ゲームが可能した、言葉を超えた恋愛描写 ラブストーリーとして観たい『ハイスコアガール』

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2019年12月07日 12:01  リアルサウンド

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(c)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールll製作委員会

 押切蓮介の漫画『ハイスコアガール』(スクウェア・エニックス)を原作とする『ハイスコアガール ll 』は『ストリートファイターll』(以下、『スト ll 』)を筆頭とする90年代のゲームネタが散りばめられたノスタルジックなアニメであると同時に優れた恋愛劇である。


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 1991年、小学6年生のハルオこと矢口春雄は、ゲームセンターで『スト ll 』をプレイする同級生の大野晶と出会う。財閥のお嬢様で成績優秀な大野さんは、クラスメイトから慕われていたが、どこか孤立しているように見えた。勉強もスポーツもできない劣等生のハルオにとって、大野さんは自分が輝ける聖域であるゲームセンターを荒らすライバルだったが、大野さんにとってのハルオは、習い事ばかりの忙しない毎日の中でゲームセンターだけが息抜きの場所であった自分と遊んでくれる唯一の存在だった。


 大野さんは無口で喋らないのだが、ちょっとした表情の変化や息遣いによって彼女がハルオのことをどう思っているのかが、じわじわと伝わってくる。対してハルオはゲームのことしか頭にないバカな男の子。


 ゲームを題材にしたイギリス映画『小さな恋のメロディ』とでも言うような幸福な小学生時代を過ごす二人。しかし、大野さんはアメリカで暮すことになり、二人は離れ離れになってしまう。


 それから二年後の1993年。中学2年生となったハルオは、大野さんと再会する日のために『スト ll 』の特訓に励む日々を送っていた。


 そんなハルオの前に、日高小春が現れる。熱中できるものが何もない日々を送っていた小春は、ゲームに没頭する同級生のハルオのことが気になっていた。ある日、日直として、反省文を書くために放課後に居残りを命じられたハルオを待っていた小春は、帰り時間が遅れたため、吹雪に巻き込まれてしまう。


 傘がないため困っていた小春はハルオに誘われて、はじめて駄菓子屋に足を踏み入れる。雪が止むまで駄菓子屋にある筐体で『スト ll ダッシュ』(ストリートファイターll’ -CHAMPION EDITION-)をプレイした小春はハルオと仲良くなり同時にゲームにも興味を持つ。


 実家の酒屋にゲームが置かれたことを話したら小春の家に通うようになったハルオの姿をみているうちに、どんどんハルオのことを好きになっていく小春。しかし、ゲームにしか興味がない鈍感なハルオは小春の気持ちに気づかない。


 それから一年後の1994年。大野さんがアメリカから帰国する。


 物語はハルオと大野さん、そしてハルオのことが好きな小春の三人の恋愛模様が展開されるのだが、中学生編のポイントは小春のモノローグだろう。ハルオを見ているうちに自分の恋心に気づいていく小春。彼女の切ないモノローグで進んでいく。物語はまるで少女漫画のようで、か細い声で語られる心情はとても切ない。


 視聴者はすでにハルオと大野のゲームを通した深いつながりを知っているので、いずれ大人になったら再会して二人は結ばれるのだろうと漠然と思っている。そんな中、小春という第二のヒロインが現れるのだが、勝ち目はないことはわかっているのに、ハルオに恋心を抱いてしまう小春の姿を延々と見せられるので、視聴者としてはなんとも切なくなってしまう。


 恋愛アニメとして本作が面白いのは、この三人の関係性だろう。考えていることが子供のハルオと、何を考えているのかわからない大野さん、そして心情がダダ漏れの報われない小春の三角関係は、ひたすら理不尽で身悶えする。


 見方を変えると、ハルオにとっては実に都合のいい夢のシチュエーションでもある。ただ、それが嫌味にならないのは、ハルオがバカだけど基本的にすごく良いやつだからだろう。大野さんにとっても小春にとっても、ハルオはゲームという遊びの世界を通して、勉強ばかりの窮屈な日常の外側を見せてくれる存在だ。一方、ハルオにとっては、大野さんと小春は自分の世界を理解してくれる異性である。90年代当時ハルオと同じような学生生活を送っていた劣等生の自分は自分の趣味を理解してくれる同好の士(できればかわいい女の子)を求めていた。『ハイスコアガール』を見ている時に、身悶えするような懐かしさを感じるのは、当時のゲーム文化だけでなく、思春期の自分が抱えていた(大野さんや小春のような)自分の趣味を理解してくれる女の子と恋に落ちたかったという妄想を思い出させてくれるからだ。


 現在は1996年となり、高校生になったハルオたちの姿が描かれている。小春のハルオへの報われない恋心は極限まで達し、いよいよ大野さんに直接対決を挑む。それがゲーム対決になるのが本作ならではの展開だが、台詞がないからこそ大野さんのゲームプレイには彼女の感情が強く現れている。ゲームキャラクターがハルオに話しかけて背中を押してくれる場面が多用されていることからも明らかなように、本作ではゲームプレイの描写自体がハルオたちの心象風景となっている。ゲームが少年少女の内宇宙として心情と重ね合わされているからこそ、言葉を超えた恋愛描写が可能となっているのだ。


(成馬零一)


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  • ☆ レジュメ乙!<(`・ω・´) 以上「ハイスコアガール」1話から22話までのまとめ。 どうしたら、こんなに簡潔に纏められるんだ?
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