのメインになり、その患者さんの生活や価値観を確認し合って最適な治療を検討する時間はあまりとれません。全国を見回すと、そこまで話し合うカンファレンスは圧倒的に少ないと思います。

 医者が一生懸命に向き合うのは臨床データと患者さんの画像。「手術で見た脳の血管の走行は覚えている」と語ってくれた医者は、真面目で熱心にカンファレンスに参加していた結果でもあります。

 決して、カンファレンスがいけないと言っているわけではありません。医学情報は、一説では1カ月の間に約2倍になっていると言われ、医者が覚えなくてはいけない内容は指数関数的に増えています。カンファレンスの内容が、医学的内容に偏るのは当然のことです。

 それも踏まえて、患者さん個人をみるためには、まず多忙なスケジュールを解消することだと思います。じっくりと患者さん自身のことを考え話し合う時間をつくる必要があるのではないでしょうか。

 例えば、AIの進歩と医療現場への導入は医者の勤務時間を縮小できる可能性を秘めています。

 カンファレンスでの議論に、AIが導入されることで、より早く診断がつき、適切な治療法を見いだせる可能性があります。

 そうすることで、カンファレンスでの議論内容を病気のことだけでなく、患者さんの生活まで視野に入れた「病気も人間もみる内容」に変えることができるでしょう。

 もしかしたら、将来、カンファレンスに患者さんが参加することが当たり前になるかもしれません。これまで一般の方からすると難しかった医学の専門知識も、AIによる診断及び治療法の提案と専門家によるクオリティーチェックが入った状態では、患者さんも加わりやすいのではないでしょうか。

 AIが人間の仕事を代わりに行うことで、医療の現場が変わってくるのは確実です。あとは私たち医者が「どう変えるか」だと思います。

【おすすめ記事】「ニキビができない食事を教えてほしい」 皮膚科医の意外な答えと食事療法の意義


このニュースに関するつぶやき

  • 🤔…手術も医者も看護士もAIでよくない?…というか、仕事でAIに代われるものは代わって人間は新しい生き方を見出だした方が良くない?
    • イイネ!0
    • コメント 3件
  • そう考えると、お父さんの主治医の先生はすごくいい先生だったなぁ。ちゃんと患者を見てくれてた。ありがたかった。
    • イイネ!53
    • コメント 14件

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