『ザ・ノンフィクション』87歳認知症の母を介護する95歳の父「ぼけますから、よろしくお願いします。 〜特別編〜」

1

2019年12月10日 20:22  サイゾーウーマン

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

サイゾーウーマン

『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。12月8日の放送は「ぼけますから、よろしくお願いします。 〜特別編〜」。認知症になった87歳の母と初めての家事をこなしながら介護を続ける95歳の父を、映像ディレクターの娘が撮影し続けた1200日の記録。同作は2018年に映画公開されており、文化庁映画賞「文化記録映画部門」大賞を受賞。ザ・ノンフィクションでは再編集版が放送された。

あらすじ

 東京で映像ディレクターの仕事をしている信友直子は広島・呉市への帰省のたびに両親の様子を撮影していた。母、文子の様子がおかしいと感じ始めたのは7年ほど前。アルツハイマー型の認知症と診断された文子は、当初、家にリンゴがあるのにまた買ってきてしまう程度で、バス停まで直子を一人見送ることもできたが、年々、その症状は重くなっていく。

 かつて直子が乳がんになったときは、70代後半で上京し、涙に暮れる直子をユーモアを交え励まし、家事をこなしていた文子だが、その姿は見る影もなく、洗っていない洗濯物の上で寝転がったり、小さい子どものような癇癪を起こし、またそんな自分への失望で「死にたい」と口にするようにもなる。だが、老老介護をする父・良則、ヘルパー・道本さんのもと、自宅で生活を続けている。タイトルの「ぼけますからよろしくお願いします。」はすでに認知症の進む文子が、17年の正月に直子へかけた言葉だ。

ヘルパー道本さんの偉大さ――介護における「家族」と「他人」の役割

 認知症の文子と、認知には問題がないものの腰が曲がり、近所のスーパーへの買い物も休み休みでないとできない良則。そんな二人だが、ヘルパーに介護へ来てもらうことに抵抗する。

直子「介護保険はかけよるんじゃけん、要るときはしてもらえばいいんよ」
良則「男の美学があるんじゃ」
文子「それで私が忙しゅうなる」

 この世代の人たちには、「人様に迷惑をかけたくない」という気持ちが特に強いのだろう。しかし、そんなところへ来たヘルパーが道本さんだったことが、落合家の幸福だったように思える。映画版『ぼけますから、よろしくお願いします』は文化庁映画賞受賞作だが、助演女優賞を贈るとしたら道本さんだ。

 信友家に入った道本さんは洗濯にこだわりのある文子を立てて、自分ひとりでやった方がよほど早いであろうに、助手に徹する。終わった後は「お母さんのやり方見せてもろうたわ、勉強になるわ 」とうなずき、横の文子は得意げだった。道本さん、かなりのやり手だ。

 信友家にとっては、道本さんの家事手伝いや介護支援という“実務”は大いに助かったと思うが、何より、道本さんという「他人」が家に来ること自体が、信友家の空気を和らげていたと思う。道本さんが来るときに母は髪を梳いていた。他人が来ることでちゃんとしなくては、という張り合いができたのだろう。

 さらに番組後半、文子が癇癪を起こしたことがあったが、来訪した道本さんは文子の背中をよしよしとさすり、文子は落ち着きを取り戻していた。その後、仕事を終え帰る道本さんに、文子は「また来てね」と、良則は「大ごとじゃねえ、あんたも」と声を掛ける 。これは最大級の「ありがとう」に思えた。あの場で、家族三人だけだったら重たい空気が続いただろうが、道本さんという他人がいたおかげで風穴が開いたように見えた。

 家族だからできることもあれば、逆に他人だからできることもある。介護職従事者は家族にとっていい意味で「他人」であり、かつ認知症など難しい症状を持った人の扱いに長けた「プロ」なのだと感じた。こんな偉大な人たちなのだから、彼女・彼らが「働いていて良かった」と思えるような社会であってほしい。

初めて見る老人が「両親」――『ぼけますから、よろしくお願いします。』が持つ役割

 都市部に核家族で暮らしていると、祖父母との関係が希薄なまま大人になる人も多いだろう。そうなると、初めて目の当たりにする老人が「自分の年老いた両親」になる。もしきょうだいがいれば老いた両親に関する悩みを分かち合う相手が増えただろうに、一人というのはなかなかヘビーだ。(介護方針をめぐり双方の配偶者まで加わっていがみ合い、押し付け合い、冷戦状態になるきょうだいもいるだろうから、一概にいたほうがいいとは決して言えないが)。

 そういう人にとって、『ぼけますから、よろしくお願いします。』の映像が伝えてくれることは計り知れない。淡々と認知症の現実を伝えており、明るい話ではないのだが、現実を知ること自体が救いになるのだと感じた。

    ニュース設定