BMW「1シリーズ」の前輪駆動化は正解だったのか

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2019年12月10日 11:32  マイナビニュース

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BMWの「1シリーズ」がフルモデルチェンジし、FR(後輪駆動)だった駆動方式がFF(前輪駆動)に変わったことは、多くの人(主に自動車ファン)の間で話題を呼んだ。結局のところ、駆動方式が変わったことで、1シリーズは退屈なクルマになってしまったのか。モータージャーナリストの清水和夫さんから回答が届いたので、ご紹介したい。

○テクノロジーの進化でクルマも変わる

時代は多様性。その勢いは留まることがなく、多様性は個性化を加速させ、新しいライフスタイルが生まれている。その背景に、テクノロジーが存在することは見逃せない。例えば2007年に登場したアップルのiPhoneによって、どのくらいのスケールで私たちのライフスタイルが変わってしまったのか。通信技術の劇的な進化により、スマホブームが到来した。

自動車はどうか。携帯電話よりも設備投資が大きい重厚長大な産業なので、大きく変化することは難しいが、最近は自動化や電動化の波が押し寄せている。しかし、それだけではない。実は、エンジンをどのように配置し、どのタイヤで駆動するのかというクルマの基本、つまりは「パッケージ」にも変化が訪れているのだ。

例えばモーターによる四輪駆動車。トヨタ自動車の「プリウス」は、エンジンを横置きで搭載するFFの駆動方式をハイブリッド化しているが、最近はリヤにモーターを配置するだけで、簡単に四輪駆動車にアップデートしている。センタートンネルにプロペラシャフトがある従来の四輪駆動よりもはるかにシンプルだ。もし、モーターを使う四輪駆動車をFRで作ろうとすると、かなり複雑になるので、重量とコストが増す。なぜなら、フロントのエンジンルーム内にはエンジンが居座っているので、前輪を駆動するためのモーターが配置しにくいからだ。

高級車と大衆車は、エンジンの搭載位置や駆動方式で技術的には差別化している。例えば、FRは高級車に多く見られる駆動方式であるが、大衆車にはFFが多い。特に軽自動車やコンパクトカーでは当たり前の駆動方式となっているところから、FFの走りは退屈であると思われてきた。

多くのFFは、エンジンを横に置くことにより、クルマの全長を長くしなくてもキャビンを広く使えるというメリットがあるので、ファミリーカーとしては都合がいい。一方、FRはFFよりも歴史が古いものの、大きなエンジンを縦に搭載し、後輪で駆動する方式は大型車に多く、技術的にはあまり新しいものがない。そんな歴史があるので、FF車は走りが退屈だと思われがちだが、フランスやイタリアには、FFをいかした楽しい走りの「ホットハッチ」(スポーティーなハッチバック車)が多いのだ。

BMWはFR車を作る天才だが、「ミニ」の例を見るまでもなく、FF作りもうまい。早い話が、クルマの運動性能の基本は、FRかFFかという駆動方式ではなく、重心や慣性モーメントで作られるのだ。

「前後の重量配分は50:50が理想」という定説は、あまり正しくない。バンパーの先端にウェイトを置いて50:50を達成しても、意味がないからだ。動的に重量配分を考えるなら、慣性モーメントという物理量が大切になる。つまり、重いモノは、クルマの中心から遠いところに配置しないということが重要なのだ。

その意味で、クルマの本質を知り尽くしたBMWは、FFでも楽しいクルマを作ることが可能だ。ということで、FF化したBMW「1シリーズ」は、ファミリーカーとしての使い勝手が向上している上に、FRで培った楽しい走りがちゃんと両立している。「駆け抜ける歓び」を社是とするBMWは、駆動方式やエンジンの搭載位置にとらわれず、楽しい走りを提供しているのだ。BMWの哲学の本質は駆動方式ではなく、ドライビングが楽しいかどうかなのである。

○著者情報:清水和夫(シミズ・カズオ)
1954年、東京都生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活動を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通。著書は日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。内閣府SIP自動走行推進委員の構成員でもある。(清水和夫)
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