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インセンティブを求めて異業種に転職した「辞めジニア」の告白

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2019年12月11日 07:03  @IT

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 「エンジニアとして生涯活躍していきたい」と考えている読者に、問いたい。「本当にエンジニアでいいのか?」と。あなたに合っている職業は本当にエンジニアなのかと。



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 これからエンジニアを目指す学生、今後のキャリアに悩んでいる若手エンジニアに、若手エンジニアの経験を通じてキャリアを構築する際に考えるべきこと、取るべきアクションなどをお伝えする本連載。今回はあえて「エンジニアを辞めた女性」にお話を伺った。



 文系卒の彼女はなぜIT業界を就職先に選んだのか、就職前と後でどのようなギャップがあったのか、そして彼女は何に絶望し、エンジニアを辞めたのか――。



 現在は全くの異業種/異職種で働く彼女は、「こんなはずではなかった」「就活や転職活動のときに、もっと●●をしていれば」といった後悔をする人を一人でも減らしたいとの思いから、今回の取材に協力してくれることになった。



●石油を掘りに行く? それともソフトウェア開発する?



 現在29歳の吉田恵子さん(仮名)は、国際政治経済学部卒。レポート作成や調べものをするためにPCを所有してはいたものの、Microsoft Excelすらまともに触ったことがなったという。



 「社会政治学でODA(政府開発援助)を学ぶうちに、社会インフラに関わる事業に携わりたいと思うようになり、漠然と、飛行機を作ったり、石油を堀りに行ったり、そういう職業に就きたいと考えていました」



 さらに勉強を進めていくうちに、重工業や石油エネルギー関連企業だけではなく、ITもさまざまな分野で社会を支えていることを知った。



 そして就活シーズンを迎え、当初の目標通りエントリー先の7割に重工、石油エネルギー関連企業を選んだ。そして、残る3割はIT企業にエントリーした。



 「ITも重要な社会インフラであることを知ったのに加え、IT業界は教育や研修がしっかりしていると聞いたので、手に職(技術)が付けられるかな、と。プログラミング技術を身に付けたら、将来、結婚や出産などで会社勤めを続けられない状況になっても、フリーランスで働けるかもしれないと考えたんです」



 最終的に彼女が選んだのは、ソフトウェア開発会社だった。



 「業界研究を重ねていくうちに、『イチからものを作り上げていく』という部分に興味を抱くようになりました」



 ここで注意したいのは、彼女が行った「業界研究」の内容だ。インターネットや書籍で調べたり、就活仲間の友人や同期から話を聞いたりしたそうだ。つまり、IT業界に詳しい人、IT業界で働いている人から話を聞いていないため、全てが「想像」でしかなかった。



 ひとくちにIT業界といってもさまざまな種類の会社があること、職種もいろいろあり、彼女がなると思っていた「プログラマー」以外の職種もあることなど、もちろん知らなかった。



 誰しも経験があると思うが、「知らない」ことを自力で調べても、一定の範囲にとどまり、全体像を理解するのは難しい。全てを「イメージ」で進めてしまった吉田さんは、LINEやヤフーなどは「チャラい」と避け、大手企業の下にぶら下がっている「チャラくない」企業に応募した。



 「会社の立ち位置を確認すればよかった」と、吉田さんは当時のことを振り返る。会社のパワーバランスで、やることやできることが変わることを、就職後に嫌というほど思い知ることになるからだ。会社を探す基準も、研修の有無などの「条件」ばかりで、「何をしたいか」の視点が欠けていたと後悔する。



 ともあれ、メーカー系大手と中堅の2つのソフトウェア開発会社から内定をもらい、あえて中堅企業の方を選んだ。



 「中小企業は組織として小回りが利くので、分業化がハッキリしている大手よりも、幅広い経験が積めるのではないかと考えたからです」



 入社後、3カ月間の入社時研修を受け、論理的思考、Java、JavaScript、HTML、CSSなどをマスターし、Webアプリケーションを開発するために必要な基礎的なスキルを身に付けた。



 ところが、吉田さんが配属されたのは、プログラム開発チームでなく、基幹システムの導入チームだった。同チームが扱うのは、さまざまな機能が盛り込まれた既存パッケージソフトウェアで、顧客のビジネスニーズをヒアリングしながら、ソフトウェアの機能設定を行っていく。プログラムを書くことはほとんどなかった。



●「自分のインセンティブ」はどこにある?



 しかし、そこは根が明るく頑張り屋の吉田さん。めげることなく、パッケージ導入の仕事に全力で取り組んでいった。



 「おかげで、担当するパッケージシステムはもちろんですが、会計基準、PL(損益計算書)/BS(貸借対照表)、簿記、連結決算など企業会計に関する幅広い知識と、Excelに関するかなりのスキルが身に付きました(笑)」



 特に連結決算については会計士が扱うような内容も出てくるが、書籍やユーザー向け研修に参加して、苦労しながら知識を養っていった。



 吉田さんが今でも印象に残っているのは、ある大企業へのシステム導入プロジェクトだという。それまでは1プロジェクト5〜6人のエンジニアで工期も数カ月という規模のものが多かったが、同プロジェクトは3年で80人近いエンジニアが取り組む大規模なものだった。



 「グループ会社の多い特異な業界で、連結決算対象の会社も多く、導入にかかる準備やカスタマイズ要件がふんだんにある、ハードなプロジェクトでした」



 吉田さんが転職を考えるようになったのは、次のプロジェクトに移ってからのこと。入社5年目を迎えたころだった。苛酷(かこく)なプロジェクトから外れて考える余裕ができた彼女は、自分の価値観と今やっていることとのギャップに気が付いてしまったのだ。



 「基幹システムは動いて当たり前であり、動いたことに対する評価はありません。誰かの役にたっている感が乏しくて、モチベーションを維持するのが難しかったんです。また、パッケージ導入の仕事は、イチからプログラミングしていくソフトウェア開発に比べ、『オリジナリティーが求められない』というのもありました。担当が私でなくても、パッケージの機能がそろっていれば、誰がやってもそれなりの結果が出ます。そのような仕事で、『仕事に対する自分のインセンティブはどこにあるのか?』と深く考えさせられました」



 パッケージソフトウェアは多くのユーザーニーズにおける最大公約数をあらかじめ機能化したものと考えれば、「オリジナリティーが求められない」のは、至極当然である。業務がオリジナリティーに富む=属人的になるのを避けるのも、会社や組織の在り方として間違ってはいない。しかし、彼女が学生のころに夢見た「ソフトウェアエンジニア」は、「自分のプログラミングテクニックで、難しい仕様を実装する」ことや「自分のアイデアを具現化し、画期的なソフトウェアやサービスを提供する」ことだった。



 パッケージ導入でも、スキルの高いエンジニアが導入する場合と、そうでないエンジニアが導入する場合とでは、結果に明確な違いが生じる。もし、既存システムとのつなぎ込みなど、パッケージの機能を超える部分で、オリジナルの開発要素が多分に求められていたら、吉田さんの選択も、少しは違ったものになったかもしれない。



 ただし、その場合でも、吉田さんが最も気にした「動いて当たり前」というユーザーの受け止め方は、大きくは変わらなかっただろう。自分の力で顧客により良い結果を提供していきたい――彼女は、そんな思いが強かったのだ。



 とどめとなったのは、年の近い先輩の退職だった。



 IT業界の多分に漏れず、その会社も女性エンジニアが少なかった。部署内は年上の男性ばかりの年齢逆ピラミッド状態。ロールモデルとなる若い女性のエンジニアがいない中で、「この逆ピラミッドを唯一の若手である私が支えなければいけないのかと考えたら、正直ゾッとした」と、吉田さんは当時の心境を話す。



●価値観を起点に仕事を探す



 就活時の反省を踏まえ、転職では「価値観」を大切にすることにした。



 「興味のあることをしよう」と価値観を深堀りしたところ、「人と関わる仕事をしたい」という視点が見つかった。さらに「自分は何が好きなのか」あらためて考えみたそうだ。そこで出てきたキーワードが「映画」だった。



 学生時代から映画が大好きで、これまでにも、いろいろな映画を見てきた。だから、「次の仕事は自分の好きなことに振り切ってみよう」と思ったのだ。



 就活時にイメージで動いた反省を踏まえ、今回は業界研究を徹底的に行った。最初は、映画の魅力をより多くの人に伝える「映画会社や配給会社の宣伝部門」に就きたいと考えたが、そこは狭き門であることが分かった。そこで選択基準に加えた新たな切り口が「PR」だった。



 ターゲットは「映画にも関われる」総合PR会社だ。



 映画会社や配給会社のイベントをPR会社が企画したり運営したりするケースは案外多い(ということも、業界研究で分かった)。映画のPRは間口が狭い(これも業界研究で分かった)ので、最初は映画以外の業種を担当することになるだろうが、そこでオリジナリティーのある「自分ならではの仕事」を積み重ねていけば、「仕掛け人」として評価を受け、いずれ映画のPRにも携わるチャンスがあると踏んだのだ。



 希望通り総合PR会社に転職した吉田さんは、今「仕事がとても楽しい」という。PRの対象が成功するかどうかは仕掛け人次第。PRは、吉田さんが求める「オリジナリティーを発揮でき」「自分のインセンティブを手に入れやすい」仕事だったのだ。



 ところで、エンジニア経験は、今の仕事にどれぐらい役立っているのだろうか。



 「PRの仕事は、いつ製品やサービスが発表され、どのようなプロモーションをどこで展開するのかなどにより、大勢の人間が動き、工程表やチェックリストが欠かせません。エンジニア時代にスケジュールやテスト項目の洗い出しで使い込んでいたExcelのスキルは大いに生かせています。仕事に必要な資料を作るスピードも、他の人より速いですね。論理思考、交渉力、分析力、状況把握力、質問力――全てエンジニア時代に培ったものです。システム周りに詳しいのも強力な武器です。社内情シスには決して負けません。いつもこちらの要求をほぼ100%通せます(笑)」



 新卒時からPR会社に就職した方がよかったのではないか、遠回りして正直後悔しているのではないか、と意地悪な質問をしてみた。



 「エンジニアの経験がなければ、PR会社で働くという解は見えてこなかったと思います。その他の選択肢は石油堀りや飛行機づくりでしたから(笑)。ただ、今思うのは、就活のとき、入社後に自分がどのような仕事をするのかもっと調べておけばよかった。先輩に話を聞く、インターンで体験するなど、手段はいろいろあったのですから。



 最初にエンジニアを選んだのは間違いではありません。いろいろな経験ができましたし、IT業界は女性が働きやすく選択肢が多い業種だと思います。それでもエンジニアを辞める選択をしたのは、20代のキャリアはいろいろチャレンジしてみたらいい、と思うからです。試してみて、違うと思ったら動く。失敗ありきぐらいの軽やかさがあってもいいんじゃないかって思うんです。そういう意味では、転職時期はもう少し早くてもよかったかもしれません」



 もし、あなたが就活や転職活動中ならば、会社概要や条件だけではなく、自分が入社して働く具体的なイメージを持つとよいだろう。そのためには、OB訪問OG訪問も大切だし、目指す会社でなくとも、同業種に勤めている人からの話も聞き、憧れの仕事の長短を多角的に分析しておくことが大切だ。



 そして、今回の吉田さんのように「辞めた人」からの話も聞くと、理想と現実のギャップを最小化できるかもしれない。


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